並大抵は勿論、自称「エヴァンス・ファン」の方でも、この作品を所有している確率は決して高くないだろう。
まるで「日本のマーケットなど相手にしていないよ」と頑ななエヴァンス・ファンを嘲笑うかのようなカヴァで、更にまたC・オガーマンのオケ付きとなれば、エサ箱で見つけても手を引っ込める可能性が高いのではないか?
ただ、MPSレーベルに気を留め、勇気を出しカヴァ(国内盤)を裏返し、データに目を通すと考えが変わってくる。1974年2月11、12日、NYのColumbiaレコードのスタジオで録音され、エンジニアがあのフランク・ライコと言うクレジットを見ると、がぜん、別の意味で好奇心が湧いてくる。これでは実質、Columbiaのレコードではないか(笑)、さて、音はどうだろう。
所有している盤は国内盤なので正確ではないけれど、少なくともColumbiaではなくMPSの音になっている。
で、内容はどうか、と言えば、100%個人的好みですが、SIDE1(1st movement)、SIDE2(2nd movement)、どちらもエヴァンスのp(アコーステイック)がたっぷり聴けるパートaで充分かな。1965年の共作”With Symphony Orchestra”ではC・テイラーがツボを心得たプロデュースに当たっている一方、本作は残りのパートがオガーマンの世界が濃く出過ぎているようで、しつこいリフ・フレーズが馴染めない。勿論、こちらの耳がタコなのかもしれないけれども。それはともかく、何も知らず、初めてこの両パートaのエヴァンスのpを聴かされたら、本作への偏見はきっと変わるでしょう。
本作に寄せたエヴェンスの言葉が、
「このやりがいのある作品を制作したMPSに心から謝意を表すと共に、記憶に値する重要作品を書き、初演ピアニストとして三顧の礼を以って私を選んでくれたクラウス・オガーマンに対し、深甚の感謝と敬意を表すものである。」
エヴァンス・ファンの中には、「余計なチャレンジなんかする必要はない。ピアノ・トリオだけで十分で、それもラファロとのヴィレッジ・ヴァンガードのラインなら最高」と思っている方が少なくない? もし、そうなら、エヴァンスは半生、そうした有言・無言の圧力と戦ってきた訳で、アーティストとして、やりきれなく、そりゃ、長生きできないでしょう。