コンビニの時短営業で話題になったセブンイレブンの店に行って来ました。「24時間営業では身体がもたない。バイトも来ない。せめて午前1時から6時まで休ませてくれ」と、オーナーが時短営業に踏み切り、本部と対立している店です。現在、ネットでオーナーを支援する署名が集められています。
私もその署名に協力しましたが、その店が東大阪市にあると聞き、実際に訪ねてみる気になりました。あわよくばオーナーから話が聞けるかも知れませんし、それが無理でも実際の立地を見る事で、深夜営業の困難さを垣間見る事が出来るかもしれないと考えたからです。
店は東大阪金物団地の近くにありました。近くには近大のキャンパスもあります。狭い市道が交わる角地にあり、広い駐車場が店の前に広がっていました。店自体も中小スーパーぐらいの広さがあります。着いたのはお昼前で、それなりにお客が入り、男女2名の店員がレジに立っていました。
しかし、周囲は住宅と町工場が混在する準工業地域。最寄駅から行くには20分ぐらいかかります。近畿自動車道からは近いので配送の便は良いものの、前の市道は片道1車線の幅しかありません。一つ南の筋は片道2車線のバス道路で、商業施設もそちらの方に集中しています。これでは、夜は店の売り上げも余りないのではないかと思われます。
そもそも、そんな採算性云々の話以前に、「生身の人間を24時間休みなしに働かせて良いのか?」という問題があります。オーナーと言っても実態は労働者なのですから。
コンビニ本部が時短営業に反対する理由は、主に次の二つです。一つは「客の要望」、もう一つは「防犯効果」です。しかし、そんなにコンビニのお客が24時間営業を望んでいるでしょうか?私は、はなはだ疑問に思います。「夜8時には閉店してしまう」と言うならまだしも、今まで終日営業だったのを夜11時閉店になった所で、困る客が一体どれだけいるでしょうか?
お客がお店を選ぶ理由は、まず第一に立地条件、第二に商品の値段と品ぞろえです。どんなに営業時間が長くとも、不便な場所にあるコンビニには客は入りません。通勤の生き帰りに気軽に立ち寄れるかどうか。これがまず決め手になります。しかし、どんなに便利な場所にあったとしても、商品に魅力が無ければ売り上げは伸びません。それなりに良い商品を手頃な値段で買えるかどうか。これが次に決め手になります。
私の場合を例にとると、朝食用のパンは、近くのコンビニではなく、少し遠くにあるスーパーで買います。コンビニに並んでいるパンは、値段が高い割には美味しくないからです。毎日食べる物なので、やはり自分が一番美味しいと思うパンを食べたいものです。しかし、パンが残って昼食にパスタと一緒に食べる時は、パスタは近くのコンビニで買います。スーパーには原料の小麦粉しか売っていないからです。室内にはキッチンも冷蔵庫もないので、レンジでチンしてすぐに食べられるコンビニのパスタでないとダメなのです。
そんな私にとっては、「その店が24時間営業かどうか?」なんて、どうでも良い事です。たとえ24時間営業の店であっても、帰ってくるまでにチンしてもらったパスタが冷めてしまっては何もなりません。
24時間営業の防犯効果についても、私は疑問に思います。それが証拠に、実家近くのコンビニとは目と鼻の先にある家でも、強盗に入られた事があるのですから。その家は、24時間営業のコンビニとは数軒しか離れていませんでした。ちょうど角を曲がった先にあり、コンビニからは見通せない位置にありましたが。住んでいたのは老夫婦2人だけなので、強盗のターゲットにされてしまったのでしょう。
「夜もコンビニの明かりが煌々(こうこう)と点いている事で犯罪が抑止できる」と本部は言いますが、私はむしろ逆だと思います。いくら煌々と明かりが点いていたとしても、客がほとんど来ず、従業員もバイトが一人か二人しかいない店では、逆に強盗のターゲットになりかねません。現に、ワンオペ時代の「すき家」がそうでした。夜間は店員が1人しかいない為に、たびたび強盗に入られていました。余りにも「すき家」ばかり強盗に入られるので、業を煮やした警察によって、全国一斉に抜き打ちで保安点検に入られた事もありました。
では「バイトを雇えば人手不足は解決するか?」と言うと、これも今はもう、かなり難しいです。幾らバイト募集しても時給900円台、深夜割増でも千円余の低賃金で、多忙で覚える事も多いコンビニバイトに、一体誰が応募すると言うのでしょうか?深夜だと強盗に襲われる危険もあります。そんな危険を冒してまで、一体誰が来ると言うのでしょうか?幾らバイト募集しても、日本人はなかなか来ないので、やむを得ず外国人のバイトを雇うようになったのでしょう。
何故コンビニのバイトがそんなに低賃金なのか?これには、はっきりとした理由があります。それはコンビニの特殊な会計システムにあります。コンビニで売っている食料品の大半は、賞味期間の短い日配品です。売れ残った商品は捨てるか値引きして売るしかありません。スーパーでは、これらの廃棄ロスや値引きロスは損金、つまり経費として落とせます。ところが、コンビニでは経費として落とせず、店の持ち出しとなるのです。
これを参院議員のHPの下の図で説明します。おにぎりを1個70円で仕入れて100円で売って、8個売れて2個廃棄したとします。売上金額は100円×8個=800円。仕入原価は70円×10個=700円。粗利益はその差額800円-700円=100円です。その100円の粗利益を6対4の割合で、本部に60円、店には40円という形で分配します。これがスーパー等で行われるごく一般な会計システムです。
ところがコンビニでは、廃棄分は売上原価には含ませず、オーナーが負担すべき営業費として計上してしまうのです。具体的には、売上原価は70円×(廃棄分を除いた)8個=560円、粗利は800円-560円=240円。それを6対4で本部144円とオーナー96円で分配。しかし実際は、オーナーは廃棄したおにぎり2個分のロスも負担しなければならないので、96円-140円=44円の損しか残らないのです!
それを防ぐ為に、オーナーが賞味期限切れ間近のおにぎりを半額の50円で売ったとします。売上は100円×8個+50円×2個=900円。仕入原価は70円×10個=700円。粗利はその差額900円-700円=200円。確かに半額で売った分は仕入原価を割り込み赤字となりますが、それでも廃棄するよりはマシです。これが、スーパーでよく行われる見切り品処分です。しかし、それでは値引きだけで廃棄は発生しないので、本部はおにぎり10個分全ての仕入原価を経費として差し引かなければなりません。それでは本部の取り分が減ってしまいます。だから、資源浪費を防ぐ為に本来なら推奨されるべき見切り処分を、本部は逆にオーナーにはさせないようにするのです。
コンビニ本部が24時間営業に固執するのも、これと同じ理由です。たとえ、どんなに経費ばかりかさみ、防犯上も問題があったとしても、本部にとっては、商品が1個でも売れた方が良いのです。その為に発生する廃棄ロスや人件費、物件費は、全てオーナーに押し付ければ良いのですから。
それだけではありません。本部は店の規模や立地条件も無視して、大量の商品を店に発注させます。商品発注の権限も形だけはオーナーにあるものの、実際は本部にいるSV(スーパーバイザー)が取り仕切っています。オーナーは本部のSVに言われるままに、大量の恵方巻やバレンタインチョコを仕入れなければなりません。しかし、そんなに仕入れても売れる量は限られています。売れ残りは廃棄や自爆営業(オーナーや店のバイトがノルマとして買い取らなければならない)で処分しなければならないのです。
つまり、コンビニのオーナーは、形だけは「経営者、一国一城の主」としておだてられながら、実際は商品発注や廃棄・値引きの権限もない「名ばかり経営者」として、良いようにこき使われているのです。これがブラック企業の社員やバイトなら、まだ労働基準監督署に駆け込んだり、労働組合を作ったり、組合に加入したりして対抗する事が出来ます。最近では、組合のない職場のバイトでも、個人で加入できる労働組合もあります。最低でも「退職する自由」ぐらいはあります。ところが、オーナーには「辞める自由」すら無いのです。「辞める」と言おうものなら、本部が高額の違約金を請求してくるからです。
これでは奴隷と何ら変わりません。そこで、「オーナーも組合(コンビニ加盟店ユニオン)を作って団結しよう」という動きが出て来ました。労働組合と同じ様に、本部と団体交渉するのです。実際に、オーナー組合の申し立てによって、各地の地方労働委員会で時短営業を認める救済命令も出されつつありました。ところが先日、「オーナーは経営者であって労働者ではない。従って、オーナー組合も労働組合としては認められない」とする命令が中央労働委員会で出されました。これによって、今まで出されていた地方労働委員会の救済命令も全て無効とされてしまいました。
しかし、これもおかしな話です。オーナーが経営者であるなら、本部との契約も自由に変更できるはずです。少なくとも交渉する権利はあるはずです。転廃業も自由に出来るはずです。ところが実際は、商品の発注も自由に出来ず、値引きの権限もありません。果たして、他の業界にこんな「経営者」がいるでしょうか?今やプロ野球選手も、労働組合を作って自由に球団と交渉できるようになったと言うのに。
オーナーにあるのはバイトやパートを雇う権限だけです。しかし、会計は全て本部に握られ、店の口座も全て本部が管理しています。オーナーには送金専用の銀行カードしか与えられません。本部からは売り上げ達成の指令が絶えず送られて来ます。そんな中では、最低賃金ギリギリの時給でバイト募集せざるを得ません。しかし、そんな時給では誰も来ませんから、オーナーがシフトに入って休みなしで働かざるを得ないのです。
今まで薄利多売で業績を伸ばしてきたコンビニも、利益は全部フランチャイズの本部に吸い上げられ、実際は、労働者でありながら「名ばかり経営者」として、労働基準法や公正取引法で保護されない「奴隷労働」で成り立っていました。これは決して他人事ではありません。それは、「個人請負」の形で、この様な「奴隷労働」が他の業種でも広がりつつあるからです。24時間営業の便利さは、24時間酷使される奴隷労働に支えられています。「働き方改革」と言うなら、こんな「奴隷労働」こそ真っ先に撲滅されなければならない筈です。
ここまで来たら、もう採算や経営がどうこうという次元の問題ではありません。人の生き死にに関わる人権問題です。オーナーは何も「仕事をサボりたい」と言っている訳ではありません。「せめて深夜ぐらい休息させてくれ」と言っているだけに過ぎません。そんな細やかな要求すら、「採算が成り立たない」と言って契約見直しを拒否する本部は、もはや「鬼畜」としか言いようがありません。
最初から採算が取れないような不公平な契約内容そのものがおかしいのです。その様な不公平で詐欺的な契約内容は改革されて然るべきです。コンビニ各社はオーナーからの時短営業の要求にも応じるべきです。もし、それも無理だと言うのであれば、そんな事業に社会的な存在意義はありません。今の原発と同じで、とっとと廃業すべきです。
(参考記事)
セブンオーナー「過労死寸前」で時短営業…「契約解除」「1700万支払い」迫られる(弁護士ドットコムニュース)
大阪府にあるセブンイレブンのフランチャイズ(FC)加盟店が「24時間はもう限界」として、営業時間を短縮したことで、本部と対立していることがわかった。
この店舗は人手不足などを理由に、2月1日から午前1〜6時の営業をやめ「19時間営業」を開始。本部から「24時間に戻さないと契約を解除する」と通告されている。応じない場合、違約金約1700万円を請求された上、強制解約されてしまうという。
時短営業を求めているのは、セブンイレブン南上小阪店(東大阪市)のオーナー松本実敏さん(57)。店の売上は平均レベルで順調だが、人手不足から運営が困難になっている。
セブンでも、ビルなどの施設内にあるサテライト店のほか、少数だが加盟店でも24時間営業ではないところがある。「特別な合意」があれば、24時間ではない営業も可能であり、時短営業の許可を求めている。(編集部・園田昌也)
●妻を亡くし、人手不足が顕著に
松本さんは2018年5月にがんで妻を亡くした。妻は毎日店舗で働いていて、亡くなる1カ月半前でも、4時間ほど勤務していたという。それほど店は忙しかった。
松本さんは、喪失感を抱えたまま、2人分働いていたがついに限界を感じるようになった。
時短となった今も朝5時〜夕方6時まで13時間ほど働く。24時間営業なら16時間は働かないと店が回らないという。妻の死後8カ月ほどで完全に休んだ日は片手で足りる。
コンビニではスタッフを確保しづらい状況が続く。最低賃金は年々上昇しており、この傾向は今後ますます強くなると予想されている。加盟店の多くは家族経営だけに、松本さんのような事例は、ほかでも起こりうる問題だ。
「独立した事業者」ではあるが、コンビニオーナーには営業時間を決める自由がない。解約金や違約金が発生しうるためギリギリまで働き、「24時間年中無休」を支えなくてはならない。そんな業界の当たり前に一石が投じられている。(以下略)
例えば、私の住んでいる大阪・西成のあいりん地区も、近年はローソンやファミリーマートのコンビニが、新今宮駅や堺筋の交差点付近に多数出店する様になりました。極端な場合は交差点を挟み、ほぼ向かい合わせの位置に、同じコンビニチェーンの店が立ち並んでいます。
何故そこまでしてまで出店するかと言うと、陣取りゲームの要領で、顧客層を囲い込んで行く為です。そうして、顧客から如何に多くむしり取るか?これが「ドミナント戦略」と呼ばれるものです。
この戦略の狙いは勿論、顧客層の財布にあります。だから、幾ら集中出店と言っても、出店するのは外国人観光客も歩く表通りだけです。あいりん地区の奥深くへは絶対に入り込もうとしません。
しかし、そんなに集中出店されたら、バイトも狭い地域内で奪い合う事になります。おまけに、人手不足だと嘆きながら、求人票に提示する時給は最賃ギリギリの低賃金。これでは、幾らバイト募集掛けても、応募なぞある筈がない。