ひろば 川崎高津公法研究室別室

川崎から、徒然なるままに。 行政法、租税法、財政法、政治、経済、鉄道などを論じ、ジャズ、クラシック、街歩きを愛する。

消費税・地方消費税の税率引き上げ 「二度あることは三度ある」?

2017年02月14日 00時07分51秒 | 国際・政治

 私が地方自治総合研究所の「地方自治関連立法動向研究会」の一員となって6年以上が経過します。その間、主に地方税財政(その中でも地方税)に関し、研究をしてきました。その成果は「自治総研」で公表しておりますので、御一読をいただければ幸いです。

 最近、研究などを重ねて思うようになったことがあります。それは、議会制民主主義と租税法(議会制民主主義と租税立法と言い換えてもよいでしょう)については「二度あることは三度ある」という言葉が妥当するかもしれない、ということです。もっとも、まだ三度目は到来していませんが、二度目は実際に生じました。「一寸先は闇」と言いますから、三度目が起こらないという保証は全くないのです。

 御記憶の方も多いと思われますが、2012年の「社会保障・税一体改革」の「成果」(あるいは「産物」?)として、2014年4月1日、消費税と地方消費税を合わせた税率が5%から8%に引き上げられました。当初、2段階にわたる税率引き上げの2度目は2015年10月1日に行われる予定でしたが、2014年11月18日に内閣総理大臣が延期(2015年10月1日→2017年4月1日)を表明しました。翌年の通常国会で改正法律が成立し、施行されました。

 平成28年度与党税制改正大綱の2頁には、次のように書かれています。

 「『新・三本の矢』の一矢である『安心につながる社会保障』を実現するため、『社会保障と税の一体改革』を確実に実施することが最重要課題となる。その一環として、社会保障の充実・強化を実現するため、消費税率10%への引き上げを平成29年4月に確実に実施する。その際、税制抜本改革法第7条を踏まえ、低所得者への配慮として、平成29年4月に軽減税率制度を導入する。」(太字は引用者による強調)

 しかし、2016年6月1日、内閣総理大臣は再延期(2017年4月1日→2019年10月1日)を表明しました。これについても、昨年秋の臨時国会において改正法律が成立しています。

 二度の延期については賛否両論があると思われますが、財政規律、2020年度に基礎的財政収支の黒字化を達成するという目標、この二点からすれば、再々延期は許されないでしょう。もし再々延期が行われるとすると、結局のところは税率引き上げの意思など最初からなかったのと同じようなことになるからであり、様々な改革(租税制度、社会保障制度など)に対する「本気度」が低いと評価されることとなるでしょう。国際的にも低い評価を受け、日本国の信用は失墜することになりかねません。

 勿論、先程も「一寸先は闇」と記したように、国際情勢、政治、経済、社会など、どのように変わるかわかりませんから、一つの制度について実施を延期すること自体が許されない訳ではありません。しかし、それが二度、三度と繰り返されるとなれば、話が変わってくるでしょう。日本が得意な先送りと根が同じだからであり、問題に対する何らの解決にもなっていないからです(似たようなことが、特例法の濫発についても妥当します。他の国はわかりませんが、日本は特別措置法や特例法を好む国家です)。

 二度目の延期により、自動車取得税の廃止、地方法人特別税の廃止なども延期されることになりました。とくに、地方法人特別税や地方法人税が法人課税を非常に複雑なものとしており、しかも地方税から国税へという形で税源の「逆移譲」が行われたような形となったため、法人課税はかなり混乱した状態と化しています。再整理が必要なのです。

 そして、平成29年度税制改正大綱の2頁に、次のような段落があります。

 「税制改正に当たっては、足下の経済情勢への適切な対応が重要である一方、中長期的課題にも責任をもって取り組まなければならない。税制は経済社会のあり方に密接に関連するものであり、今後とも、格差の固定化につながらないよう機会の平等や世代間・世代内の公平の実現、簡素な制度の構築といった考え方の下、検討を進める。『経済再生なくして財政健全化なし』との基本方針の下、経済再生と財政健全化を両立させることがわが国の最重要課題であり、2020年度の基礎的財政収支黒字化目標との整合性を念頭に置く必要がある。このため、消費税率10%への引上げを平成31年10月1日に確実に実施する。あわせて実施される低所得者への配慮のための軽減税率制度について、事業者の準備状況等を検証し、制度の円滑な導入・運用に万全を期す。」(太字は引用者による強調)

 経済再生と財政健全化の両立に最適なのが消費税・地方消費税であるのか、などという問題はありますが、ここでは脇に置いておきましょう(重要ではあるのですが、本題ではないから、という訳です)。税制改正大綱は法でもなければ綱領でもありません。毎年の税制改正の基本方針などを示すものにすぎないのです。しかし、改正法律などの租税立法の背景にある政府なり与党なりの意思(立法者意思、と言い換えてもよいでしょう)を示す重要な文書です。従って、直ちに法律などとして立法化されなくとも、大綱には税制改正はもとより税制全体に対する政府なり与党なりの基本的な方針が貫かれていると考えるべきです。まして、2年連続で「消費税率10%への引上げ」を「確実に実施する」と述べているのです。おそらく、このままで行けば平成30年度税制改正大綱にも同旨が示されることでしょう。3年も連続すれば、意思なり方針なりは非常に強固であるということを意味しますから、簡単に覆す訳にもいかなくなるはずです(勿論、できない訳ではありませんが)。消費税・地方消費税の税率引き上げは、ますます既定路線としての性格を強め、立法者自らを拘束するものとなるでしょう。従って、再々延期は許されないということになるのではないでしょうか。

 仮に、2018年度または2019年度の経済状況が悪く、消費税・地方消費税の税率引き上げを行うことができるような情勢でないというのであれば、今度は再々延期ではなく、きっぱりと中止すべきです。もう日本(国民)には増税することができるだけの余力がないということなのですから。延期が繰り返されるのでは、政治にも経済にも社会にもメリハリがなくなります。


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