ゆうべ奇妙な男がやってきた。
顔の左半面に髭を剃り残し
「時間がない 時間がない」 と おろおろしている。
歳はわたしよりも二つ三つ上だろうか。
ネクタイまで締めて
すっかり出かける用意はできているようだが・・・・
焦っている。
「車で送るから心配するな」
「片方の髭剃ってやるからじっとしていろ」 と
剃刀を男の頬に当てるのだが
不思議なことに手ごたえがない。
水面に映る顔のように掴みどころがない。
わたしのほうがおろおろしていると
男はわたしのBMWを持ち出して来て
勝手に何処かへ行ってしまった。
呆然としているわたし。
男の消えたあと
幽かにダンヒルの香りが揺れる。
・・・・・・親父か!?
時計の針は午前3時。
バナナをたべてもういちど寝る。
玩具のやうなおはぐろの飛翔かな