今日、質問が来ました。N県K町のM保健師さんです。
質問の趣旨は
「全盲の83歳の男性から脳機能テストをしてもらいたいと依頼があったが、テストの方法は?
本人はとてもしっかりした方だが『新聞も読めなくなり、書くこともできなくなり、世界が狭くなったためにボケるのではないか』ととても心配している。生活指導の要点は?」
テストに関しては、視覚を用いるテストはできませんね。
MMSは「書字命令」と「文を書く」と「模写」が相当します。
「三段階口頭命令」は、手で紙を触らせてあげるとテストは可能です。
でも、時の見当識がベースになりますから、そこを丁寧に聞いてあげることで、生活のレベルは想像できるのですよ。
この方の場合は、自分で心配できるくらいですから、時の見当識は5点だと思われます。そうするとMMSは実質24点以上と想定できるのです。(ここがわからない人は質問してきてください)
マニュアルAの77ページ以降を参照して前頭葉機能のちょっとした傾向はうかがうことができると思いますが、中核的な機能(注意の集中と分配)に関しては、かなひろいテストが実施できませんから、測定不能ということになります。
でも、ご心配なく。生活実態は脳機能が働いた結果です。
私たちは、脳機能を測って生活実態を知ろうとするのです。
その逆、生活実態を仔細に観察することで、脳機能を知ればいいのです。30項目問診票を使いながら生活実態に迫ってごらんなさい。本人にも奥さんにもよくよく確かめてみるのです。
種々の障害(身体的なもの・精神的なもの)は、生活していくうえで、確かに生活のレベルを下げることは間違いありませんが、その障害を引き算してみて「さて脳機能はどう働いているか?」というつもりで見てください。
生活指導です。
視覚刺激がない状態というのは、脳にとって苛酷な状態ではありますが、「ないこと」を言い立てるより「残っているもの」の活用を考えるべきでしょう。
感覚を表す言葉として「五感」があります。視覚・聴覚・触覚・味覚・嗅覚の五つです。
聴覚を活用するところから始めましょう。
会話:普通の会話だと表情や身振りという視覚情報が活躍します。それが使えないので、声の大小・高低を使って感情を込めて話すように。
これは御本人にもご家族にも指導しなくてはいけません。
もちろん体にタッチしながら話すこともいいのです。
ニュース:TVでもラジオでもいいのですが、定時のニュースを必ず繰り返して聴くようにします。「目で読む」ことができませんから何度も「耳で確認する」という意味のほかに、何時かを類推する手段にしてほしいのです。
もちろん社会とのつながりを断たず、関心を持ち続けるという大きな意味もあります。
音楽:聞くことも歌うことも、右脳刺激としてはとてもいいのです。もともと好きなジャンルがあったらそこから始めます。なければ、ナツメロでも小学校唱歌でも 。最後には歌えるように励ましましょう。
笛やハモニカでも、楽器ができたらこんな時には助かりますが・・・
触覚:例えば、幼児用ですが「型はめ」の種類があるでしょう。ああいうものを「右脳刺激だから」ときちんと説明してやってもらうこともいいでしょう。
洋服を着るときにも、色の説明はしても、デザインはセーターなのかカーデガンなのかトックリなのか、自分で触って確かめて今日着る物を自分で決定してもらうというような、配慮がほしいところです。
味覚:普段は、食事でこまらせないように「これは~です」と説明するほうがいいと思いますが、たまには食べやすくしておいて「これはな~に」というような遊び心もあっていいと思います。
とにかく会話ができるようにいつもいつも考えるということです。
臭覚に関しては、ゲーム風に楽しめるならやってもいいと思いますが、余程はっきりした「におい」が必要ですね。
脳のリハビリを考えるときには運動はいつでも大切です。
でも、視力障害がありますから歩くときには十分の注意が必要です。
その他の運動としては、椅子に座ったままやれる運動が考えられます。ラジオ体操になじんでいたら、録音しておいて座ったままやればいいのです。歌に合わせた体操でも、この方の今のレベルならば覚えることができますから、ちょっと手助けして覚えてしまえたらそれを楽しむこともできますね。
一番大切なことは、「自分は大切な存在で、自分が生きることが意味がある(自分にとって、家族にとって、~さんにとって)」ということを実感させてあげられるような体験ではないでしょうか?
それは、どうやって実感してもらえるかは、どのように生き、どのような家族関係を築いてきたのか、その人の生き方そのものにかかっています。
ボケるかどうかは生き方の問題なのですね。