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「すき家の春」は決して他人事ではない

2014年03月30日 09時02分29秒 | 一人も自殺者の出ない世の中を
 

 牛丼チェーン「すき家」でバイトの大量退職が起こっています。元々、外食チェーンには学生バイトも多いので、冬から春にかけてのこの時期には、普段でも進学や就職でバイトの退職者が増えるものですが、「すき家」の場合は常軌を逸しています。人手が足りずに一時閉店に追い込まれる店が続出しているのです。都市部を中心に、既に約1割もの店が何らかの理由で閉店してしまっています。
 その原因は、2月から登場した新メニューの牛鍋定食にあります。「すき鍋」「チーズ・カレー鍋」「ちり鍋」と3種類あるのですが、いずれも他の丼物メニューとは比べ物にならない程、仕込みに時間がかかるのです。その為に、それでなくてもギリギリの人数で何とか店を回していた中で、更に鍋メニューの調理負担が加わり、「もうやってられない!」と、バイトがどんどん辞めていったのです。

 鍋メニュー自体は別に目新しい物でも何でもありません。牛丼チェーンご三家のうちの「吉野家」が先鞭を切り、「松屋」や「すき家」もそれに対抗して出してきた物ですが、では何故、「すき家」だけにバイトの大量退職が発生したか。
 それは「すき家」が、残り2つのチェーンと比べても、労働者酷使で有名なブラック企業だからに他なりません。まず残業代を払わない。それに平気でワンオペを導入する。ワンオペというのは一人勤務の事です。バイト一人で店を回さなければならないのです。接客も調理も会計も。そのくせ、店内には自動券売機も全然ありません。しかも、やたらメニューやトッピングの数ばかり増やされる。だから深夜にしょっちゅう強盗に入られます。その余りの多さに、警察が業を煮やして全店一斉抜き打ち検査に入った事もある位です。そんな酷使にバイト有志が怒って労働組合を結成したら、会社は何とそのリーダーに無銭飲食の罪をなすりつけようとしたのです。その上、純然たる会社のバイトなのに個人事業主との請負契約の形にして、「自社の従業員ではないから」と見え透いた嘘までついて団体交渉を拒否しました。「すき家」とはそんな会社なのです。

 実際、新メニュー登場以降、ネットの掲示板やツイッターには、次に紹介する様な、「すき家」の過酷な状況に対する怒りの投稿が現れ始めます。

●数秒で提供しちゃうのが牛丼チェーン店の売りなのに、一人当たり7分くらい待ってもらってしまった。 てか、うちの店で一番混む時間にワンオペとか…崩壊しても仕方なかったんだ。泣きながら頑張ったよ私。

●烏丸七条ワンオペはほんまにありえへん。マネージャーええ加減にせえよ。殺すぞ。

●すき家の鍋とか死ねばいい。たのみすぎなんだよ死ね。CMやめろ死ね。仕込みも提供くそめんどくせえ死ね。MGいたから秘技品切れ使えないし、鬼込みだし2OPだし死ね。すき家で鍋食うんじゃねえ死ね。たまに来る唐揚げも死ね。納豆くせえ死ね。明日も同じ時間帯とかなおさら死ね。巨萎え死ね。 

●12-23でワンオペ11時間労働。狂ってる。田内死ね。すき家やめてやっかんなくそ。

 最後の「12-23」というのは、昼12時から夜23時までの勤務シフトに入ったという意味です。その11時間もの間、たった一人で店を回していたという事です。これではマネージャーや客に「死ね」と言いたくもなります。接客業のバイトが普通なら口にしない様な言葉です。いかにバイトが精神的に追い詰められていたかが分かります。


 

 上記が、ネットに流出した「すき家」のある一日の出勤シフト表の中身です。ランチタイムや夕方から夜9時位までは複数勤務ですが、その後、深夜から早朝は全てワンオペとなり、接客も調理もレジも全て一人でこなさなければならなくなります。それと同時に、フルタイムのバイト(A君=表中のオレンジ色シフト、F君=同・黄色シフト)の拘束時間の長さにも注目。1日12~14時間にもなる上に、人件費の総額が店毎に予め決められている為に、時間外労働も大半はサービス残業となります。



 こちらは、「すき家」公式サイトに載っているキャリア解説図です。NF:ニューフェイス、Crew:クルー(一般バイト)、CAP:キャプテン(副主任クラス)、CF:チーフ(主任クラス)、ACE:エース(店長・統轄店長クラス)。これらの職責が全てがバイトや契約社員によって担われています。つまり「待遇はバイトなのに責任だけは社員並み」という事です。

 その牛鍋定食も、私も試しに「すき鍋」「ちり鍋」の2種類を注文して食べてみましたが、「すき家で500円前後だから食える」程度の代物でした。牛丼チェーンだけあって味付けはそこそこ良い物の、肉はバラ肉で量も少なく、他は豆腐が一切れ入っているだけで、白菜やネギの細切れが鍋の大半を占めていました。おまけに、「ちり鍋」の大根おろしには芯の部分がまだ残っていました。多分急いですり下ろしたのでしょう。バイト複数勤務の平日ランチタイムの、まだ比較的客が少ない午前11時台でもこの有様でした。

 このバイト大量退職による閉店の噂について、「すき家」運営企業のゼンショーの広報室では、「将来の競争力強化やサービス向上をにらんでのパワーアップ工事」や「機器のメンテナンス」による一時閉店や営業時間短縮によるものと説明しています。実際に「すき家」の公式HPや日経新聞の記事にもそう載っていたし、大阪でも天満・南森町の2店にはパワーアップ工事による閉店のお知らせも出ていました。しかし、その割には、工事開始から早1週間が過ぎようとしているのに、未だに工事の物音も聞こえないし、資材搬入の気配もないのは一体どういう事でしょうか。

   

 そう訝(いぶか)しがっていたら、案の定、「牛鍋メニュー一時終売」のお知らせが「すき家」HPや店頭に出ました。「一時終売」という事はまた再開するのでしょうが、もうこんな見え透いた嘘をつくのは止めたらどうかと思います。競争力強化だのサービス向上だのと、いかにも客の為を思っているかのような振りをしながら、店の都合だけで勝手に24時間営業から22時閉店に変えて、客を平気で騙すような事をして。そんな事なら、最初から22時閉店にして、無理のない営業をしてくれた方が客も安心です。少なくとも、芯の残った大根おろしの「ちり鍋」を出されたり、深夜ワンオペ時間帯の強盗騒ぎに巻き込まれるよりは、まだそっちの方がよっぽどマシです。

 確かに「すき家」は便利です。でも、その便利さは、本当に人間にとって必要な物なのか。24時間営業で安い値段で牛丼が食べられるという事は、24時間安い給料でこき使われる人がいて初めて成り立つ話です。いつ自分がそのしわ寄せをこうむる立場に立たされるかも知れません。また、表向きはいかにサービス向上を謳おうと、店の都合で勝手に閉店されたり、ワンオペで強盗に入られる不安と隣り合わせで成り立っているようなサービスが、本当に客思いのサービスと言えるのかどうか。実際は企業の金儲けしか眼中にないのじゃないか。
 そして自分の会社はどうなのか。サービス向上の為と言いながら、荷扱いなぞ二の次で「早く商品を積め」と急かされながら、破損事故が起こった時だけ「荷扱いを丁寧にせよ」と言われる。そんな会社も会社なら、それを容認してきた自分も自分じゃないのか。

 検閲や言論統制で自由に物も言えなかった中東アラブ諸国の民衆が、ツイッターやフェイスブックで真実を語る事で、それが次第に広まり、今までびくともしないと思われていた独裁政権が次々と倒れるという事が数年前に起こりました。いわゆる「アラブの春」です。今回「すき家」で起こった事も、規模こそ小さいものの、それと同じではないでしょうか。「アラブの春」ならぬ「すき家の春」、決して他人事ではありません。

(参考記事)

・牛丼「すき家」店舗が次々と『人手不足閉店』 新メニュー「鍋定食」に従業員が憤慨? ネットに「やってられん!」の声(J-CASTニュース)
 http://www.j-cast.com/2014/03/20199811.html?p=all
・【衝撃】すき家が次々と「人手不足」で閉店… 実際に働いているアルバイト達の悲痛な声をご覧ください(NEVERまとめ)
 http://matome.naver.jp/odai/2139534235982944101
・「アラブの春」ならぬ「すき家の春」で人手不足が囁かれる中 今度は「パワーアップ工事中」が話題に(ガジェット通信)
 http://getnews.jp/archives/539920
・すき家の「人手不足閉店」はなぜ起こったのか?(とある青二才の斜方前進)
 http://tm2501.hatenablog.com/entry/2014/03/23/213134       
・ついに「すき屋」のシフト表が流出!あまりに過酷とネットで話題に(秒刊SUNDAY)
 http://www.yukawanet.com/archives/4648985.html
・すき家閉店続出 人員不足のため、18時に閉めます/1人勤務、新メニューで過重負担/青年ユニオンが指摘 「賃上げ・増員を」(しんぶん赤旗)
 http://www.jcp.or.jp/akahata/aik13/2014-03-28/2014032801_04_1.html
・すき家「牛すき鍋定食」が4月から“一時終売”へ 「販売予定期間の終了時期が来たため」と運営元のゼンショー(ねとらぼ)
 http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20140328-00000075-it_nlab-sci


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「すき家の春」革命の成功要因 (プレカリアート)
2014-03-31 04:13:24
ひょっとしたら読者の中には、今回のバイト大量退職を単なるリタイア、逃亡とのみ過小評価している向きもあるかも知れない。革命と言えばロシア革命や中国革命、「アラブの春」や台湾革命みたいなのだけを指すのだ、みたいに思っている様な人が。
若しそう思っていたら、それは間違いである。確かに逃げてばかりではダメだ。いつかは労働組合を作って闘わなければならない時が来る。しかし、労組とは無縁な未組織労働者、食うや食わずの人達にとっては、逃げる事も立派な闘争手段なのだ。「ベルリンの壁」が崩壊したのも、東ドイツ政府が西ドイツへの難民流出を止められなくなったから起こったのだ。
前置きはそれ位にして、では何故、鍋メニューの一時終売を勝ち取る事が出来たのか?を考えてみた。
まず第一に、「すき家」が学生バイトを主力にしていた事が挙げられる。学生バイトにとっては学業こそが本業であり、バイト料は学費の足しになりさえすれば良い。その程度のバイト料なら、別に無理に「すき家」にしがみついていなくとも、もっと好条件で働ける所が幾らでもある。
そして第二に、「すき家」が人件費を出し惜しみ、店長クラスもバイトや契約社員に担わせていた事。企業にしてみれば、安い給料で酷使した上に、一杯ランク分けしてバイト同士を競わせたつもりだったのだろう。でも、そんな事を続けていたら、店長クラスのモチベーションも確実に低下する。最初は下っ端のクルーから始まった反乱が、やがてキャプテンやチーフにも及ぶに従い、最初は反乱を抑える側に回っていた店長も、何でバイトの待遇でここまで矢面に立たされなければならないのかと、思い始めたのだろう。もうアホらしくてやってられんわと、遂に店長クラスにまで反乱が広がり、閉店からメニュー撤回に追い込まれていったのだろう。
そういう特殊事情もあって成功した「革命」なので、それをそのまま他の職場にも機械的に当てはめる事は出来ないかも知れない。でも「所詮はバイトなのだ、いざとなれば逃げれば良いのだ」という意識は、中高年のバイトも持っている。若い学生バイトに比べると、潰しが効かないから仕方なしに今の職場にしがみついているだけなのだ。今後は消費税も上がる。いよいよ食いつめたら、中高年バイトや名ばかり正社員も、「もう、やってられるか」と立ち上がらざるを得ない日が必ず来る。
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