風のささやき 俳句のblog

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とある朝に 【詩】

2024年01月18日 | 

「とある朝に」

僕が目を覚ますまで
あなたが口づけをくれて

その柔らかい息使い、微笑みが影になる
その顔の向こうには
手を伸ばしたくなる青空があって

実際に、僕は、そうした
戻す手であなたの背中を抱きしめた
頬が重なり柔らかだった、僕の顔は
青空に向けられて、決然とした彫像のようだった

目覚めは悲しい
そこから始まるのが悪夢
それが僕の一日の、始まりだった

涙は雨のように降り続いた
降り続くものが涙だった
かすむ風景の色彩は
追剝ぎにあった鼠色
ビルも木立も、信号も
人も車も、横断歩道の
工事現場の重機さえ
そこから滴り落ちるのも涙だった

その涙も乾くことを知る
と、あなたに乾いた涙は
夏の扉を開けるように
一杯の降り注ぐ陽ざしだった
濡れていた分、乾いた
涙に洗われた風景は、色鮮やかだった

目覚めが悪い夢ではない事
心の振れ方で頬を触る風も
優しい指先をしているということ
人も、むさぼるだけではなかった
穏やかな笑顔を、雑踏に返す人もいて

それはあなたの指先から
波紋のようにゆっくりと広がった、気づき
一人ではどうすることも、できないでいた
固い鎧、僕の弱さ、恨みつらみ、を
ひび割れさせて、少しずつ砕く、その勇気

心を許すことを覚えれば良かった
おずおずと心開けばそこに
触れてくれる人もいる
その分、傷づけられることがあるにせよ

そうして目覚めた
あなたの口づけ、柔らかい余韻が
瑞々しく残る青空は新鮮で
桜吹雪が、ただ幸せに舞う、ようでもあった

僕は、もったいないことをしていたのかしら
それは、言っても仕方のない独り言
あなたの背中、その上に置かれた僕の両手
あなたの重さ、感じながら目をつむる
温かい、確かにすっと
青空が僕の中に、取り込まれている

縋ることも、やがては虚しく終わることも
知っていて、なお