昨日の電車は退屈しなかった。
向かい合わせの席で斜め前に坐っていたお方が、いろいろなことを見せてくださったからである。
ひざに抱えた、シックな色合いと繊細な図柄が上品に見える大型のトートバッグ、それをがさがさとかき回していらっしゃる。
撹拌時間が長いので、隣のおじさんも気になってか、横目でバッグを半分覗き込んでいる。
ややあって、つかみ出されてきたのが、きれいな仕上げのケースに入った魔法瓶。
ふたをくるくる回してあけ、じかに飲みはじめた。
中味は当然わからないが、ゆっくり飲むこと約5分。
空になったらしく、ふたをして終わり、バッグに丁寧にしまう。
次に出てきたのは、小さな容器。
タブレットを2~3粒出して、一つだけ口に入れる。
口をあいて放り込むことはしない。
親指と人差し指でつまんで、静かに口に運ぶ。
残りは、容器にいつの間にか戻っている。
容器と入れ替わりに、純白の大きめのハンカチが出てきた。
どこを拭くのかとかと思っていたら、広がってひもが出てきた。
ハンカチではなくマスクだった。
マスクのかけ方も、両側のゴムひもを引っ張っておいてペシャンと乱暴にかけるのではなく、先にマスク本体で鼻と口を押さえてから静かにゴムひもを片方ずつかける。
マスクかけがルーチンの最後らしく、静かに目を閉じる。
見つめなくても自然に視界に入ったこの所作連は、多分毎朝行われているのだろう。
坐る席も決まっているのではないかと、ふと思った。
幸運を呼びよせる 朝の習慣 | |
佐藤 伝 | |
中経出版 |