私的図書館

本好き人の365日

七月の本棚3

2003-07-22 19:42:00 | 荻原規子
勾玉って知っていますか?

珠のように丸くはなく、ややつぶれて、耳のように曲がった形をしている。主に瑪瑙や翡翠などで作られた古代の装身具。

三種の神器の一つにも八尺瓊曲玉(やさかにのまがたま)がありますね。

光あるところには、かならず闇がある。
今回ご紹介する本は、そんな光と闇に彩られた物語。
荻原規子の

『空色勾玉』

です。

この本を紹介できることがどんなに嬉しいことか♪

神代の上代、神秘と荒々しさが混在する古代の日本は、私の憧れの世界なんです。

主人公の狭也(サヤ)は、幼い時に村が焼かれ、両親を殺された過去を持つ十五歳の少女。時折その時の悪夢に悩まされるものの、今では拾われた羽柴の村で闊達な少女に育ち、友達と”かがい”(男女が互いに思う人に歌を送り合う、ま、集団告白タイムみたいなもの)の話題で盛り上がる。しかし、その”かがい”の夜、サヤの運命は大きく動き出します。

「闇(くら)の一族」の「水の乙女」である証、空色に輝く勾玉を渡されるサヤ。

闇の気配を追って現れた「輝(かぐ)の一族」の御子、月代王との出会い。

高光輝の大御神を父神とし、天より降り下った神の御子、照日王と月代王。
不死の一族であるこの姉弟神と敵対し、八百万の神を拝し、闇御津波の大御神に仕える「闇の一族」。

その一族で「大蛇(おろち)の剣」の巫女である、狭由良姫のよみがえりだと言われるサヤ。二つの一族は豊葦原をめぐり、熾烈な戦いを続けている。

『古事記』の神話をベースにして作者が創り出すこのファンタジー世界の魅力は数知れず。

情緒豊かに語られる日本の四季の移り変わり。
身の回りに溢れる鮮やかな色彩。獣達の声さえ聞こえてきそうな緊張感。
そしてなにより、主人公サヤの・・・考えのない行動。

・・・おいおい(笑)

だけど、この、思い立ったら即、行動。自分に正直に生きていくその姿勢に好感が持てる♪

確かに、人に利用され、危険を招き、後悔することも多いんだけど、その力が運命を切り開いていくのもまた事実。

美形の月代王に惹かれて、輝の宮にふらふらついて行くサヤ。(ちょっと顔がいいからって・・・by鳥彦)

輝の宮にある池に、夜中でばれないからって、裸で飛び込むサヤ。(夏の夜に魚になりたくなるのは、私ばかりではなかったのか・・・by稚羽矢)

残酷な運命も彼女を襲います。

神は激しく、不死ゆえに、冷酷です。
人は弱く、過ちを犯します。

物語だからって、そこを避けて通らないのが、このお話しのいいところ。

サヤは思います。
(この世に、美しくないものなど一つもないわ・・・)

それは、大切なものを失い、もう一度探しだそうとして、ついに見つけた時の思い。

死して生まれる人としての運命。

変わることのない、不死の神々の孤独と哀しさ。

(変われるということは・・・ありがたいことだわ)胸元に深々と穿たれた矢傷に死ぬこともできず苦しむ稚羽矢(ちはや)を見かねて、「闇の一族」の一人、科戸王が呟きます。

「あれが不死身ということなのか。苦痛は変わらないのに、断末魔を人の何回分も味わうことが」

このシーンは何度読んでも背筋が凍ります。

国家統一を目指す「光」と、土着の「闇」が烈しく争う、神と人が共に生きた乱世を舞台に、人の持つ葛藤と生きることの大切さを描いたこの作品。
勾玉三部作として、他に『白鳥異伝』『薄紅天女』の作品があります。

最初、この『空色勾玉』は福武書店で出されましたが、今は徳間書店で三冊とも手に入れることができますよ。

「そして二人はいつまでも、幸せに暮らしましたとさ」で終る海外の物語もいいですけど、この物語は、サヤのこんな言葉で終ります。

「祝言には、羽柴の両親を呼ぶわ。そして、いやほどたくさん孫の顔を見せてあげると言うの」

いや~たくましい!

元始女性は太陽だったという言葉が納得できる。
自信を持ってお薦めできる日本のファンタジー。

初夏の涼しげな風の中で、あなたも古代の世界に思いを馳せてみませんか?











荻原 規子  著
福武書店