礫川全次のコラムと名言

礫川全次〈コイシカワ・ゼンジ〉のコラムと名言。コラムは、その時々に思いついたことなど。名言は、その日に見つけた名言など。

これを私はアジアの血の呼び声と称する(ウー・バー・モウ)

2023-07-26 00:11:35 | コラムと名言

◎これを私はアジアの血の呼び声と称する(ウー・バー・モウ)

 情報局編『アジアは一つなり』の、「二、各国代表の演説」の部から、「ビルマ国代表 内閣総理大臣ウー・バー・モウ閣下演説(訳)」の章を紹介している。本日は、その二回目。

  アジアの夢は実現す
 本日此の会議に於ける空気は全く別箇のものであります。此の会議から生れ出る感情は之を如何様〈イカヨウ〉に言ひ現しても誇張し過ぎることはあり得ないのであります、多年ビルマに於で私はアジアの夢を夢に見続けて参りました。私のアジア人としての血は常に他のアジア人に呼び掛け来つたのであります。昼となく夜となく、私は自分の夢の中でアジアが其の子供に呼び掛ける声を聞くのを常としましたが、今日此の席に於て私は、始めて夢に非ざるアジアの呼声を現実に聞いた次第であります。我々アジア人は此の呼声、我々の母の声に応へて茲に相集うて来たのであります。私は此の議場に於て述べられました各国代表閣下の所見に対し満腔〈マンコウ〉の感動を以て耳を傾けたのであります。是等の所見は総て記憶に留むべきものであり、感動に満ちたものでありまして、稍〻誇大に言ふことを許されるならば、私は其の中に子供を呼び集めるアジアの声を聞くやうな気がしたのであります。何がどうであらうとも、各代表が何を述べられようとも、又如何なる地方色が加へられようとも、其の底に流れるものは唯一つの「声」でありまして、有らゆる所見を通じて、そこには企画と目的と精神の統一があり、之をしも私は吾等のアジアの血の呼声と称するのであります。今や我々は心を以て考ふる時期ではなく、将に血を以て考ふべき時であり、私がはるばるビルマより日本へ参りましたのも此の血を以て考へる考の致す所なのであります。
 既に述べられたる幾つかの記憶すべき演説中にあつても、最も牢記〈ロウキ〉すべきは議長閣下の御所見であります。議長閣下は常の如く闘〈タタカイ〉の演説を行はれましたが、本日のそれは闘の演説以上のものでありまして、実に生躍する演説であります。閣下は恰も真の武士が其の武器を選ぶが如く一語一語を選定せられ、其の言葉を流線化し、一つの究極目的の為に配置せられたのでありまして、此の点に付き私は代表各位と共に議長閣下に対し深甚なる謝意を表明するものであります。
 世界の動きの速かなること誠に急湍の如きものがありまして、大東亜戦争前に於ては今日の如き会合は到底考へ及ばなかつた所と思はれます。当時に於きましては、アジア人が今日の如く一堂に会合することは出来なかつたのであります。それが今や我々は此所に斯く相集つて居るのであります。私の心眼には新世界の創造せられ行くさまがまざまざと映じて居ります。私は議長閣下の御演説の中に、新しい世界、アジア人の為のアジア的世界の機構が現実に形成されつゝあるのを見る次第であります。
 僅々〈キンキン〉数年前に於きましても、アジア人は互に分割疎隔せられ、相互に識らず、又之を識らんとすることも無く、恰もそれぞれ別箇の世界に住めるが如き感があつたのであります。当時に於ては郷土としてのアジアは存在せず、アジアは「一」に非ず〈アラズ〉して「多」であり、而もアジアを分割せる敵と数を同じうし、アジアの大部分は此等敵国の何れかに影の如くに追随して居つたのであります。
 過去に於て、我々にとつては実に待遠しい期間であつた過去に於ては、今日我々が一堂に会して居りますやうにアジアの各国民が会合することは到底考へられなかつたのであります。如何〈ドウ〉でせう。その不可能が実現したのであります。それも我々の中の最も大胆なる夢想家でさへも夢想し得なかつた形で現実化されたのであります。
 今日大東亜会議は東亜の首都に開催されて居ります。斯くして新しい世界、新しい秩序、新しい国籍が生れたのであります。有史以来始めて東亜の国民は、東亜は一にして分離すべからずといふ真理に基く、自由にして平等なる同胞として、会合して居るのであります。
 併し本日の東亜国民の会合は無から生じたのではありません。手品師の使ふ空の帽子から突然飛び出して来たものではありません。東亜に於て一つの世界を滅し他の世界を創造した、長い間の種々の事件の結果として生れたものであります。既に述べました通り、是等の事件は非常に大きく又其の影響する所は頗る広いのでありまして、日本に依るアジア指導権の把握、無敵日本軍の電撃的作戦に依る東亜の席捲及び反アジア勢力の撃摧、歴史に例なき日本を中心とする全東亜国民の共同の敵に対する結集、更にアジア進展の一転機を画するビルマ国及びフイリピン国の独立等々が即ち是に該当するものであります。実に未だ曾て〈カツテ〉是より偉大にして重要なる事件が東洋に起つたことはないのであります。
 私の所見を是以上進めます前に、他の代表が既に述べられた考ではありますが、私よりも一言述べたいと思ひます。蓋しビルマ国も亦此の考を述べる光栄を持つべきであるからであります。【以下、次回】

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ビルマ国ウー・バー・モウ首相の演説

2023-07-25 03:20:32 | コラムと名言

◎ビルマ国ウー・バー・モウ首相の演説

 情報局編『アジアは一つなり』(印刷局、1943年12月)の紹介に戻る。
 本日は、「二、各国代表の演説」の部から、「ビルマ国代表 内閣総理大臣ウー・バー・モウ閣下演説(訳)」の章を紹介する。

 ビルマ国代表 内閣総理大臣ウー・バー・モウ閣下演説(訳)

 議長並に〈ナラビニ〉閣下、茲に卑見を開陳するに当りまして、私は些か〈イササカ〉ためらひを感じるものであります。蓋し〈ケダシ〉本会議の如き場合に於ては、我々一同の胸中には唯一つの考〈カンガエ〉のみがあることは寧ろ当然でありまして、言ひ現す言葉は色々でありませうが、我々には同一の心、同一の意思、同一の目的から生れ出づる唯一つの考があるのみであります。従て私の所見中には既に各代表に依り開陳せられました思想なり、感情なり、事実なりが屡〻繰返されるであらうことも之亦当然のことであります。併し、それでも私はその様に繰返し申述べることに意義ありと考へるものでありまして、それは蓋しビルマ国も亦同一の考を有すること明かにしなければならないからであります。
 或る意味に於て私は既に各代表が述べられましたのと同じ言葉を語り、同じ所見を御伝へせんが為に本国より参つたとも申し得るのでありまして、それは結局我々一同が同じ所見を有して居るからであります。此の席に起つて〈タッテ〉周囲を眺めますとき、私の胸に浮かんで参りますのは過去に於て政治情勢の然らしむる所に依り、西洋に於て出席を余儀なくせられたる諸会議の想ひ出であります。成る程是等の会議に於きまして多数の人々が相集ひ〈アイツドイ〉、お互に鄭重に取扱ひ、談笑を交し、各種の事柄、就中〈なかんずく〉天候其の他に付いて論議致しました。併しながら私は常に他処者〈ヨソモノ〉が他処者の中に在る感じを免れることが出来ず、恰も〈アタカモ〉古代ローマに於けるギリシヤ人奴隷の如き感を抱くのが常であつたのであります。【以下、次回】

 ビルマのウー・バー・モウ首相は、冒頭で、「議長並に閣下」と呼びかけているが、これは、大東亜会議の議長を務めた、東條英機首相を指していると思われる。

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ゴーン氏は、「悪しきリーダー」と目されていたのか

2023-07-24 02:59:28 | コラムと名言

◎ゴーン氏は、「悪しきリーダー」と目されていたのか

 一昨日(7月22日)のブログで、鈴木博毅著『「超」入門 失敗の本質』(ダイヤモンド社、2012)という本を紹介し、その「失敗の本質18 リーダーこそが組織の限界をつくる」から、末尾の節、および「まとめ」を引用した。
 その時は、引用しなかったが、「失敗の本質18」には、最初から二番目に、次のような節がある。

リーダーとは「新たな指標」を見抜ける人物

 自己の権威や自尊心、プライドを守るために、目の前の事実や採用すべきアイデア、優れた意見を無視してしまうリーダー。
 このような人物は、最終的には自ら組織全体を失敗へ導いているのです。
 最悪のリーダーシップとは、インパール作戦のように「この人にもう、何を言つても無駄だ」と部下に思わせてしまうケースでしょう。
 日本軍は民間技術者や科学者を活用する場合でも、権威的な態度で接し、「言う通りに動けばそれでいい」という姿勢が随所に見られますが、新しい技術開発の可能性があっても、
・軍部に何を言っても無駄
・こちらからいい意見を出すのは無意味
という認識を関係者全員に与えてしまえば、日本軍自体が結果として技術的なイノベー ションを逃し、勝利を遠ざけることになるはずです。
 優れたリーダーとは、組織にとって「最善の結果」を導ける人であり、自分以外を無能と断定する人ではないはずです。
 アイデアやイノベーションは、環境さえ整えれば、組織のあらゆる階層から生まれます。
「上」の考えていることが一番正しいという硬直的な権威主義は、直面する問題への突破・ 解決力を大きく損なう誤った思想なのです。新たな指標としての戦略は、現場から生まれることが多く、リーダーはその価値を見抜く必要があるのです。

 この記述を読んで、こんなことを考えた。カルロス・ゴーン氏は、日産自動車を「驚異のV字回復」に導いたあと、20年近く、ワンマンとして君臨し、その間に、硬直的な権威主義に陥ったのではないか。「悪しきリーダー」と化したのではないか。少なくとも、解任事件当時の日産自動車の社内には、カルロス・ゴーン氏のワンマン支配を嫌い、彼を「悪しきリーダー」として意識するような空気が醸成されていたに違いない。そうした空気が、「解任劇」を生み出したのであろう。―― 
 企業のリーダーが、「硬直的な権威主義」に陥るということは、ありうることである。当該の企業が、みずからの存亡を賭けて、「悪しきリーダー」を追放するという事態も、起こりうることである。
 2018年のゴーン氏解任事件も、そうした事態のひとつだったのだと考える。ただし、同事件に関しては、大きな問題が指摘できる。
 第一の問題は、検察庁特捜部と組んで、ゴーン氏を「犯罪者」に仕立てたことである。そういう方法をとることなく、円満な形で、ゴーン氏に会社を退いてもらうことはできなかったのか。
 第二。もしもゴーン氏が、「悪しきリーダー」と化していたのであれば、日産自動車は、そのことを、内外に、明確な形で説明すべきであった。日産自動車は、検察庁特捜部と組んだことによって、その説明は、特捜部が代行することになった。日産自動車は、みずからの力で、ゴーン氏を解任し、その理由を、みずから、内外に、堂々と説明すべきであった。
 第三。日産自動車は、ゴーン氏を解任したあと、ゴーン氏に匹敵するリーダーを選び、その存在を内外に誇示すべきだった。しかし、そうしたリーダーは、ついに登場しなかった。そもそも、そういう人材は、日産自動車の社内には存在しなかった。だからこそ日産自動車は、検察庁特捜部と組むという方法を選択したのであろう。
 明日は、『アジアは一つなり』(1943)の紹介に戻る。

*このブログの人気記事 2023・7・24(8位に極めて珍しいものが入っています)

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ゴーン解任事件の筋書きを書いたのは誰か?

2023-07-23 02:43:23 | コラムと名言

◎ゴーン解任事件の筋書きを書いたのは誰か?

 あいかわらず、カルロス・ゴーン解任事件の話である。この事件が起きた当時、私は、当ブログに、次のような記事を載せたことがある。

◎カルロス・ゴーン日産会長解任事件の本質  2018-11-24 01:26:16

 新聞報道によれば、日産自動車は、今月二二日、臨時取締役会を開き、「カルロス・ゴーン容疑者」の会長職と代表取締役の解任を決めたという。おそらく、一九日のカルロス・ゴーン氏の逮捕は、この「解任」のための布石であったと見るべきであろう。この逮捕が、法律上、妥当なものであったか否かという判断はしばらく措く。しかし、この逮捕が、「国策」の一環であったことは、ほぼ間違いないだろう。端的に言えば、この逮捕=解任事件の本質は、「国策」である。
 この事件については、新聞報道とネット情報以外に、ほとんど情報を持ち合わせないが、その狭い情報の範囲内で感じたこと考えたことを、以下に述べてみたい。標題を「カルロス・ゴーン日産会長解任事件の本質」としたが、実際は、「カルロス・ゴーン日産会長解任事件についての雑感」といったあたりである。あくまでも「雑感」ということで、箇条の形で、しかも順不同で述べてみる。

 まず素朴な疑問だが、カルロス・ゴーン代表取締役会長、グレッグ・ケリー代表取締役が「勾留」されているという異常な事態のなかで、「臨時取締役会」を開くことは許されるのか、また、そこでの決議は有効なのか。
 日産自動車は、このあと臨時株主総会を開き、ゴーン、ケリー両氏の取締役を解任するものと見られる(取締役選任は、株主総会の決議事項)。しかし、この取締役解任についても、1と同じ問題点を指摘せざるを得ない。また、この臨時株主総会の席で、ゴーン、ケリー両取締役の解任が否決されるという可能性は、まったくないのか。
 【略】
 【略】
 かつて日産自動車は、深刻な経営危機にあったところを、カルロス・ゴーン氏の非凡な経営手腕によって救われた。日産自動車にとっては、カルロス・ゴーン氏は、「大恩人」とも評すべき存在である。その「恩」に対して、日産自動車は、逮捕にともなう解任という「仇」で返したわけである。これは、日本企業の経営風土からは出てこない大胆にして過激な手法である。いったい、この筋書きを書いたのは誰だったのか。
 日産自動車の中に、こういった大胆な手法を行使できる幹部がいたとすれば、同社は、かつてのように、経営危機に陥ることはなかったろう。また、その経営危機を乗り越えるために、カルロス・ゴーン氏のような外国人を呼んで、その助けを借りる必要もなかったはずである。世間を驚かせた今回のゴーン会長解任劇を見ると、その筋書きを書いたのは、少なくとも、日産自動車の幹部「以外」の人物または組織だったと推測される。仮に、今回の解任劇が、日産自動車幹部の筋書きによるものだとすれば、その手法の当否は別として、「日産は変わった」と評することができる。逆に、日産自動車幹部が、社外の何者かによって書かれた筋書きに従ったのだとすれば、「やはり日産は変わっていない」と言われることになる。(注)
 【略】
 の(注)である。二二日二一時三四分配信の毎日新聞記事(電子版)〝<日産>ゴーン支配終幕 独裁「自分で決められぬ会社に」〟は、記事の最後を、次のように結んでいる。
《20年弱に及んだワンマン支配。ゴーン前会長とともに代表取締役として経営を担った経験のあるOBは「当初は彼をルノーの回し者とみなしていた。しかし、私的な野心や利益のためだったとはいえ、必死に日産を大きくした姿には感謝している面もある」と複雑な心境を語る。そしてこう自戒した。「日産は自分たちの運命を自分たちで決められない会社にしてしまった。責任は私たち歴代経営陣にある」》

 以上は、2018年11月24日の記事である。
 この日のブログで私は、カルロス・ゴーン日産会長の逮捕=解任事件の本質は、「国策」だと書いた。日産自動車と検察庁特捜部とが合作し、カルロス・ゴーンを追放しようとした「国策」事件であろう、という意味である。今でも、その考えに変わりはない。これは、直観的に、そう感じているということであって、確証があるわけではない。
 ところで、今月20日に、弘中惇一郎著『特捜検察の正体』(講談社現代新書)が発行された。私は、この本を、21日に入手した。著者の弘中惇一郎氏は、カルロス・ゴーンの弁護人を務めていたこともある著名な弁護士である。
 同書の271ページで、弘中氏は、「カルロス・ゴーン事件は、日産が中心となって特捜部と組み、ゴーン氏を失脚させるためにかなり無理をして作った事件だった」と述べている。やはりそうだったのか、と思った。特に、「日産が中心となって」というところが重要だと思った。ただし残念ながら、日産自動車と検察庁特捜部が、どういうふうに「組んだ」のかについての説明はなかった。
 それにしても、この事件(カルロス・ゴーン解任事件)の「筋書き」を書いたのは、誰だったのだろうか。【この話、続く】

*このブログの人気記事 2023・7・23(9・10位に珍しいものが入っています)

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日産リバイバルプランは誰がつくったのか?

2023-07-22 00:16:13 | コラムと名言

◎日産リバイバルプランは誰がつくったのか?

 一週間ほど前、近所の古書店で、鈴木博毅(すずき・ひろき)著『「超」入門 失敗の本質』(ダイヤモンド社、2012)という本を入手した。これは、戸部良一ほか著『失敗の本質 日本軍の組織論的研究』(ダイヤモンド社、1984)という名著を紹介・解説した本である。この名著は、まだ読んでいないので、せめて解説本でも読んでおこうと思って購入した次第である。
 鈴木氏の本は、「失敗の本質」を23に分けて解説しているが、「失敗の本質18 リーダーこそが組織の限界をつくる」では、その末尾で、「日産リバイバルプラン」に言及している。以下に、その箇所を引用してみる。

日産リバイバルプランは誰がつくったのか?

 二兆一〇〇〇億円という巨額の負債。重大な経営危機にあった一九九九年の日産自動車 に、フランスのルノーからカルロス・ゴーンが最高執行責任者(COO)として就任しました。
「日産リパイパルプラン」とは、同氏が掲げた日産自動車の事業再生プランの名称です。
 当時、日産社内の各部門の中間管理職を横断的に組織した、クロス・ファンクショナル・ チームは社会的に非常に有名な言葉にもなりました。
 クロス・ファンクショナル・チームとして集めた人材を九つの分類で区分し、各チームを束ねるパイロット(リーダー)が任命されました。
 書籍『カルロス・ゴーンが語る「5つの改革」(長谷川洋三/講談社)によると、ゴーンはこの九人のチームパイロットを役員食堂に招き、こう言ったそうです。
「日産が今必要としている改革とは何か。結果を恐れず、革新的な提案をしてほしい。パイロッ卜の提案は直接、日産の最高意思決定機関であるエグゼクティプ・コミッティーで検討する」
 各パイロットはゴーンの強い熱意と本気を感じ、社内の人間を集めて何度もミーティングを重ね、リバイバルプランの骨子となるアイデア、改善提案を全社から懸命に集めます。
 奇跡のV字回復を生んだプランの骨子は、社内の知恵を必死で集め生み出されたのです。そして、カルロス・ゴーンはアイデアに対して「実行の方向性を与える」役割を果たしました。
 ゴーンと新生日産自動車は、たった四年で二兆一〇〇〇億円の負債をすべて返済し、低迷していたシェアを二〇%にまで引き上げる驚異のV字回復を成し遂げています。
 奇跡的なV字回復を果たした改善プランの骨子が社内の人間から生み出されたことは いったい何を意味するのでしょうか。
日産自動車という集団が、もともと必要な能力を内部に持っていたということです。リーダーが柔軟に組織の全能力を引き出したことで、大躍進が成し遂げられたのです。
 愚かなリーダーが「自分の限界」を組織の限界にする一方で、卓越したリーダーは、組織が持つ可能性を無限に押し広げて勝者となるのです。
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 ま と め  愚かなリーダーは「自分が認識できる限界」を、組織の限界にしてしまう。逆に卓越したリーダーは、組織全体が持っている可能性を無限に引き出し活用する。
====================

 この本の著者は、最高執行責任者(COO)のカルロス・ゴーンを、「組織全体が持っている可能性を無限に引き出し活用」したリーダーとして、非常に高く評価している。
 ところが、2019年11月19日、日産自動車のカルロス・ゴーン代表取締役会長が、突然、逮捕された。すると、同月22日、日産自動車は、臨時株主総会を開いて、カルロス・ゴーンの代表取締役会長職を解任した。
 その経緯については、当時も今も、新聞報道以上の情報を持っていない。しかし当時、この事件は、日産自動車と検察庁特捜部とが合作した「国策」事件に違いないと直感した。
 同時に、日産自動車の「仕打ち」に、異様なものを感じた。こうした「仕打ち」は、いわば「恩を仇で返す」ものであって、日本的な風土からすると、ありえない事件だと思ったからである。【この話、さらに続く】

*このブログの人気記事 2023・7・22(9・10位に極めて珍しいものが入っています)

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