本日の映像は、漆で書いた「根付駒」。
根付にしようとしていた手元の1枚ですが、今日はこれを使って、少しテストをしました。「漆で書いた文字の耐久度」のテストです。
「盛り上げ駒」や「書き駒」の漆の文字は飛んだり、すり減ったりして、それが怖いと思っている人が多いように思います。
それは正しいことなんでしょうか。
過去に実際に漆が飛んだ駒を見たり聞いたりしたことがあるからで、事実、そのような「駒」がありましたし(今もあるかもしれません)、時にはそのような古い駒を頼まれて直したことが何回かありました。
原因は何か。
それを考えたことはありますか?
「盛り上げ駒」も「書き駒」も同様で、使った材料が良くなかったり、工程が間違っていたからです。
例えば、漆が木地にしみ込まないように使う「目止め剤」。
昔(明治から昭和の中期ごろ)は、接着剤の一つ「膠(にかわ。牛骨から作る)」や「シェラックニス」が良く使われました。
しかし「膠」は、100年もたつと接着力は全くなくなり、古い「彫り駒」の漆がポロポロ剥がれ落ちるのはそのため(これはよく見ます)ですし、「シェラックニス」は、もともと漆との食い付が悪くその上に塗った漆が剥がれやすく、出来たときからトラブルを内在しているのに、それを知らないまま惰性的に作り続けたことで起きたトラブルなのです。
今は「水性ボンド」を使う人もあるようですが、これも湿気で元に戻る性質があり、使うのは考え物です。
話を元に戻して、今回のテストは文字の漆をサンドペーパーで何回も繰り返し擦る方法でした。
具体的には、盛り上がった王将の漆文字(王の辺り)を、小さく折りたたんだ1500番手のサンドペーパーで15分ほど擦り続けて、これは、その結果です。
これを見ると、右上に写っているサンドペーパーはヨレヨレですが、漆の文字はほとんど原型を保っていて、ビクともしておりません。
むしろ、駒全体と文字に落ち着きが増したような気がします。
15分、つまり900秒は結構長い時間でした。
その間、カウントを1から100回まで数えながらゴシゴシ。これを何回繰り返したかは覚えきれませんでしたが、20回は繰り返したように思います。
これを計算すると100✕20で2000回。ゴシゴシ、サンドペーパーで摺り続けたことになります。
実戦の対局で、一つの駒を1局当たり最大20回動かすとして、1000局分に相当しますが、いかがでしょうか。
「盛り上げ駒」も「書き駒」も同様で、シッカリと正しい工程で作った「駒」は、多くの人が考えているほどヤワ(軟)ではないのです。
昔、こんなこともありました。以下は、「KOM」という奈良の工芸作家たちで、展示会をしたときの話です。
私は、何組かの「盛り上げ駒」を出品していたのですが、仲間内には随分ヤンチャな人もいて、それがこともあろうに、展示している私の駒を一枚、手にして石造りの壁に「パンパン」と叩きつけたのです。
とっさに私は思いました。
「ハハーン。この男はこうすることで私がどのように反応するか確かめようとしているな。その手に乗るものか。無関心を装って好きなようにさせてやれ。幸い壁は凸凹の無いピカピカの大理石だし、この駒はその程度打ち付けられようが損じる軟(やわ)ではない。放っておけ放っておけ、その内、あきらめてやめるだろう」。そう思ったのでした。
話を戻して。
くどいようですが、もう一度言います。
「しっかりと間違いなく作られた駒は、漆が飛ぶことはありません。ことさらに腫物を触るようにではなく、普通に慈しみの心でどんどん使って欲しいと思います」。
以上です。