「深い霧」
頭にはいつからか
深い霧が立ちこめて
僕の目はそれから
摺ガラスを通したように
ぼんやりと輪郭を失った
風景を見ています
それで時折は
平野をさっそうと走る
白い馬の早さを
なびくしっぽを
とらえきれないのです
あるいはその上に乗っていた
姿勢を正した美しい人の姿も
鞭ふるう一撃も
蹄の跡も消えている
なにかが通った
かすかな印象を
額になすりつけて行くだけで
僕は青いバツ印を
沢山 額に刻まれて
ますます頭の中の霧を濃くして
奇妙に唇をゆがませる
空を一瞬に渡り消える
虹の煌めきのようなものを
舌の上にうまく現わせずに
おしゃべりを
覚えたばかりの赤子より
つたない言葉は
はたからみれば
口を捩り捻じ曲げて
今にも泣き出しそうです