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Brugge Style
芦屋弁
先日、数年前までブルージュ在住だった、東京出身の友人とおしゃべりに興じていた。
あるタイミングで彼女がふと
「Moetさんって、お嬢さんとは何弁で話すんですか?」
と。
「こういう話し方よ。」
はて、これは何弁?
彼女がブルージュにお住まいだった頃、わたしたちの周辺には関西文化圏が形成されていて、
「ブルージュの運河を道頓堀に見立てて、キャビアでたこ焼き」
「大阪にご出張された方が、お母様からのプレゼントとして持ち帰られた最上級の神戸牛ですき焼き」
「広島ご出身の方にお好み焼きを焼かせて突っ込みまくる」
などという、思い出しても頬が緩む愉快な毎日を送っていたのである。
彼女はそんな関西人グループの中で唯一の東京ご出身者であり、われわれのコテコテ関西弁のボケや突っ込みや、ナンセンスな掛け合いを真剣に聞いてくれる、清らかで上品で本当に性格の良い女性だったのだ。
だからそれ以来、彼女のMoetに対するイメージは「関西弁のおばちゃん」であり続けたのであろう。
しかし、しばらくぶりに2人きりで会ってみたらMoetは何やら標準語に近い話し方をするではないか。なぜ?ということで一番最初の質問が出たのだ。
わたしは娘といわゆる「芦屋弁」を話す。神戸東部から芦屋、西宮の一部にかけた山の手(いや、山腹)で話されている、標準語に関西弁の単語とリズムの影響を受けた話し方だ。
...自分の話し言葉に「芦屋弁」という名があるということは後年まで知らなかったのだが。
実家では芦屋弁が共通語だった。そしてわたしは友だちに交わる時は神戸弁を使っていた。なんとなれば友だちの中で芦屋弁を話すと「ざーますおばさん」とからかわれたからだ。
例えば
「あなた、いー加減にして頂戴」(「<いー」「して」の部分に関西弁トーンの特徴あり)
「自分ええかげんにしときーや」
「宿題、してる?」
「宿題、しとう?」
...
わたしは相手が親しい関西人でない限り、標準日本語を話す。しかし必ずどこかが訛っているはずで、*それこそが芦屋弁デフォなのだ(たぶん)。
選ぶ言葉、微妙な敬語の使い分けで対人関係の距離を設定するのはソフィストな技術だと思う。わたしが生まれ育った時代と場所においてはそういう能力が最重要視された。
そういうわけで、娘も標準語、芦屋弁、神戸弁を完璧に使い分けられるよう仕込みたいと常々思っている。
でも彼女は日本語を聞く時間が圧倒的に少なすぎ、今のところ「あなた、いー加減にして頂戴」バージョンの、中年女性のような話し方をしてわたしの失笑を買う(笑)。
先日、「火垂の墓」を鑑賞中、「何言ってるのか全然分かりません」と言いながら引き込まれていた。ああいう綺麗なネイティブ関西弁をも話せる関西弁内バイリンガルになってほしいと願うのは無理な注文だろうか。
*「芦屋弁」と書くにあたって、ちょっと調べたのだが、「神戸弁」や「京都弁」「船場言葉」のようにサンプルを標本化したサイトや参考資料等は見つからなかった。もしご存知の方がいらっしゃったらぜひご教示下さい。
追記:ウィキペディアでだが、「神戸弁」の項目を見てみたら、なんとまあ、わたしの場合、「自分は今神戸弁をしゃべっている」と自覚しているときでも、こんな話し方は絶対にしない(もっとニュートラルなしゃべり方である)。もちろん街でこういう話し方をする人々に遭遇したことはあり、大変なつかしい。
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