第190回国会(2016年の通常国会)に、衆議院議員提出法律案第52号として「消費税率の引上げの期日の延期及び給付付き税額控除の導入等に関する法律案」が提出されました。3回連続して閉会中審査の扱いとなった後に、第193回国会(現在の通常国会)でも議案とされているのですが、果たしてどうなるのでしょうか。
この法律案は、消費税・地方消費税の税率引き上げの実施を2017年4月1日から2019年4月1日に延期すること、および、軽減税率ではなく給付付き税額控除を導入することを基本的な内容とするものです。
消費課税には逆進性があると言われています。この法律案の第2条第2項では「この法律において『消費税の逆進性』とは、所得の少ない世帯ほど、家計において消費税として支出する額の所得の額に対する割合が高くなる傾向にあることをいう。」と定義されており、この逆進性を「緩和し格差の拡大を防止するため、給付付き税額控除を導入」し、「軽減税率制度を廃止する」としています(第1条)。
給付付き税額控除は、第2条第3項において「居住者(所得税法(昭和四十年法律第三十三号)第二条第一項第三号に規定する居住者をいう。以下同じ。)について、所得税の額から一定の額を控除し、かつ、当該控除をしてもなお控除しきれない額があるときは当該控除しきれない額に相当する金銭を給付する制度をいう。」と定義されています。
また、この法律案の第4条では、「給付付き税額控除において所得税の額から控除する額は、居住者一人当たりの飲食料品の購入に要する費用の額に係る消費税の負担額として家計統計(統計法(平成十九年法律第五十三号)第二条第四項に規定する基幹統計である家計統計をいう。)における食料に係る消費支出の額(酒類及び外食に係るものを除く。)、消費税の収入見込額等を勘案して算定した額の十分の二に相当する額を基礎として計算するものとすること。この場合において、当該控除する額は居住者の所得の額の逓増に応じて逓減するように定めるとともに、一定以上の所得を有する者については給付付き税額控除における控除を行わないものとすること。」(第1号)という方針が示されるとともに、その事務を「別に法律で定めるところにより内閣府の外局として置かれる歳入庁がつかさどるものとすること。」(第2号)としています。実施時期は「消費税率の引上げと同時」です(第3号)。
軽減税率が、一見すると逆進性の緩和に思えるが実はそうでない、という趣旨の指摘がよくなされています。それはそうで、軽減税率が適用されるのは、対象となる「資産」、「役務」または「外国貨物」がいかなるものであるかによるのであって、誰が購入するかは関係がないからです。例えば、近所のスーパーマーケットなどで売られている果物が高級品であろうがなかろうが、食料品である限りは軽減税率が適用されうる訳です。購入者が誰であるかによって軽減税率を適用するか否かが決まるというのでは煩雑に過ぎますので、結局のところ、誰が買っても同じことにならざるをえないのです。
また、軽減税率を採用する場合に何を対象とするかが問題となることも、何度となく述べられてきました。軽減税率を採用する国は少なくありませんが、既に数多くの問題点が指摘されており、廃止とまでは行かなくとも縮小の方向にあるようです。経済開発協力機構(OECD)も、軽減税率は逆進性を緩和する手段としては「非効率的」であり、むしろ逆進性を拡大しかねないことを指摘しています〔少し古い記事ですが、ロイター通信(日本語版)の2014年4月18日付「軽減税率は非効率、OECDが消費税で改めて提言」(http://jp.reuters.com/article/idJPL3N0NA1LV20140418)を、引用元などとしてあげておきます。なお、このニュースは、同月17日から18日まで、「国境を越えた商取引に対する消費税の取り扱いについてガイドラインを策定するため」に東京で開催されたOECD第2回会合に関するものです〕。
世界的には、軽減税率でなく、給付付き税額控除のほうが適切であると評価されています。しかし、日本では違うようにも思われています。もっとも、私がこのブログでも記しているし、講義などでも何度も口にしているように、日本には、政府であれ地方自治体であれ企業であれ国民であれ、消費税に関する能力はないのですから、当然なのかもしれません。携帯電話だけでなく、消費税についてもガラパゴス化しているのが、日本なのです。