高いところにまったく恐怖を感じない人がいる。
高所不感症と言ってしまっては適切を欠くと思うが、高いところにいるということを感じないのだろう。
高いところが怖いのは、落ちたら怖いと思うからで、落ちることがまったく頭に浮かばず、考えもしなければ怖さはなくなる。
高いところで芸を見せるのに、命綱や安全ネットを使わない人は、落ちたときのためにという備えが怖さを呼ぶから嫌うのだろう。
備えがときに憂いを呼び起こす。
その心理を逆用されることがある。
巨大施設で経済性を追求するには、怖さを思い浮かべさせないことに万全の工夫をすればよい。
際限のない安全性の向上より、はるかに合理的ということになる。
防波堤を10メートル高くするよりも、海は怖くないと思うほうが人間らしい。
非常用電源装置を多重化分散配置するよりも、電気は止まらないと思うほうが文化的生活感にひたれる。
安全神話とは、安全を信仰させるためではなく、危険を思い浮かべさせない心行処滅の佛義であったか。
高所トレーニングの科学 (運動生理学シリーズ (6)) | |
浅野 勝己,小林 寛道 | |
杏林書院 |