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Brugge Style
ルーヴル別館 @炭鉱の街ランス
19世紀半ばの作品で、ルーヴル=ランスの展示物のなかでは一番新しいもの
人間はなぜこういうテーマ(この場合「犠牲」とか)のを繰り返し描いてきたのか...
シャンパーニュ地方から今度は西へ。英国の方向へ。
フランス北部のランス(ドーバー海峡のカレーまでは車で1時間、パリからは高速列車で1時間半だとか)は、炭鉱の街として産業革命以降の発展を支えたものの、今は廃れ、高失業率や低所得にあえぐ街のひとつである。
その街が街おこしの費用を工面し、パリのルーヴル美術館の別館を招聘したのは、慧眼と言えるだろう。
2021年の開館以来、このルーヴル別館は、単なる「別館」の域を超え、地域の過去と現在、ヒューマニティ、芸術を結ぶ特別な場所として注目を集めているという。
鉱山地帯としてかつて栄えたこの地域の再生という大きな使命を背負い、文化を通じて未来へ投資したというわけだ。
わが故郷、神戸が、京都や大阪にインバウンドがあふれるなかで取り残されていることに危機感を覚え、思いついたアイデアがポートタワーと水族館の改装だというのだから、「そら神戸は取り残されるわな...」というのが、神戸っ子の率直な感想である。
ポートタワーの保存や水族館の改築は地元にはもちろんありがたい話ではあるが、それで海外からの観光客が呼べるかと考えたら答えは明白であろう。
この美術館の魅力は、まずその建築にある。
このミニマリスト建築は、世界的にも有名な日本の建築家ユニットSANAA(妹島和世と西沢立衛)の設計なのである!
アルミニウムの銀色がモダンで透明感あふれるデザインながら、過去のこの街の「工業」の面を思いださせる。
建物全体が公園(炭鉱の入り口がうまく残されている)と、この地帯特有のシルバーグレーの空に溶け込むよう設計されており、館内の悠々と広がる空間が気持ちいい。
ルーヴル=ランスの展示の目玉は、広さ3000平方メートルもの「時間のギャラリー(Galerie du Temps)」だ。
従来の美術館のように小部屋がいくつもあるのではなく、ぶちぬきの一部屋である。
紀元前2万年前の壁画から、19世紀半ばまでの「作品」が、時系列に沿って一望にできるように。
ルーヴル美術館の膨大なコレクションから厳選された200点以上の作品が、時間の織物のように広がる...たとえば、人類のもっとも初期の作品のひとつが縄文式土器である。
時間的弁証法を用いた美術館があるとしたらこんな感じになるのかしら...と思った。単なる過去の遺産を展示する場ではなく、歴史、現在、未来を結びつけ、変化のプロセスを思索する場、だ。
写実性のあるライオンよりも、こちらの方が見ていて飽きない
紀元前4000年から19世紀半ばまでの作品が、時間と空間を超えて「われわれは何者か」「われわれは何をもって人間なのか」を問いかけてくる。
わたしが最初に感じたのは、「人間は太古からシンボル(象徴)とその交換が好きなのだなあ...」。
上の伝聞を頼りに作成したのであろうライオンや、架空のグリフィン、こういうのが好きだ、わたしは
そういえば、この展示方法は、アブダビのルーヴル別館も同じだった。
そしてあちらもモダン建築が非常に印象的だった。
時代を超えて一望できる展示は、壮大な物語を体感させる。
つきなみだが「我々はどこから来たのか 我々は何者か 我々はどこへ行くのか」。
特別展もおもしろそうなのがしばしば開催されているそうで、帰省先のベルギーのブルージュからも車で1時間15分ほどとさほど遠くないことだし、応援しにいきたい。
こちらが展示のなかで一番古いもの
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シャンパーニュ地方にあるという
パリから東へ車で1時間半ほど、シャンパーニュ地方に入る。
豊潤な丘陵と、今の時期は葉が落ちた葡萄の低木に濃厚な霧がかかる。
その間を走るまっすぐな道をドライヴするのも楽しい美しい地方だ。
上の写真、道の突き当たりにシャトーが見えますね...
20数年前、結婚パーティーはシャンパーニュで開いた。
できるだけ小さな村にある、シックなホテルを探して。
美酒と美食、シャンパーニュの小さな村々のレコルタン・マニュピラン(自畑の葡萄のみを用いてシャンパーニュを一貫生産する比較的小規模な醸造家)を巡り、散歩し、ランスの大聖堂を参拝...
などで人々をもてなし、あれが20年以上も前で、まだ娘はこの世に存在すらしていなかったなど信じがたい。
今回はそのとき訪れて、ドサージュされていないシャンパーニュが印象に残ったレコルタン・マニュピランにも立ち寄ることにした。
過去26年間にシャンパーニュ地方は何度も訪れているが、この小さな村に立ちよったことはついぞなかったので(パーティーに出席してくれた友達は、しばらく毎年行っていたそうだが)気分は高揚する。
と、その錆びた看板も、鉄門も、建物の背後のタペストリーのような葡萄畑も当時と変わらないものの、入り口は昼前から閉まっており、電話をかけてみたりしたものの、人の気配がない。
この時期は長い正月休みを取る醸造家が多いため、こちらもそうだろうか、と思いながら昼食へ行った。
昼食をとったシャンパーニュ・バアで提供していたグラス・シャンパーニュが、手頃な価格ながら複雑で優雅で、そちらでも何本か購入することに決める。
領収書を発行してもらっている間、夫が若いマダムに「20年以上前に訪れた作り手」の話をした。
彼女は「何年か前にルイ・ロデールに身売りしたのよ」と話してくれた。
ルイ・ロデールと言えば超有名メゾン、わたしはもちろんクリスタルが大好きだ...しかし、もの悲しい。
一方で、今もあの葡萄はルイ・ロデールの中で生き続けているのか...
奇しくも数日前、CNNのニュースで2024年のシャンパーニュ出荷率は前年比で10パーセント落ちたと読んだ。
ところで、好奇心からシャンパーニュ地方のごく庶民的な大型スーパーの売り場も見に行った。
なんと、マニア垂涎のあれやこれが!!
Krug Collection数本、Salon 96その他、Jacques Selosse 92やMillesime、Henri Giraud、Bollanger Viellies Vignes...
大衆スーパーですよ? さすがである。ここを見ているだけで楽しい。
こういう掘り出し物を求めて来店する本物のマニアがいるのだろう。
わたしはクリュッグに目がなく、家のセラーにもコレクションがあるが、本物のマニアとは全く次元が(予算も)違う。シャンパーニュ地方最大の街ランスで立ち寄った酒屋ではとっておきの一本を薦めてもらった。
どういうものが好きか、予算はいくらか聞かれ、恥ずかしがりながら述べる。プロの前で話す自信はない(笑)。
フランスの専門店では店主や店員さんの話がめちゃくちゃおもしろい。これはファッション専門店も、ワイン専門店も同じだ。
シャンパーニュ好きの友達が家に来てくれるのが楽しみ。
夫は全く飲まなくなったし、娘も一杯がせいぜいなので...
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集団的夢のあとさき hotel de la marine
パリのコンコルド広場に立つ、双子の美しい建物の一翼、Hotel de la Marine (以下、オテル・ド・ラ・マリン)に、今回は滞在中に2回行ったのは...
パリで購入したかったものを商う店が1月いっぱい正月休みだったから。
そして、オテル・ド・ラ・マリンのミュージアム・ショップには、ごく一部だが欲しかったものが置いてあるのを思い出したからだった。
ちなみに双子の建物のもう一翼は有名なホテル・クリヨンである。
そう言われてピンとこない方も、写真をご覧になれば「ああ、あの建物!」と思い出されるであろうほど、パリの中心部に完全に溶け込んだ、18世紀新古典様式の美しい建物だ。
ちなみに両側にはシャンゼリゼ庭園とテュイルリー庭園、裏手にはブティックの立ち並ぶサントノレ通りとマドレーヌ寺院、という、「ザ・パリー」なロケーションである。
オテル・ド・ラ・マリンは、18世紀にルイ15世の命を受けた建築家ジャック=アンジュ・ガブリエルによって完成した。
当初は王室の家具保管庫(Garde-Meuble de la Couronne)として、フランス革命の1789年から2015年までは、フランス海軍の本部として機能していたため、「マリン」(海軍)の建物と呼ばれている。
特に有名なのは、1789年7月14日のバスティーユ襲撃を、ルイ16世はここで知ったという歴史的瞬間だろう。
ルイ16世はバスティーユ襲撃の歴史的重要性を理解できず、宰相に、「ではこれは反乱なのか?」と尋ねたという。
それに対し宰相は「いいえ陛下、これは革命です」と答えた...という逸話はあまりにも有名だ。
それはいいや。
今回も話は長い。
さて、わたしは2021年になって改装が終わり、美術館として最新の技術を備えたオテル・ド・ラ・マリンをうろうろしていて、ベンヤミンの『パサージュ論』を思った。
最も古いものが最新のものの中に入れ子状になっている...しかもその最も古いものはさらい古いものの中に...以下続く。
「時間の重層性」...ああ、この入れ子の中に飛び込みたい。壺中天の中に飛び込む仙人のように。
そしてわたしが買い求めたかった雑貨も、ルイ14世のバロックやルイ15世のロココの様式を参照しながら、現代の文脈で再構築したのを売りにするデザインだったのだ。
そのブランドの名もMerci Louis(ありがとう、ルイ)。
ブルボン王朝がすばらしき美学を残してくれたおかげで現代でも素敵なもの作りができる、ありがとう! というのがコンセプトだ(笑)。
現代のデザインが過去を参照するのは、デザインが常に「新しさ」だけではなく、「伝統」を引用することでその価値や魅力を高めることを示している。
例えば、ルイ14世のバロックの壮麗さ、マリー・アントワネットのロココの愛らしさを現代のデザインに取り込むことで、消費者に「歴史の重み」「洗練された趣味」「伝統とモダン」などを提供できる。
「過去の文化を参照しながら、それを現代の文脈で再構築したもの」は、歴史が「過去」として閉じているのではなく、現在と未来の中で新しい価値を持つ「生きたもの」として存在することを表しているといえよう。
「古いものが、最新のものの中に入れ子状態で存在する」ことの典型的な例である。
消費者がそのようなデザインを選ぶ理由の背後には、「豪華で贅沢な宮廷生活への憧れ」や、「伝統と権威に触れたい」という無意識的な欲望がある。
「歴史の断片」が「夢の形式」で現代に入り込むのである。これが「集団的な夢」だ。
記憶や象徴、憧れが集団的夢として生き続け、形を変えては現在の消費文化に幸福感として影響を与えるのである。
一方、ベンヤミンの批判的視座から見ると、過去の文化的価値(この場合は宮廷文化など)が、現代の消費市場に商品として装いを変えつつ登場することは、資本主義が歴史を「商品化」するプロセスの一環である。
過去は単なる記憶や遺産として保存されるのではなく、現代の欲望に組み込まれ、商品として消費可能な形で再生産され続けるのである。
過去・現在・未来を重層的に結びつける「時間の入れ子構造」、この夢の構造を批判的に捉えることこそ、現代に必要な「覚醒」への第一歩なのだとベンヤミンは言う。
夢は一見、美しく魅力的でありながら、現実を覆い隠し、現状を固定化する側面もあるからだ。
夢の背後には、歴史や権力の構造、資本主義のイデオロギーが隠れている。
現代人は過去の栄光に憧れて夢見る。
しかしその背景にある商品化、階級や搾取の象徴を意識することは少ないのである。
興味深いのは、ルイ14世や15世自身がもはや彼らは望んだ形とは違う形で神話化され、現代における集団的夢の一部となってしまっている点だ。
絶対王権の豪華さや権威は、もはや歴史的現実ではなく、理想化された「永遠の贅沢」として存在するのみなのである。
こうして絶対王権の遺産は、夢の中で新たな形を与えられ、現代の消費文化において永続的に生き続ける...
太陽王ルイ14世は、自らが築いた文化が現代において消費されることをどう思うだろうか?
その威厳が軽んじられることや、大衆化されることに対して激怒するだろうか?
それとも消費文化の中で永遠の命を与えられたと喜ぶだろうか?
あのメガロメニアックは意外に喜びそう...
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彼を追いかけてパリ ver. happy birthday song
パリに来た最大の理由は...
今日1月19日は英国の指揮者Simon Rattleの誕生日だ。
全然知らなかった...
知ったのは、サイモン・ラトル率いるLondon Symphony Orchestra(ロンドン交響楽団)のパリでのコンサート中。
1月14日@Philharmonie de Paris 。
わたしはベートーヴェンのピアノ協奏曲第4番を弾くKrystian Zimermanのためにその場にいたのだったが、彼がカデンツァで突然ハッピー・バースデイへ流れるようにスライドして行ったの!
驚いたのはわたしだけではなかっただろう。
会場は一瞬どよめき、その次の瞬間には拍手が鳴り響いた。
彼自身が即興のお茶目を一番楽しんでいるように見えた...これぞエレガンス。
その雰囲気はアンコールまで続き、ドビュッシーの『版画』からパゴダ(最近のリサイタルで必ず入っている)は洗練の極みで美しく、ショパンのソナタ第3番の最終楽章はまるで友人お家で弾いているかのような麗らかさと大胆さだった。
最後にはラトル氏はシャンパン・グラスを手にステージに出て来て...これからパーティーかしら。
楽しすぎた。
音・楽。
フィルハーモニー・ド・パリはパリの中心からめちゃくちゃ離れていて行きにくい。
タクシーで45分はかかる。
帰りはタクシーを待てずにメトロに乗って戻った...でもそれすらも楽しかった!
Michael Tippett (1905-1998): Ritual Dances
Mark-Anthony Turnage (né en 1960): Sco, concerto pour guitare
Ludwig van Beethoven (1770-1827): Concerto pour piano n°4
Krystian Zimerman, piano
ohn Scofield, guitare
London Symphony Orchestra, direction : Simon Rattle
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パリで夜食に蕎麦を食べに行く
夜の街歩きが好きだ。
夜更けにふらふらと街を歩き回り...パンテオンまで。
昼食の時間が遅かったため夕食を食べ損ね、夜食にうどんか蕎麦が無性に食べたくなり、タクシーを飛ばして...
アイスランドのものだという雲丹ののった蕎麦っ! 蕎麦大好き。
おやすみ
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