英の放電日記

将棋、スポーツ、テレビ等、日々感じること。発信というより放電に近い戯言。

『将棋世界』5月号③

2009-06-05 23:07:50 | 将棋
 前回、「野暮だ」と言われてしまいましたが、懲りずに書きます。書きたい記事が溜まっているので、少々駆け足になるかもしれません。

★『深夜の大激戦』(C級1組) 椎名龍一氏

 昇級や降級を巡る状況が丁寧に説明されていたが、少し丁寧すぎる気もした。
 降級関連の将棋を取り上げ、時間の経過に沿いながら、将棋内容と勝敗をレポートされているので、臨場感が感じられた。

 将棋の内容は、やはり昇級関連のほうが充実していた。
 「神の受け」の広瀬×宮田戦の広瀬五段の鋭い攻めを受け止め切れ模様にしてしまった宮田五段の受けは、まさに神の受けのようだった。
 窪田×北島戦は、表題通りの深夜の大激戦だった。261手、午前2時13分、終局。
 窪田六段は広瀬五段が負けて、自身が勝てば、昇級という一番。北島六段は降級の可能性を残している。
 棋譜を調べると、窪田六段の四間飛車に急戦を仕掛け損ね、作戦負けの北島六段だったが、玉を右翼に異動させ、何とか混戦に持ち込むも、やはり終始苦しい戦いを強いられる。それでも、折れずに入玉将棋に。
 しかし、駒不足で苦しい。窪田六段の飛車の捕獲、そして、最後は馬の捕獲を巡る戦いになったが、窪田の馬が包囲網をかいくぐり、北島六段の点数不足が確定した。大熱戦だった。
 しかも、終局の8手前に、無理やり王手龍取りを掛ける銀捨ての妙手があった。北島六段が発見して指していたら、持将棋が成立していた。
 順位戦のレポートなので、一局だけにスポットをあてられないのだが、この一局の詳細な模様が知りたかった。(1局に絞ったとしても、261手なので相当大変)


★『厄介な3人が昇ってきた』(C級2組) 塚田九段

 大所帯のC2なので、状況を説明するだけでも大変。そんな中、時間の経過による状況の変化が的確に伝えられている。棋士の表情(心境)が見えないのが残念だが、それは欲張りというものだろう。

 ☆気になったこと

 昇級の掛った一局、山本×田村戦。先手の山本五段が大模様を張ったが、穴があり空中分解。午後5時15分、78手で終局。山本五段自身も降級の可能性があって、残念な一局だったろう。しかし、あまりにも早い終局、他の昇級候補はがっかりしたことだろう。

 中村亮×遠山戦。中村亮五段が1時間57分の遅刻。規定では、遅刻時間の3倍が持ち時間から引かれるので、この対局は6時間の持ち時間なので、あと3分遅れたら、不戦敗だった。前期、中村五段は不戦敗があるそうだ。
 将棋は、中村五段のワンサイド勝利。中村五段の実質の消費時間は六分。
 実は対局相手の遠山四段、不戦敗について厳しい意見をブログで述べた後に、遅刻による不戦敗になり、相当叩かれている。皮肉な結果だ。
 そういう経緯もあり、なかなか平静を保つのは大変だったかもしれない。塚田九段も「1時間57分待って、不戦勝か、と思った矢先に対局開始、では冷静になれというのは無理な話だ。遅刻3倍引きルールに、かなりの疑問を感じた」と述べている。
 しかし、これは情けない話で、昼食休憩がすぐだったし、2手目に2時間の長考をするくらいの気概を見せてほしかった。

 C2は全敗者が2名。こちらのほうが問題で、全敗者は降級にすべきだ。

★『新潟対局に、佐藤の気概を見た』 大平武洋五段
  棋王戦第3局 佐藤棋王×久保八段

 大平五段の観戦記はいつも一局のポイントを捉えていて、解説もわかりやすい。人物考察も鋭く、思考過程を解明して、指し手の解説をするので、面白いし、理解しやすい。
 ただ、P95の上段の8行目の後手玉の詰みに関する解説文が変。

 この将棋、佐藤棋王の剛腕ぶりが如何なく発揮されて、面白かった。敵陣の1一の銀、2二と2三のと金、2四の歩の凝り形は、プロの将棋ではなかなかお目にかかれない。


★『幸せの行方』 小暮克洋氏
 王将戦第6局 羽生名人×深浦王位

 小暮氏の観戦記は、一局一局、テーマあるいは工夫をもって書かれているように思う。
 今回は、26勝26敗の対戦成績のデータ的考察。
 「深浦王位が勝ち越したことはあるのか」(答:ある…3戦経過時点で深浦王位の2勝1敗)とか、「何度、成績がタイになったのは10回より多いか」(答:11回)とか。
 特に、興味深かったのは、その勝ち星の幸福点で、つまり、どちらがより大きな勝負で勝っているか?どちらが効率よく勝っているか?で、氏の分析によると、「羽生に軍配が上がる」らしい。

 将棋は、後手の深浦王位が四間に振って間もなく5筋に振り戻す新趣向を見せ、それに対し、それを否定するかのごとく、羽生名人が急戦を挑んだ。
 その後、羽生名人に▲5九金右という柔軟な好手が出て、羽生ペースに。この▲5九金右には感服。後手の中飛車に対し、普通は▲5八金と中央を厚くしたいところだが、▲5八歩と受ける余地を残すのと、5七になりこまれた場合あたりを弱くしている意味もある。また、4九に利かすことによって角打ちにも備えている。
 結局、この将棋は、羽生名人の完勝となったが、羽生名人でなければ、こうはならないと思う(羽生ファンの欲目)。
 優勢なはずなんだけど、勝ち方がわからないということはよくある。羽生名人は「将棋ってこういう風に勝つのか」という将棋のツボを突く指し方を見せ、感心させられることがよくある。

 羽生名人の「この将棋は絶対勝つ」という意思が、強く感じられた一局だった。そのあたり、もう少し掘り下げてくださるとうれしかった。
コメント
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