「古い家で」
その古い家は、高い所に咲いた
ノウゼンカズラが迎えてくれた
その橙色のアーチを潜り
靴を脱いで、夏の足跡もそこまではついてこられない
ひんやりとした土間には
笑っているおばあさんがいた
その皺の間に悲しみや寂しさ織り込んで
優しい言葉だけが残った
柔らかい方言が耳に心地よかった
飾られたご先祖様たちの写真から
茶飲み話のような穏やかな
ひそひそ声も聞こえてくるようで
さっきまで、裏のおじいさんが自転車で来ていた
そのままになった、梅干やら、茄子漬
僕の苦手なラッキョウも残っていた
まだ温もり残す茶碗には温かな話の名残が
漂っているようだった
僕はサイダーをご馳走になって
おばあさんの話しを聞いて、聞かれるがまま、学校の話などをする
それが楽しい話なのかどうか
けれど、興味深そうに話を聞いてくれる
頷きに僕も、もう少し話をしたくなって
その家は蚕を飼っていた
繭を手に取り、興味深そうに見る僕に
その中がどうなっているのか
鋏で開いて見せてくれた
手の上に載せられた小さな蛹
幼虫から蛹へ、繭の中の薄明りに眠り
やがて成虫になる、その予兆と変容の間の、身を護る鎧
僕も大人になること、大人たちの繭に
護られていたことは、後ほどに分かること
その繭は、いつも応援する声に満ちていた
僕はその繭玉に育まれていた
今でもその声が僕に、力をくれている気がする
背中を支えてくれる
もう顔を出しても
覚えていてくれる人もいない古い家
僕がもらった無償の、応援の声と一緒に
思い出す、そのノウゼンカズラが迎えてくれた
家の門構え
僕も、今では、背中押す側に、なれているのかしら
その応援を、君たちに、その先へとつなげて行きたい