誰も来そうにない静かな昼下がり
冷麦を食べたあと
卑弥呼より届けられたCDを聴く。
永井荷風の『墨東綺譚』の全編である。
大正から昭和初期の玉の井が舞台の小説。
パリに遊び モーパッサンを好み
ボヘミアンネクタイのハイカラ紳士。
小説では東京下町の風景と
おおらかな人情がよく描かれており
現代よりも貧しい時代にありながらも
正直でゆたかな暮らしぶりが
うらやましくも思える。
朗読は俳優の神山繁氏だが
ちょっと早口なのが惜しまれる。
隣りの時計屋さんから
リンゴ酢に漬けた新ショウガを戴いた。
ひとくち齧ると
夏がひしゃげて涼風が体の芯を吹き抜ける。
鳴きやめてちちろの闇の深まりぬ