jazz and freedom and avenger

勝手気ままな戯事日記 暇つぶしに・・・・

曲順の妙 ・・・・・ AT TOWN HALL Vol.1 / BILL EVANS

2022-07-31 |  Artistry of Bill Evans

 

 

不思議な作品だ。評論家達もファンも挙って褒める。しかも一様に。

話し声やグラスのぶつかる音でブチ切れ、「黙れ!」とばかり鍵盤をガーンと叩いた前科があるエヴァンスにとって、雑音と無縁のコンサート録音は望むところ、カヴァが内容を物語っている。しかも、その象徴たる曲がコンサートの前に急死した父への鎮魂歌を含むソロ演奏となれば、誰だって最大級の賛辞を贈るだろう。

でも、BEST作、人気作のアンケートでは上位にくることはまずない。「エヴァンスはトリオ」に限る、と力説するファンでさえ。

オリジナルの曲構成は

A面、”I Should Care”、”Sprihg Is Here、”Who Can I Turn To”

B面、”Make Someone Happy、”SoloーIn Memory Of His Father ・・・・・、の5曲

最初に聴いた時、質の高さに「さすが!」と膝を打ったものの、心の隅で量的に欲求不満を覚えた。A面3曲でトータル15分強とやや短め、B面は17分とまずまずですがソロが13分を占める。つまり下種の耳は質より量を求めたのだ。暫くすると「ベスト・オブ・ビル・エヴァンス」というオムニバス盤がリリースされ、何と未発表の2曲が含まれていた。出し惜しみなんかしなくてもいいのに、Vol.2はどうなるのか?と思いつつそのままになった。

当時、LP片面の収録時間の制約と我慢していたが、80年頃? ポリドールからその2曲が入ったLP国内盤がリリースされたのだ。いやぁ~、待った甲斐がありましたよ。やればできるではないか!(笑)

さぁ、ここからが本題です。

その2曲”Beautiful Love”(6:47)と”My Foolish Heart”(4:43)がA面ラストとB面トップに差し込まれた。

 

 

この何気ない順が絶妙な働きを見せる。A面は3曲が4曲になったことで満腹感が得られたと同時に”Beautiful Love”はアンコールに演奏されたらしく、まるでコンサートの第一部が終わったような気分になる。そしてB面は静かに”My Foolish Heart”で始まり、最高の出来を聴かせる”Make Someone Happy”に続き、そしてソロへ、この流れが実に好ましい。もし、ポリドールの技術担当者がただ単に演奏時間だけでなく、聴き手の心理を読み取り、差し込み順を決めたならば表彰ものですね。とにかく、この2曲が加わり印象がガラッと変わりました。

なお、この2曲、違うマスター・テープを使用しているのか、音が若干くすんでいるけど、ほとんど気にならない程度です。元の5曲の音は上等です。

さらにもう一曲、未発表の曲、”One For Helen”が加えられたCDもリリースされていて、そちらは世間の声を忠実に守り、尻尾に3曲、纏めて挿入されている。

好みは人それぞれですが、LPの方は”Beautiful Love”で針を上げ、裏返しの休憩タイムを挟み、今度は”My Foolish Heart”で第二部の幕が上がるという儀式が半世紀以上前のNYのコンサート会場にいるような錯覚を呼び起こす。些か手応えの緩い”My Foolish Heart”ですが、このポジションで俄然、生きてきます。

独断ですが、この国内盤LP(23MJ 3039)ならエヴァンスのBEST作上位に挙げるファンが増えてもおかしくないでしょう。普段はオリジナル仕様を尊重していますが、今回は例外です。エヴァンスにしては本意でないでけれど。自分にはオリジナル曲だけでは少々高尚ですね。

ところで、巷では未発表なら「何でも出す、出る、買う」と言う風潮が強いけれど、リリースされていないVol.2の未発表分は果たして日の目を見るのでしょうか? 噂ではビッグ・バンドとの共演らしい。素性の分からぬ音源発掘より、出来の良し悪しを問わず、業界を挙げて高いハードルを越えて欲しい。