*文章は試乗当時のものです。
アメリカに来たら是非やってみたかったことが2つある。1つは本物のレーシングカーを操縦すること。そしてもうひとつが、スーパーカーをレンタルすることだ。日本ではArtでスーパーカーがレンタルできることは有名だが、そのためには入会金が必要だし、レンタル代も安くない。その点、さすがは自動車大国アメリカ。いたるところにスーパーカーをレンタルできる店があるのだ!フェラーリ、ポルシェ等、お約束のスーパーカーはもちろん、コルベットやプロウラー、はてはハマーまで、およそアメリカでしかお目に掛かれない珍車まで勢ぞろい。車好きとしては、まさにヨダレもののラインアップ。・・・しかし、料金の方は、残念ながら安いとは言いがたい。コルベットで大体$200以上。360モデナやディアブロに至っては、24時間で$2000以上!借りれる訳がない。。。
で、色々とWebで探し回った挙句発見したのが、こちらのDream Car Rentals!通常のレンタカー店は24時間単位で貸し出しだが、ここは最短 5時間からレンタル可能!その分、価格もリーズナブルになっている。今回は出張のついでということでラスベガスでレンタルしたが、同店はハワイのマウイやサンフランシスコにもあるそうなので、機会のあれば一度試してみてはいかがでしょうか。
さて、数ある魅力的な車たちの中から今回私が選択したクルマ。それは、ダッジバイパーだっ!!やっぱ、アメ車といえばこれでしょう。トラックベースの8リッターもある途方もない大排気量。超分かりやすい凶悪スタイル。これぞ、マッスルカーの頂点と言える一品です。当日、予定通り午前中に仕事を終えた私は、丁度ヒマを持て余していた同期と共に、ストリップ沿い・スターダストホテル前の同店に直行。裏ビデオ屋のような怪しい佇まいに多少ビビリながらも、店に足を踏み入れたのであった。ちなみにレンタル代は、保険・税金込みで約$300。決して安くはないが、これもクルマ人生の1ページを飾る貴重な思い出と、清水の舞台からダイビングしたのであった。
概要
クライスラー、いやアメリカが誇るマッスルマシンの頂点。コブラの再来。それがダッジバイパーだ。”でっかいことはいいことだ”と言わんばかりに搭載されるエンジンはV10、8リッター。毒々しい真紅にペイントされた明太子のようなパワーユニットから発生される出力は、パワー400馬力以上、トルク70kg以上。しかも驚いたことに、トラック用に開発された巨大なエンジンをなんとフロントミッドに搭載する(ウソだと思ったら、下の写真をみて欲しい)。2m近い横幅に対し、車高は1190cmと超ワイド&ロー。最近フルモデルチェンジされ、スタイリングが大幅に洗練されたが、私は断然、この旧モデルの方が好きだ。やはりワルならワルで、分かりやすい格好をしてもらいたい。
居住性★★
書類にサインを済ませ駐車所に降りると、そこには真紅のボディーにゴールドホイールという近寄りがたさ満点な毒蛇が、ズボボボボボとアイドリングも勇ましく待ち受けていた。いやー、乗り込むのに緊張を伴うクルマなんてNSX以来だ。あの時はもっぱら”高額なスポーツカー”というのが緊張の主な要因だったが、今回はなんというか、タイに旅行にいって観光地でボアを首に巻いて記念撮影するような、いや確かに金払って希望したのは俺だけど、それでよかったのかホントに!?という生命のカラータイマーの点灯と微かな後悔を伴う緊張感である。
しかし、このバイパーというクルマ、タダモノではない。いや、タダモノではないのは3歳児でも分かるくらい分かりやすいルックスだが、アメリカンなテキトーさ加減においてもタダモノではないのだ。まず、ドアノブがない。ドアは、窓から内側に手を入れて空けるのだ。え?そんなの窓が閉まってたらどうすんだよ!テキトー言ってんじゃねーよと思ったあなたは甘い。下の写真を見て欲しい。まず、このクルマには窓ってもんがない。ついでに、屋根もない。ぶわっははははは。なんじゃこのクルマは。まさしく万年晴れの砂漠の町、ラスベガスにふさわしい。さて、乗り込んでまず誰しも思うだろうことは、”内装やすっぽーぃ”。チリはあってないし、隙間も広いし、何よりプラスチックの質感が軟質プラスチックみたいでチープ感に拍車をかける。とても1千万円のクルマとは思えない。コストうんぬんというより、あきらかに手を抜いたというかんじだ。助手席側のコンソールのフタに至っては、コドモでも容易に折り曲げられるほど、もう笑っちゃうほど薄い。噂によると、日本輸入仕様はマシな内装に変更されているらしいが、まあこのクルマに乗る人は、内装には期待しないほうが無難だ。
さて、走り出してからのインプレは事項に廻すとして、走行中の居住性について先にコメントしたい。えー、まず街中を走り出して10分もして気が付くことだが、足元が熱い。まじで熱い。そりゃまあ、8Lエンジンをフロントミッドに搭載してるんだから、必然的に足元はエンジンの熱に晒されるであろうことは明白なんだが、それにしても熱い。革靴を通しても、尋常じゃない熱気が伝わってくる。
もう一つ特筆すべきは、風の巻き込みだ。もう、男らしいまでに巻き込みまくり。80kmくらいになると、隣と会話することすら不可能。昨今、オープンカーのインプレで”驚くほど巻き込みが少ない”とか目にすると、結構色々なオープンカーに乗ってきた俺としては、”何言ってんだ、普通のオープンカーは案外風を巻き込まないもんだよ、大げさな。”と思っていたが、すいません私が悪うございましたと土下座したくなるほどの怒涛の巻き込みだ。これもオーナーになる人は覚悟しておいて欲しい。
動力性能★★★★★
さて、いよいよ注目の動力性能をレポートしたい!
まずは、ゆっくりとクラッチをあわせスタート。トルクは売るほど余ってるので、当然アクセルオフ、クラッチを繋げるだけで巨体は動きはじめる。ボンネットの先端など当然見えるはずもなく、慎重に車線に合流。ではクルマの流れにあわせて加速するべく、1速でアクセルを踏みしめずきゃきゃきゃーーーーーーとホイールスピンの嵐!!急いで2速にシフトアップ、試しにアクセルを踏み込むとまたしても幅広タイヤをスピンしまくりながら、前の車が急接近!!だーははははは、なんじゃこりゃ!暫く笑いが止まらなかったクルマはスーパー7以来だ。半クラも使わずに、2速でもアクセルを踏み込むだけ(しかも停止状態じゃなくて、走ってるのに!)ホイールスピンするクルマは初めてだ。しかし、ホイールスピンしてもコントロールは比較的容易だ。
さて、こんな面白い車を街中試乗だけで終わらせるのはもったいないので、今回はラスベガス中心地から車で30分くらいのところにある、レッドキャニオンのシーニックループという場所に向かった。ここは、その名の通り真っ赤な岩や、縞々模様の岩肌等、奇岩がゴロゴロしている観光地だ。僅か30分ほど車を走らせるだけで、こんなに面白い自然とめぐり合えるとは、改めてアメリカの雄大さを認識する。まぁ、クルマ好きにとっては雄大な自然はあくまでオマケであって、奇岩を巡るために用意してある一方通行の観光道路”シーニックループ”の方が本題な訳だ。一方通行、しかもアメリカにはめずらしいワインディングという事で、テストドライブにはもってこい。実際には、想像したよりも道幅が狭いので、あまり無茶はできなかったが、ストレート加速等、色々試せたので良いとしよう。
さて、パーキングに駐車して、軽くアクセルを煽ってみると、意外や意外、大排気量エンジンらしからぬ、フォン!!という乾いたレーシーな音をたてる。吹け上がりも予想以上に鋭い。じゃ、交通量が減ったところを見計らい、コースイン。とりあえず空いている直線でアクセルを踏みしめる!と同時に、まさに怒涛のトルク!車体ごと巨人が投げつけるがごとく加速!!同乗者が”ぃやーーーーふぅーーーぃ!!!”と奇声を上げるのも分かる気がする。ターボにはない、大排気量ならではの淀み無きリニアな加速。感覚的にはカマロの同一直線状にあると言える。インプレッサのブラックホールに吸い込まれるような感覚とは違う。恐怖感より、圧倒される感覚が強い。
さて、ではブレーキングもチェックとばかりにコーナー奥めでフルブレーキング・・・うぉ、とまらねえ!結構、ハンドリングが軽快なので油断してたけど、車重は結構あるので、ブレーキはあまり効かない。あぶない、あぶない。以後、ちょっとオトナしめに走りました。でも、フロントミッドシップはダテじゃないですね。図体の割には、ハンドリングは軽快でした。
いよいよ今回のハイライト。0-100mile(160km)加速に挑戦です。しかも、一般道。
見通しの良い直線を選択し、前後にクルマがないことを確認して、バイパーを停車。隣にはデジカメを準備した、心持ちホホの引きつった同乗者。ドルルルルルルと肉食獣さながらの唸りを発するマシンは、静かに手綱が解き放たれる時を待ちます。
1速にギアを叩き込み、軽くアクセルを吹かす。ニヤッっと助手席の同期に向けてスマイル・・それを合図に、クラッチを放しながらアクセルを踏み込む!
マッドマックスのようにキュワワァーー軽くホイルスピンさせたあと、バイパーは咆哮を上げ、イッキに加速!自然と口から発っせられる自分の笑い声を耳に、僅か5秒後には60mile(約100km)に到達!
そのまま2速に叩き込む!助手席の同期の首がガックンと揺れるのも構わず、そのままメーターを睨みながらつま先に力を込めます。70・・・80・・・ストレートのエンドが迫ってきます。厳しいかっ・・?
横殴りの巻き込み風で、既に隣と会話は不可能。意を決して、ハンドルを握りしめます。90・・・100!!
僅か10秒足らずの時間ですが、こうしてバイパーは私が今までハンドルを握ったなかでは間違いなく最強の動力性能を堪能させてくれたのでした。
結論
帰路につくころには、すっかり日は落ちていました。砂漠性気候のベガスは、夜になるとイッキに温度が下がります。昼間はあんなに熱かった日差しも、こうして夜のとばりが落ちてくると、懐かしくさえ感じます。屋根も窓もないので、吹きすさぶ風が体温を奪います。日中は苦痛だった足元の熱気も、皮肉なことに今は丁度こたつのように貴重な熱源です。渋滞が始まると、次第にクラッチを踏む足が苦痛に感じてきます。どこからでも引き出せる、ありあまるパワー。確かにこの動力性能には目を見張るものがありますが、それは単調なものであり、この短い試乗の帰り道には、既にこのクルマに飽きてきている自分がいました。出掛けにマンタンにしたはずの燃料計の針が、すでに半分の位置をさしていることからも、このクルマの非日常性が伺えます。確かにディアブロをも上回るトルクは伊達じゃない。しかし、今ひとつ深みに欠けることも事実です。
しかし、このクルマの真骨頂は動力性能ではありません。この短い試乗の間、何人の人に声をかけられたでしょうか!通行人は歓声を上げ、対抗車線のRVのおっちゃんはパッシング、パーキングでは注目のマト、ハーレーの兄ちゃんは負けじとアクセル吹かします。過剰なまでに飾り付けられたこの街で、これほど人の注目を引く、しかも暖かい、好意的な視線を集めるクルマは他にありません。シンプルな発想、分かりやすいアピアランス、見えない部分の安っぽさ、そして、何者にも負けない圧倒的なパワー感。アメリカ文化の全てがここに凝縮されています。
僅か5時間にも満たない短い試乗でしたが、ダッジバイパーは私のクルマ遍歴の貴重な1ページとして、永遠に記録されるでしょう。安くない金額を投資した甲斐は、十二分にあったと思います。