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Brugge Style
英国的な、最も英国的な。

こういうレベルのものが無料で見られるのはやはりすごいと思う。
英国テューダー朝の王と女王の肖像画の"The Real Tudors"と、グレイソン・ペリー(Grayson Perry)の"Who are you?"展。
このふたつセットで見たらおもしろさ倍増。
英国テューダー朝の王や女王は、英国歴代王族の中では英国外でも最も名の知られているメンツなのではないか。
”popular, transient, expendable, low-cost, mass-produced, young, witty, sexy, gimmicky, glamorous, and big business"...6人の妻を持ったヘンリー8世もド派手だが、彼を知らなくても、その娘エリザベス1世を知らない人はいないだろう。
実際この時期に王権は拡大し、英国は世界の舞台に踊り出、徐々に「ヨーロッパの辺境」の汚名をそそいで行くのである。
そんな「英国」を喧伝する装置であるポートレイトの数々。絶対的パワーを宣伝するための絢爛豪華な衣服は、人物の顔の描写よりも重要に扱われ、細密に描かれたように見える。そして人物は過剰に飾り立てたために不自然に鯱張っておられるように見える。まるで観光地の顔ハメ看板(実際、多くの肖像画は王/女王のお顔をコピーしながら何枚も描かれた。つまり、モデルとして毎回画家の前で実際ポーズを取ったワケではない)...
それこそがちょっと田舎臭い。
そんなポートレイトが並んだ後、最後に「婦人像、おそらくエリザベス1世」と題された素画(写真右上)の妙なリアルさに打たれた。超リアルな英国人女性のポートレイト。これは現代的な感覚なのかもしれないが、この飾り気のなさにあふるる品こそが唯一無二の「女王」であるように感じた。
本物は飾り立てる必要がないのである。
余談。
この特別展示エリアを出るとすぐ他のテューダー期の展示エリアに続く。エリザベス1世の母、アン・ブリンの有名な肖像もここで見られる。
アンは、痩身色黒黒髪で、当時の英国の一般的な美人枠におさまるタイプではなかったかもしれない。おそらく大陸風に洗練された、英国美人の基準を覆すようなものすごい美女、頭のいい相当魅力的な女性ではなかったか。痩身色黒黒髪...キャサリン妃みたい? いや、アンはもっとずっと洗練されていたに違いない。
ただ、権某術数渦巻く宮廷の中で身内以外の権力者からは嫌われる立場にあり、また、当時の美の基準に完全マッチしていなかったせいもあって、その容姿は素っ気なくしか伝わっておらず、詳しく知ることができないのが非常に残念だ。

そしてこちら、紙幣風のグレイソン・ペリーの「コンフォート・ブランケット」。説明は不要、エリザベス2世のご尊顔。なんと鮮やかな。お見事。
エリザベス2世その人と同じレベルで一国を代表する人物は現代社会のどこを見渡しても他にいないと思う。まさに「女王」。そして今後はこういう人物は2度と出て来ないかも。
このブランケットには女王の他、英国を代表する人物やものの名前がちりばめられていて、例えばフィッシュ・アンド・チップス、雨、マグナ・カルタ、お紅茶、NHS、トップギア(TV番組)、スティーヴン・ホーキング、エルトン・ジョン、モンティ・パイソン...上にも引用した、"popular, transient, expendable, low-cost, mass-produced, young, witty, sexy, gimmicky, glamorous, and big business"そのもの。実はこれ、英国出身のポップ・アートの祖リチャード・ハミルトンがポップアートを表現した言葉なのだ。
テューダーの王、女王のプロパガンダを現代風に風刺したらこうなるのではないか...斜陽の英国はいますぐにこのブランケットを世界各地に送り、その地位回復をはかるべきである。
"Who are you?"と、ペリーはアイデンティティを問う。英国人だよ。他にどんな説明が必要だね。
(それを慰撫するブランケット...)
ちなみにこのブランケットはミュージアムショプで縮小版が"Comfort Blanket"Blanketとして販売されており、500ポンド也。あたしゃ、これが欲しくて欲しくて、いろいろ言い訳を考えてみたが、後ろ髪を激しく引かれながらショップを後にした。会員割引も効かないんですぜ...
(写真は両方ともnpg.org.comより)
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