このように好き合っているから安心してねと親に伝えているのだろう。若い二人は親の前でさりげなく抱擁する。ちょっと目を離すと長椅子の上で重なっていたりする。こちらは寛大な大人を演じようとしてうろたえる。
吉本隆明はつぎのように発言する。母親の心理状態は子供の無意識の形成に影響を与え、子供の性格の大部分は一歳未満で決まっちゃう。だからその頃に夫婦仲が悪いとか、経済的な心配事があったりすると、母親の胎内にいる子供は萎縮して動きが鈍くなる。「こんな子供は本当は欲しくなかったのに」 と思って母親がいやいやお乳をやっていたりすれば、そうした心理状態も子供に移っちゃいます。覚悟して若い二人を祝福するのは気分のいいものだ。元気な女の赤ん坊は 「すみれ」 と名がついた。いつでもいつまでも祖父母は孫の世話をやきたがるものと娘が思い込んでいるふしがある。時々尋ねて来てくれるからいい。毎日子守をするなんて冗談じゃないこれは誰の子だとなる。
聴覚、視覚、臭覚、味覚、触覚のうち聴覚を早く獲得するのではないか。たらいの衝撃音には全身で反応していた。視覚は初めはぼんやりと明るさが分かるぐらいと言われる。けれど赤ん坊にすべての像が見えているかのように思いがちだ。こちらから仕向けたことだが、乳首と間違えて抱っこしている私の二の腕にしゃぶりついた。吸引力強くキスマークがついた。別の日に同じことを仕向けるとまずい味の筈なのに同じ事を繰り返した。味覚はまだまだのようだ。泣くことは拒絶と思っても、原因は別にあって、あきらめずに哺乳瓶を押し当て続けるとミルクを飲み始めたりする。こちらの予測ははずれることが多い。口周りを刺激すると笑顔になる。親でないから未分化の状態を冷静に観察できる。そして自分の若かった頃のことを思い出す。こんな刺激が孫からの贈り物だ。
二人は5月に産まれたばかりの赤ん坊を連れてアメリカに帰国した。8月の中旬には帰る。東海岸のアトランタまで行き、乗り換えてノースカロライナ州のウイルミントンまでの長旅だ。2週間の滞在中に婿殿の父親の結婚式もあるという。このように世界は広く大胆である。