T橋クンの左足には、体重をかけられない。右に腰くらい高さの
ホールドがあれば、なんとかそれを伝って降りられる。反対向きの体勢に
なると、肩を貸さざるを得ない。
岩のホールドがなければ、ザイルをフィックスしていくしかない。
Mr.DashとI島さんが、30mと40mのザイルを交互に張っては、
交互に肩を貸す。ともちゃんは、T橋くんの荷物をほとんど引き受け、
このところ背負っていないくらいの重荷を担いでいる。
G嬢は、自分が安全に下りるので精一杯。本来の実力なら必要ないはずの
箇所でも、T橋クンのために張ったフィックスザイルに、プルージックを
かけてゆっくりゆっくり下りてくる。
二次災害防止にはやむをえないが、それが終らないとザイルの回収ができない。
ラストのともちゃんが大急ぎで回収し、Mr.Dashが登り返してザイルと
残置シュリンゲを引き取り、再び(G嬢がフィックスザイル下りた箇所を)
駆け下り、さらに下部のキケン箇所にフィックスを張りに行く。
T橋クンも、そのうち要領を得てきて、左半身で懸垂下降すると、比較的
ダメージなく下りられることが分かった。
スピードアップのためにも、
これを多用する。フィックス時も、左半身を取りやすいようにルートを取る。
右半身しかできないG嬢には、却って難しくなったかもしれないが、
仕方ない。Mr.Dashは、基本的には見本を示したあと、登り返しては
全体の安全確保をするという繰り返し。右腕の痛みなど、構ってられない。
I島さんは、肩を貸しつつ慎重に下っていく。
気が遠くなるほど時間がかかる。二股を経て、奥の堰堤でも懸垂下降。
ここはビレイポイントがなく、非常に危険な状態だった。
夢にまで見たしらび橋が見えた。バス道だ。とうに最終バスは過ぎているが。
しかし、ここでとうとう、痛恨の日没。
ヘッ電を出し、急速に暗くなる谷底で、肩がらみビレイで3人を懸垂下降させる。
I島クンとMr.Dashは、そこをゆっくりフリーで下降。
最後の渡渉。T橋クンの肩を抱くように踏み跡をたどり、バス道に出た。
19:00だった。入渓してちょうど12時間だ。
「よく頑張った。もうひと頑張りで助かるぞ!」
Mr.Dashは、しらび平の駅に急いだ。
終バスが過ぎた、しらび平の駅は、照明はすっかり落ちていて、
駅舎も、なんとトイレまでもシャッターが下りていた。誰もいない。
なんてこった。
幸い、携帯電話が通じたので、ここで119番。30分ほどで救急車が
来てくれるという。肩の荷が下りたように、一瞬その場に座り込んだ。
皆がいると気丈になれるが、独りになったとたん、こののザマである。
もうひとりの自分が「落ち着け。急ぐな。まだ終っていない」という。
缶飲料の自販機が生きている。温かいコーヒーを人数分買った。
なぜか、気分が落ち着いた。皆の喜ぶ顔がイメージできた。
立小便して、しらび橋まで走った。既に全員、バス道に着いていた。
まさに、パーティの底力をみた。中でも、T橋クンの精神力には
脱帽だ。強烈な痛みに耐えつつも、とにかく明るいうちに安全な
ところまで下りたいと力を振り絞った彼は、立派な岳人である。
下山中、あれ以上のケガは、その後、誰も負っていなかったのが
幸いだった。
缶コーヒーを飲む。皆、気分が少しでも落ち着いたようで笑顔が出た。
19:30、救急車が到着。救急隊がT橋クンを確保。
Mr.Dashの右ひじはボコンと腫れていた。擦過傷もある。
付添い人でありながら、自分も診てもらうことになった。
生まれて初めて、救急車に乗った。
ホールドがあれば、なんとかそれを伝って降りられる。反対向きの体勢に
なると、肩を貸さざるを得ない。
岩のホールドがなければ、ザイルをフィックスしていくしかない。
Mr.DashとI島さんが、30mと40mのザイルを交互に張っては、
交互に肩を貸す。ともちゃんは、T橋くんの荷物をほとんど引き受け、
このところ背負っていないくらいの重荷を担いでいる。
G嬢は、自分が安全に下りるので精一杯。本来の実力なら必要ないはずの
箇所でも、T橋クンのために張ったフィックスザイルに、プルージックを
かけてゆっくりゆっくり下りてくる。
二次災害防止にはやむをえないが、それが終らないとザイルの回収ができない。
ラストのともちゃんが大急ぎで回収し、Mr.Dashが登り返してザイルと
残置シュリンゲを引き取り、再び(G嬢がフィックスザイル下りた箇所を)
駆け下り、さらに下部のキケン箇所にフィックスを張りに行く。
T橋クンも、そのうち要領を得てきて、左半身で懸垂下降すると、比較的
ダメージなく下りられることが分かった。
スピードアップのためにも、
これを多用する。フィックス時も、左半身を取りやすいようにルートを取る。
右半身しかできないG嬢には、却って難しくなったかもしれないが、
仕方ない。Mr.Dashは、基本的には見本を示したあと、登り返しては
全体の安全確保をするという繰り返し。右腕の痛みなど、構ってられない。
I島さんは、肩を貸しつつ慎重に下っていく。
気が遠くなるほど時間がかかる。二股を経て、奥の堰堤でも懸垂下降。
ここはビレイポイントがなく、非常に危険な状態だった。
夢にまで見たしらび橋が見えた。バス道だ。とうに最終バスは過ぎているが。
しかし、ここでとうとう、痛恨の日没。
ヘッ電を出し、急速に暗くなる谷底で、肩がらみビレイで3人を懸垂下降させる。
I島クンとMr.Dashは、そこをゆっくりフリーで下降。
最後の渡渉。T橋クンの肩を抱くように踏み跡をたどり、バス道に出た。
19:00だった。入渓してちょうど12時間だ。
「よく頑張った。もうひと頑張りで助かるぞ!」
Mr.Dashは、しらび平の駅に急いだ。
終バスが過ぎた、しらび平の駅は、照明はすっかり落ちていて、
駅舎も、なんとトイレまでもシャッターが下りていた。誰もいない。
なんてこった。
幸い、携帯電話が通じたので、ここで119番。30分ほどで救急車が
来てくれるという。肩の荷が下りたように、一瞬その場に座り込んだ。
皆がいると気丈になれるが、独りになったとたん、こののザマである。
もうひとりの自分が「落ち着け。急ぐな。まだ終っていない」という。
缶飲料の自販機が生きている。温かいコーヒーを人数分買った。
なぜか、気分が落ち着いた。皆の喜ぶ顔がイメージできた。
立小便して、しらび橋まで走った。既に全員、バス道に着いていた。
まさに、パーティの底力をみた。中でも、T橋クンの精神力には
脱帽だ。強烈な痛みに耐えつつも、とにかく明るいうちに安全な
ところまで下りたいと力を振り絞った彼は、立派な岳人である。
下山中、あれ以上のケガは、その後、誰も負っていなかったのが
幸いだった。
缶コーヒーを飲む。皆、気分が少しでも落ち着いたようで笑顔が出た。
19:30、救急車が到着。救急隊がT橋クンを確保。
Mr.Dashの右ひじはボコンと腫れていた。擦過傷もある。
付添い人でありながら、自分も診てもらうことになった。
生まれて初めて、救急車に乗った。