世界一周タビスト、かじえいせいの『旅が人生の大切なことを教えてくれた』 

世界一周、2度の離婚、事業の失敗、大地震を乗り越え、コロナ禍でもしぶとく生き抜く『老春時代』の処世術

画家

2008年08月28日 | 人生
ボクには絵描きの友人がいる。


かれこれ30年来の旧知の仲だ。


彼は、忽然と姿を消したかと思うと、忘れた頃に無心の電話をよこす。



一頃、彼は破竹の勢いだった。

だから羽振りもよかった。


だが彼は、自分の絵に酔いしれ、ギャンブルに走った。

妻子には愛想を着かされ、今度は女に溺れた。

サラ金にも追われ続けるようになった。


挙句、故郷を追われ、逃避行を重ねる。



今は、老いた母親を抱え、自らも身体を壊してしまった。

現在、生活保護の日々を送っている。



得てして芸術家は情緒不安定だ。

時には狂気が同居する。

ピカソやゴッホ、そしてムンクがそうであったように。



ボクは、彼の作品のコレクターだ。

彼の才能を知っている。

彼の作品に惚れ込んでいる。

モチロン、彼も好きだ。




「チョッと頼みがあるんだけど」

いつものように、はにかんだ含み笑いを受話器の向こうに漂わせながら、切り出す彼。

「また、金か」

「ウン」

「いくらだ? 何に使うんだ?」

ボクは、その気もないくせに、杓子定規に訊く。

「チョッと野暮用で、○○万円」

彼はいつものように陳腐な答えを繰り返す。


「お前に貸す金はない。 絵は描いてるのか?」

「アア、ボチボチ」

絵の具を買う金もないくせに。

ボクは、心の中で、そう呟く。

「絵を送れ、そしたら買ってやる」


今までに何度、同じ会話が繰り返されたことだろう。



いつしかボクは、彼の作品のコレクターになっていた。


「早く、有名になれよ。 お前の価値が上がると、俺は金儲けができるから」

彼は、「フン」 と鼻息を受話器に吹きかける。

「お前が死ななきゃ、価値出ないか・・・?」

彼は、

「ジャア、近いうちに、絵、送るよ」

と嘯(うそぶ)く。


いつものパターンで、受話器は切れた。
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