活版印刷紀行

いまはほとんど姿を消した「活版印刷」ゆかりの地をゆっくり探訪したり、印刷がらみの話題を提供します。

想説/活版印刷人あれこれ2

2009-08-08 14:54:46 | 活版印刷のふるさと紀行
 目の前の和装本の山にです。

 そして、「これは美しい」思わずひとりごとをいってしまいました。
 最初に手にしたのは、真白い和紙のページに上から下へと何本も罫線が引かれていて、その罫線と罫線の間に四角っぽい文字が整然と並んでいる本でした。
 いままで自分が親しんで来たどんな種類の本とも違う文字の力強い構成、和紙を袋とじにして、手触りのいい本にしている軽快さ、とくにアルファベットの文字構成を見慣れている目に、いかにも力強く、新鮮で美しく映ったのです。

 ヴァリニャーノは口之津に着いてからローマやインドでは目にしたことのないいろいろなものに接しました。だからたいていのことには驚きません。
 到着直後には、犬にしても、馬や牛にしても日本で見かけるのが、あまりにも小さいのに驚かされたものでした。
 つい、つい、「神が日本人のサイズに合わせてお創りなった」というポルトガル人修道士の冗談を真に受けたくなったほどです。

 二冊目に手を伸ばしました。こんどの本には罫は入ってはいません。一冊目よりも大きな文字が並んでいます。仏教の経典かもしれないと見当はつけたものの、絵や装飾が入っていないので違うのでは思ったりしました。
 「そうか、私のつとめは、まず、日本の本を知ることだ」
 ヴァリニャーノは日本人の同宿を呼んで、冊子の山を自分の居室に運び込ませました。じっくり見てみたくなったのです。
 彼にはどれもが写本ではなくて、「木版」で印刷されていることはわかりました。「そうだ、日本での印刷を知らねばならない」、彼が次に考えたのがこれでした。彼は日本にこんなに立派な印刷物があるとは予期していませんでした。活版印刷誕生以前のヨーロッパと同じように、まだ、「写本」時代にいると想像していただけに、これは、うれしい現実でした。 

 
 
コメント
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする