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age of anxiety - 不安の時代




ロイヤル・バレエの3本立てを。
Kim Brandstrup “Ceremony of Innocence"
Liam Scarlett "Age of Anxiety"
Christopher Wheeldon "Aeternum"

前者2本はロイヤル・バレエでのプレミアだった。

わたしは初めての演目を見るときは事前に情報を入れないことにしていて、解説は後から読む。
が、“Ceremony of Innocence"は、「失われた青春を惜しむ男」というのを前もって知っていれば良かった、と思った作品だった。つまり...

エドワード・ワトソン(Edward Watson)演ずる「惜しむ男」の動きの少なさは山のごとし。
公演回数が増えてもっとこなれた時にぜひもう一度見てみたいと思う。


若き振り付け家リアム・スカーレット(Liam Scarlett)による"Age of Anxiety"「不安の時代」。
「語りのロイヤル・バレエ」においても、最も語りの強い部類のバレエである。
この作品は感想をまっ二つに分けたようで、フォアイエで絶賛する人が大部分、そしてわたしを含め「饒舌な割に何か足りないのではないか」と感じた人が数割という雰囲気だった(あくまでも周辺の様子をうかがい、話をした人たちから知り得た範囲で)。

スカーレット作品で、プロットが複雑で語りが強いという点では、切り裂きジャック事件を題材にした"Sweet Violets"の方が数段そうであった。そしてあちらからは完全に充足しているという印象を受けたのに、"Age of Anxiety"は足りないように感じた。なぜだろう。

それはたぶん、「バレエ」鑑賞の基本心得からは全く外れた理由からだ。つまり、以下、わたしは「バレエ」に言われのないいちゃもんをつける(笑)。

かなり現実的な状況設定の中で、主要登場人物4人にバレエを媒体にしてここまでの語りをやらせるならば、全員が全員、ダンスが滅茶苦茶上手いというのは不自然ではないのかと思ったのだ。ああ、この感想、「バレエ」からはみ出てる...バレエを見てこんな感想を抱くのは初めてだ。
バレエが表現の手段なのだから、登場人物全員バレエが上手くて当たり前、お約束、それは分かっているのだが。

20世紀初頭、4人の男女が場末のバアで出会い、それぞれアイデンティティ探しの旅に出る...それを表現する「バレエ」は、現実世界では何なのか。おそらく人物それぞれの内面だろう。しかし、内面を表現するにしても人それぞれの個性があり、滑舌の良し悪しや表現の選び方の上手い下手等と同様、妙に不器用な人がいてもいいはずではないか...全員が全員、踊りがめちゃ上手いというのはいったいどうなのか。足が90度まで上がらず、音感が恐ろしく悪い人がいてもいいのではないか...と「オペラ内に、歌が下手だという個性を持った登場人物がいないのはなぜなのか」というようなアホな感想を拭えなくなった。
なぜだろう。あまりにも現実に近い世界が舞台の上に広がっていたからか。われわれが、アートを鑑賞する時に前提にしている「当たり前さ」を破壊する試みに遭遇してしまったのか? や、脱構築? 
「何か足らない」「何か不安定」と人に感じさせ「不安」にさせるのも狙いか? そうならすごいな。
それともわたしは何も分かっていないのか(たぶん)。
分からない。

それとは別にして、スカーレットは彼の振り付けのテーマとして「エロスにドライブされる人間」を描こうとしているのではないか、と強く感じた。


最も好みなのは断然"Aeternum"。
これはマリアネラ・ヌネツ(Marianela Nunez)の真骨頂。彼女の身体そのものの存在感がすばらしい。言うことなし。


「不安の時代」はスカーレットの作品のタイトルだが、3本の基調低音になっているように感じ、そういうとこ、憎いなあ。

今はロイヤルバレエをいつでも見られるところに住んでいるので、すんなり受け入れられる作品ばかりでなく、混乱させられたり、「あれ何?」というような作品をもたくさん見たい。


(写真はroh.org.ukより)
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