*文章は試乗当時のものです。
もしあなたが
もしあなたが昔からカウンタックに憧れ続け、ようやく手に入れられるだけのお金を手にしたのなら、一刻も早く手に入れたほうがいい。
このクルマはどのクルマとも違う、まさにキング・オブ・スーパーカーの名にふさわしい圧倒的な個性と快感を与えてくれるからだ。
もしあなたがたまたまお金に余裕があって、ちょっとカウンタックでも転がしてみるか、程度の気持ちなら止めておいたほうがいい。
カウンタックを操ることは、まさに雄牛と格闘するが如くハードなものだからだ。
いよいよコックピットへ
有料道路を降り、Uターンしながら陸橋の下へ。そこで前車ストップ。
いよいよ乗換え、いよいよあのランボルギーニ・カウンタックをドライブする訳だ。
既にフェラーリ360モデナのドライブですっかり心拍数が上昇した心臓が、さらに高鳴り始める。
初めてのランボルギーニ。
果たしてフェラーリとの違いはどこに?十数年前のスーパーカーとはどのようなものなのか?
ガルウイングが跳ね上がり、ドライバーが出てくる。結構、マッチョな男性。「いや~、面白いけど大変ですよ、こいつは。頑張ってください」。聞けばそのドライバー氏は既に色々なスーパーカーに乗ったことがあるらしい。でも、カウンタックは一番難しいらしい。緊張が高まる。
外から見たカウンタックは、まさにボンネットとエンジンの間にできた”スキマ”程度の空間に見える。意を決して乗り込む。えーと。まず右足を入れて、ハンドルを持ちつつ左手はサイドシル(このサイドシルがまたデカイ)左足を入れてようやく搭乗完了。うーん、なんと形容すればいいのか。想像通り、狭いことは狭い。グラスエリアが限られている上、メーターパネルやシフト周りの位置が高い。強固な鉄板に囲まれ、僅かなフロント視界部分だけ与えられるその独特のコックピットは、戦闘機というよりはまるで戦車。
ここで店長から詳細なコックピットドリルを受ける。
「まずクラッチペダルですが、シフトが完了したら必ず足をフットレストに置いて、クラッチペダルに触れないようにしてください。クラッチに少しでも足がのっているとハンクラ状態になり、最悪エンジンが炎上しますから」
おいおいマジですか。絶対そんな事態は避けねば。
「スタートする時もハンクラは使わないで下さい。アクセルも吹かす必要はありません。そのままゆっくりクラッチをリリースすればトルクがあるので走り出します。ストールしそうになるので不安になりますが、逆にアクセルを吹かしたほうがギクシャクしますから」
なるほどなるほど。
「操作系はどこもかしこも重いですが、がんばって下さい」
まあ古い車だからそうでしょうね。
「じゃ、楽しんでください!」
ガシャン、とドアが上から降りて密閉される。。
軽くアクセルを煽る。フォンッ、ととても12気筒とは思えない鋭い吹けあがり。空ぶかしのレスポンスの鋭さはモデナに引けを取らない。
先導のボクスターが動き始める。いよいよツーリング再開だ。
いよいよあのランボルギーニ・カウンタックを、写真でした見たことがなかったマシンを俺が、自分の手でドライブする訳だ!!高まる興奮!まずはおもむろにクラッチペダルを踏み込み・・・・ぐおぉぉぉ重い!重いぜカウンタックのクラッチ!いまだかつてない重さだ!
お尻をシッカリとシートバックに押し付け、あらん限りの踏力で踏みしめる。シフトレバーを1速に叩き込み・・・・
ぬおぉぉ、これまた重い!!シフトが重いクルマなんて初めてだ!ここからクラッチをゆっくりリリースするのだが、はっきりいって辛い。踏み込むだけで結構大変なのに、さらにアクセルも吹かさずゆっくりとミートポイントを探すなんて・・・プルプル震える我が太股。日頃使ってない大腿筋をフル活用。猛々しいエンジン音が急に勢いをなくし、思わず不安になる気持ちを押さえつつクラッチペダルをリリースすると、カウンタックはユックリと巨体を動かし始めた。
すぐに料金所に到達。パチンコ屋の両替所のような小窓を操作し支払いをすませると、あとは広がる直線のみ。行くぜ、カウンタック!1速のままアクセルを踏みしめる。
ズギャァァァーーーーーと後ろから響くメカニカルノイズは明らかにフェラーリのそれとは異なる。
フェラーリが管弦楽器なら、ランボルギーニは打楽器。有無を言わせぬ怒涛の迫力!!1速の守備範囲は意外に広く、空吹かしの時ほど鋭い吹けあがりはないが、その分着実に速度を上げていく。
鬼のように重いクラッチを蹴飛ばし、”オラァ”と気合を入れながらシフトを2速へ。クラッチペダルを繋ぐとさらにカウンタックは勢いを増した。
これがランボルギーニ、これがカウンタックか!!
フェラーリのような官能性はない。しかし、この圧倒的な迫力!音!操作感!!しかもこの剛性感はなんだ!?鋼鉄で張り巡らされた檻のような、もしくは外観から想像されるようにまるで1枚の分厚い鉄板のような剛性感は外部入力をモノともしない。もしかしたら最新のモデナを上回るかもしれない。信じられない。基本設計は20年以上前なのに!!まさに戦車だ!
2速のまま回転数が上がりトップエンドに近づくにつれ、より金属的な高周波が強調され、ギャーーーンからキィーーーンというジェット機のような音質に変化する。
これは快感だ!!アドレナリンの洪水だ!!
はっきりいって、その刺激の強さはフェラーリなど比べ物にならない。
この瞬間、先ほどまでの最新フェラーリとのめくるめく出会いのことなど、綺麗に頭の中から消えていた。操作系、居住性、スタイル、そしてサウンド、すべてが異質。存在すべてが唯我独尊。これがスーパーカーか。
有料道路を降りるころ、生まれて初めて車を運転して汗ばんでいる自分の手に気がついた。。。
残念なことに帰りの有料道路はトラックが多かったため、充分に楽しむことができなかったのが心残りだ。店に着くまでの渋滞の一般道では、トレーニングジムのような大仕事が待っていた。腰を固定し、左足を捻るようにして蹴りこむ!上腕筋を引きつけ、シフトを叩き込む!ハンドルがまた死ぬほど重い。交差点などは、気合をいれないとノンパワーのステアリングを切り込むことは不可能。店に到着するころには全身筋肉痛になるほど疲れていたが、それでもクルマから降りたいとは思わなかった。あと1時間、いや10分でもいいからここに座っていたい。そう思わせる何かがあった。
おそらく世界でもっとも有名なスーパーカー、ランボルギーニ・カウンタック。しかし、そのインプレは驚くほどすくない。私が知る限りでは、WebCGのバックナンバー、CGのランボルギーニ特集、そして福野礼一郎氏の「幻のスーパーカー」くらいだ。
残念ながら、今はもうカウンタックを試乗できるところはない。おそらく世界のどこを探してもレンタルできるところはないだろう。だから、この貴重なインプレッションをアップすることにした。駄文乱筆で恐縮だが、少しでもスーパーカーを愛する人たちへの参考になれば幸いだ。