JR名松線の旅について、投稿字数の制約もあり、前回は割と硬派(政治的)な切り口での紹介となってしまいました。そこで、今回はもう少し旅先の風景やエピソードについても織り交ぜて書く事にします。
そもそも、私が名松線に乗ろうと思ったのは、大阪からも近く、一泊二日もあればあちこち回れると思ったからです。それに、旅館に泊まればお風呂にも入れてゆっくりくつろげると思ったからです。ワンルームのユニットバスではゆったり足も伸ばせませんから。
だから、最初はそんなに期待していませんでした。とりあえず近鉄難波から賢島行きの特急に乗り、松阪で降りたらもうお昼時だったので、「名物の松阪肉でも食べようか、でも一体どこの店がお勧めかもさっぱり分からない、一流のレストランは高そうだし、もう面倒なので駅弁で済ましちゃえ」と、駅の売店で「モー太郎弁当」を買って食べました。
「モー太郎弁当」は松阪牛の牛丼弁当です。松阪牛の肉なので吉野家の牛丼とは味が全然違いました。でも、たったこれだけの量で1700円はないでしょう。いくら松阪牛とは言え、所詮は牛丼でしかないのに、そんなものに何故2千円近くも出さなければならないのか?おまけに雨も降って来ました。「天気予報では曇りのち晴れと言っていたのに。もう今日は乗り鉄だけにして撮り鉄は明日に回そう」。そんな感じで名松線のディーゼルカーに飛び乗りました。
たった1両のディーゼルカーです。超赤字ローカル線と聞いていたので、人っ子一人いないガラガラな車内を想像していましたが、10人ほどの乗客が乗っていたので安心しました。でも、途中駅での乗り降りはほとんどなく、大半の人が撮影に興じていたので、鉄道ファンでどうにか持っている鉄道である事を思い知らされました。
ところが、終点の伊勢奥津駅に着いて、駅の隣にある「ひだまり」という観光施設に立ち寄った事で、私の名松線に対する認識はガラッと変わりました。この施設は小さな道の駅に喫茶店を引っ付けたようなお店で、観光案内所も兼ねています。土産物や鉄道グッズも売っていましたが、その価格が結構良心的なのです。地元産の食材を使った炊き込みご飯が何と400円!先程のモー太郎弁当とは大違いです。確かに弁当の中身は地味ですが、こんな値段で美味しい弁当がいただけるなら御の字です。(弁当自体はごくありふれた炊き込みご飯だったので写真は撮りませんでした。今となっては悔やまれます)
それ以外にも、2時間に1本しか列車が来ないダイヤの中で、次の列車に間に合わないからと、コーヒーを残して立ち去ろうとした私に対して、「蓋をすれば列車の中でも飲めるよ」と、わざわざ蓋をして私の所に持って来てくれたり。翌日も、無料で電動自転車を貸していただき、アップダウンのきつい坂や、場所によっては45度の傾斜のある急な坂道でも、比較的楽に絶景スポットにたどり着く事が出来たり。(レンタサイクル以外にコミュニティバスの便もあり)
翌日は天気も回復したので、伊勢奥津周辺の「のれん街」(宿場町の跡)や、そこから約2キロ先にあるミツマタ群生地、さらにその3キロ先にある三多気の桜を見に行きました。2時間おきにしか列車が来ない山間部でこれだけ回れたのも、「ひだまり」の電動自転車があればこそです。あいにくソメイヨシノの桜は散ってしまいましたが、遅咲きの山桜はまだ見頃の最中でした。ミツマタは枝の先が3つに分かれているからその名が付き、昔から和紙の原料として重宝されて来ました。これも名松線に乗りに来て初めて知った事です。
本当は名松線の車窓から撮影するだけでなく、絶景スポットを背に走る列車も撮りたかったです。でも、2時間おきにしか来ない列車をずっと待っていたら、もう他はどこも回る事が出来ません。秘境駅の伊勢鎌倉駅や、ミツマタの咲き誇る比津駅、白山高校のある家城の街並みも散策したかったのに。
でも、たった2時間に1本のダイヤでは、どこも回る事が出来ません。おまけに片道切符しか売ってくれない。私鉄なら大抵どこでも売っている1日フリー切符もない。これでは途中下車して周遊しようと思っても無理です。JRは「鉄道離れが進んだからダイヤを削減した」と言います。確かにそれも間違いではありません。しかし、逆に「ダイヤ削減が鉄道離れをさらに促進した」とも言えるのではないでしょうか。これがせめて1時間に1本のダイヤなら、もっと乗る人は増えると思います。
伊勢奥津の宿場町を再生して、松阪だけでなく伊勢奥津でも泊まれるようにすれば、もっと人は来るのではないでしょうか。一泊数万円もするバカ高い美杉リゾートには泊まれない人も、リーズナブルな民宿には泊まれるかも知れない。さらに、伊勢奥津から名張までバスで通えるようにすれば、赤目四十八滝にも立ち寄れるようになり、近鉄もJRも客が増えるのに、なぜそれをしようとしないのか?
それでも鉄道の赤字は解消しないかも知れません。でも、周囲にこれだけ絶景スポットが散在し、住民も行政も鉄道存続を願っているのに、JRが赤字を口実に、仕事を「手抜き」して良いのでしょうか?もう少しダイヤを増やせば、もっと乗る人が増えるのが分かっているのに、自分たちの都合だけで、不便な「手抜き」ダイヤで「渋々」列車を走らせている。心の中では「早く廃線になればよい」と願いながら。
そのくせラッシュアワーのない日曜日も2両編成のディーゼルカーを走らせたり。赤字解消を口実に、2時間おきにしか列車が走らない、不便なダイヤを沿線住民に押し付けておきながら、逆にこんなムダな事して。まともに仕事する気がないのでしょう。惰性で仕事をしているから、こんな事になるのです。
これ、商売人としてどうなんですかね?昔よりはだいぶ減ったとは言え、その商品を買いたいという人がまだいる。商品の味を改善して値段も下げれば、買いたいという人が増えるのも分かっている。でも、儲けにならないから本当は切り捨てたい。しかし、それを言っちゃうと叱られるので、渋々まずい商品を高い値段で売り続けている。これでは「プロとして失格」じゃないですか。
確かに商売ですから、採算が取れなければ話になりません。それは分かります。でも、商売ってそれだけではないでしょう。その商品を買ってくれる人がいる限り、何とか商品を作り続けようとするのが、「プロの意地」ではないでしょうか?その為の業務改善でありムダ削減であるはずなのに。
鉄道がないと困る人がいる。行政も鉄道存続を望み、支援策を講じている。その中で、JRだけが「儲けにならないから」と、「手抜き仕事」に甘んじている。そんな商売人なら、「最初から商売なんてやるなよ。客はただの金づるじゃないぞ」と言いたくなります。親方日の丸の上にあぐらをかいて、ブラック企業みたいな行いを今後も続けるなら、経営陣を総入れ替えして、やる気のある人に仕事を任せるしかない。それを行政も「上下分離方式」「公設民営方式」でバックアップすれば良いのではないでしょうか。今回も「政治的」な記事になってしまいました。私としてはごく当たり前な事を書いているつもりなんですが。
最後に、私が伊勢奥津駅の駅ノートに書いた文章を紹介して締めくくります。この文章は後でJR東海にも当社ホームページから要望として上げました。
JR名松線を愛し、存続を願うからこそ、敢えて苦言を申し上げます。
本当に存続を願うなら、
・1日フリー切符ぐらい発行して下さい。
・SLやお座敷列車の運行ぐらいやって下さい。
・前日に60人以上もの乗客を単行1両のディーゼルカーですし詰めにしながら、翌日の日曜に通学の高校生もいないガラガラの車内に、わずか12人ほどしか乗客がいないのに、2両で運行するようなアンバランスな事をしないで下さい。
これでは折角、高校生が頑張って廃線反対の署名を集め、行政も主要駅に観光ポスター張って鉄道存続に向けて頑張っているのに、肝心のJRが何もしないのでは、誰も乗りに来てくれなくなりますよ、
ダイヤ大削減の裏でイベント列車の運行にばかり力を入れる地方ローカル私鉄や第三セクターの今の姿が良いとは私も決して思っていません。
また、高速道路や新幹線にばかり予算をつぎ込み、少子高齢化や過疎化に有効な手を打てず、農林業切り捨てで地方衰退に拍車をかける今の政権の責任を免罪するものでもありません。
でも、肝心のJRに鉄道を守ろうという気が全く見られないのでは、やがてはこの名松線にも、誰も乗りに来なくなりますよ。今こそJRの奮起を望みます。
JRは一体誰の為に仕事をしているのでしょうか?