◎美濃部達吉『改訂 憲法撮要』(1946年8月)を読む
昨年の後半、五反田の古書展で、美濃部達吉著『改訂 憲法撮要』(有斐閣、一九四六年八月)を見つけ、購入した。この本の旧版が、天皇機関説事件で発禁になったことは、よく知られている。戦後直後に出たこの本は、その再刊であると同時に、改訂版である。定価「金四拾八円(税込)」、古書価は、たしか三〇〇円だった。
本文五五八ページ。「序」と「追補」は、この改訂に伴って書かれたもので、ひらがな文だが、本文の一ページから五五二ページまではカタカナ文で、これは基本的に旧版と同じだと思われる。
本日は、その「序」を紹介してみよう。
序
本書は帝国憲法の理論的構成、其の各条項の合理的解釈並に附属法令の梗概を成るべく簡明に論述することを目的としたものである。始めて其の第一版を公にしたのは大正十二年四月で、其の直接の動機となつたのは、当時著者が新に東京帝国大学に於いて憲法講座を担任することとなつたので、学生の自習の用に充つるが為めであつた。専門の学者の参考に供する為めではなく、一般学徒の憲法の研究に志す者の為めに理論的の典拠を提供せんとするに在つためのであるから、内外の権威ある著作を引照して之を論評するが如き煩しさは凡て之を避け、努めて簡潔平明の文字を以て著者の正しと信ずる所を論述するに止めた。本書は其の後数回に亘り版を改め、其の都度多少の改訂を加へたけれども、大体に於いては初版に於けると同一の趣旨が其の侭維持せられて居た。然るに昭和十年以後は全く絶版となり世間から鎖されて居たが、敗戦後出版の自由が恢復せられ、本書も再び世に見ゆることが許さるるに至つたと共に、憲法改正問題が世の注意の的となり、現在の憲法に関する系統的の知識も深く要求せらるるに至つたので、敗戦後の変化に応ずる為めの多少の改訂を加へ、茲に本書の改訂版を公にすることとなつた。憲法問題に志す諸賢の為めに多少の参考ともなれば幸甚である。
昭和二十一年四月一日 美 濃 部 達 吉