昨夜の話だ。
深夜、タクシーで帰宅中、環七から右折したところで、突然、車が止まった。
どうしてこんなところで…と驚いていると、おもむろに窓が開き、警官が顔を覗かせた。まだ若い、つるんとした顔の警官だった。
「なんで止めたかわかりますか?」
嫌味な言い方をするものだ。
警察学校でそういう言い方をするよう教わるのか。
僕は車を運転しないので、
どんな違反があったのかはよくわからないが、
一時停止に関するどうとかこうとかだった。
しかし運転手は納得しておらず、不穏な空気となった。
間に挟まれながら、どうしたものかと思ったが、とりあえず言ってみた。
「急いでるんですけど」
運転手も番号を控えておいたらいいだろ、後で行くからと答える。
まだ何かブツブツ言っていたが、「急いでるんですけど」と繰り返すと、
警官の姿が僕の前から消えた。
もういいだろと思った運転手が車を出すと、
警官が全速力で走って追いかけてきた。
「なんで車を出すんだ!」
てっきりタクシー会社名と車番をメモするのかと思ったら、
後ろに回ってナンバーを控えようとしていたようだ。
「あの、メーターが上がっちゃうんですけど」
そこでようやく警官が気づいたようだ。
「とりあえずメーターを止めてください」
あまりの段取りの悪さに、なにか言いたくなり、ちょっと言ってみた。
「あなたはさ、どこの誰?」
そんなこと聞かれることがないのか、驚いた表情になって警官が答える。
「北沢署の◎◎です」
聞いた後に思った。
「名前なんて聞いて、俺、どうするつもりなんだ?」
客が乗っているタクシーが交通違反を犯した時、
警官はどうするのが正解なのだろうか。
たぶん、マニュアルがあるはずだ。
それにしても。
運転手曰く、
「あの場所は一時停止違反が多い。実は自分も過去にやってしまったことがある」
だから、あんな真夜中に自転車で待機しているんだろうなあ。
違反者を捕まえると小銭がもらえるのかなあ。
その正義感、もっと他のことに使った方がいいと思うのだが。