活版印刷紀行

いまはほとんど姿を消した「活版印刷」ゆかりの地をゆっくり探訪したり、印刷がらみの話題を提供します。

想説/活版印刷人あれこれ18

2009-08-27 07:58:49 | 活版印刷のふるさと紀行
 祇園精舎の鐘の聲、諸行無常の響きあり。娑羅雙樹の花の色、盛者必衰のことはりをあらはす。おごれる人も久しからず、只春の夜の夢のごとし。…
 ご存知、『平家物語』です。
 ヴィセンテの朗々とした張りのある声が教室に響きます。そのかたわらで、筆に墨をふくませては短冊に文字を書いているのが父の養方軒です。

 これが、ロドリゲスの進言を容れて親子で文字調べが始まった日の風景です。場所は臼杵の修練院の一室、大友宗麟の蔵書から古写本の『平家物語』12巻を借り出して始めました。
 当時、『平家物語』は読む読み本だけではなく、琵琶法師が琵琶の調べに乗せて語り歩くための語り本も多く、多くの人の目に触れていることからいえば、いまのベストセラーでした。
 このベストセラーの中に出てくる漢字を一字ずつ拾って短冊に記録する。手間暇のかかる手法ですが、どんな文字が使われているのか、頻出度の多い字にどんな字があるかを調べるのには、最適と考えてのことでした。
 事実、一日だけで、「者」とか「天」とか、「人」とかいう文字を記した短冊は紙縒りで綴じるほどになりました。養方軒は拾い出した数の多い文字から版下を作ることに決めました。

 しかし、あまりにも単調な作業で果たしていつ仕上がるかと心配しましたが、ほどなく、興味を持った修練院の日本人神学生が何人も加わってくれることになりました。彼らも活版印刷人予備軍といってもいいでしょう。
 ホッとした養方軒は字体とか書体とか、実際に国字の版下を書くための調査にかかりました。ミヤコでさんざん聞かされてきた彫字のことを考えると、これも版下づくり以前に解決しておきたい重要な問題でした。
 


コメント
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