英の放電日記

将棋、スポーツ、テレビ等、日々感じること。発信というより放電に近い戯言。

『将棋世界』5月号⑤

2009-06-07 17:28:35 | 将棋
★『清水市代らしい将棋』 西條耕一氏
   女流名人位戦第5局 矢内女流名人×清水女流王将

 この将棋も例によって、清水女流王将の右四間飛車からの速攻を、矢内女流名人が受け止めるという展開。先後の違いはあるが、第一局と同じような出だし。
 そこから、矢内女流名人が工夫を見せたが、清水女流王将は積極的に動く。



 図は、清水女流王将が銀の頭に角を打ち込んだところ。頭が丸い角だが、「ごーん」と音がしそうな銀打ち。

 観戦記では「▲5六同銀は△同銀と進まれて受け切るのは難しい。▲6九角が矢内らしい受け。相手の言いなりになっているように見えても読みの支えがあり、容易には崩れない」
 中継サイトでは野月浩貴七段が「清水さんの攻めが無理気味かと思えますが、何か秘策があるのかもしれません。その秘策を楽しみにしています。序盤からの一環した清水さんの攻めの姿勢は非常にいいと思います」と。


 第1図以下、▲6九角△7八角成▲同角△7九金(第2図)。



 第2図では、7九の金に空を切らせる▲4五角△同桂▲6六銀△5七角▲6七銀△6六角成▲同銀△5七銀(変化図)が有力。



 観戦記によると
「変化図では攻めを切らすのは簡単ではない。変化図で▲6七銀打てば△6六銀成から△5七銀で千日手模様。7九金が重いようでも先手玉のプレッシャーになっているのが大きい。清水は、先手の矢内が千日手には出来ないと見てこの仕掛けを選んだようだ。勝負師である」
とある。
 また、中継サイトでは
「変化図では、要駒を攻める▲3六角から右翼に玉を逃がせばわずかに先手有利のようだ」
 具体的な指し手は私には分からない。

 千日手に出来ないと見てこの仕掛けを選んだというのは、少し怪しいと思う。直前の局面から変化図を想定して指し手を選んだのなら納得できる。

 ところで、変化図の局面。本当に難解なのだろうか。パッと見、後手の攻めは細く、切れているように見える。歩切れで、金、銀、桂の3枚の攻めのうえ、その金が重い。

 変化図では▲5七同銀△同桂成▲6八銀(変化図②)とする手はないのだろうか。



以下△7八金▲5七銀△7七金▲6四桂で飛車を働かせなければ、先手が指せると思う。

 しかし、これを書いていたら、変化図②には△6六銀(変化図③)と指す手があることに気がついた。



以下▲7九銀に△7七銀成で後手の飛車が働いてきてしまう。

 となると、第2図に戻って、▲4五角△同桂▲6六銀△5七角の時▲5七同銀として、△同桂成に▲6八銀とすれば、7六の銀が残っていて、後手飛車の押さえになっている。しかし、今度は▲6八銀に△7八金▲5七銀△7七金の時、7六の銀に当たりが掛かってしまう。なかなかうまくいかない。
 私の棋力ではよく分からないが、変化図は有力だったと思う。

 矢内女流名人は第2図より▲6六銀△7八金▲同飛△5六銀▲5八金△2八角(第3図)と進める。



 第3図となると、後手の攻めを切らすのは難しい。しかし、矢内女流名人には成算があった。
 第3図から▲5四歩△1九角成▲5三歩成△同金▲5七歩△4五銀▲7一角△5二飛▲6四歩(第4図)と進める。


 5筋の歩を突き、後手陣を乱し、返す刀で▲5七歩と打ち銀を追い返し、角を打ち込み、6筋の歩を伸ばす。これで、一気に後手陣にも火がついた感じで、形勢は不明で、中継サイトの控え室の判断も分かれていた。

 第4図以下も難解な戦いが続いたが、



 第5図で▲4四同角成△4二香▲4三歩△同香▲同馬△同玉▲4九香(変化図④)で先手良しだったとのこと。(中継サイトでは上田女流二段が指摘)



 一見、先に後手からの香打ちの痛打が見えるので盲点となりやすいが、なるほど、見事な切り返しだ。

 実戦は第5図より▲6一銀△5一飛▲4二歩△5八桂成▲同玉△5六歩(第6図)と進む。この△5六歩が鋭い踏み込み(観戦記の表現)だった。



 観戦記
「▲5六同銀は弱気だった。△6一飛から△7一飛と角銀を一掃されて、今度は先手が切れ筋に陥った。6四金が取れる形ならまだ攻めが続いたが、銀が5六に引かされていては先手が勝てない。
 第6図では▲4一歩成と金を取り、△5七歩成▲同銀△4七金▲6七玉△5七飛成に▲4四角成と勝負に出る手があった」

 厳密には後手の勝ちらしいが、後手も勝ちを読み切るのは容易でないとのこと。
 これを逃し、この後必死に頑張るがどうしても清水玉には手が届かなかった。


 この将棋、終始清水女流王将の強気な指し手を貫いた。矢内女流名人も独特の懐の深さを見せたが、形勢はともかく、ずっと清水ペースだった。これが大きかったように思う。
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『将棋世界』5月号④

2009-06-07 00:00:01 | 将棋
★『渡辺竜王物語㊦』 小暮克洋氏
 前編、中編はスルーしてしまいました。
 奥さんや息子さんや若手棋士との係わり合いやエピソードを介して、渡辺竜王の人間性や人生観が浮き彫りにしている。
 その上、年度ごとの戦績などもしっかりと紹介してあるので、人生観と成績も対比できてよかった。こういう、きっちりした構成は小暮氏らしいなあと思う。

 「攻めの技術と玉を固める技術を武器に、駒の効率を高めつつ、シンプルに勝ちやすい展開を目指す渡辺将棋」
という表現は、実に的確。特に、「シンプルに勝ちやすい」というのは、まさにその通りではないだろうか。

 しかし、そのスタイルが、竜王の苦悩を生み出しているという事実は驚きだった。
 若くして最高峰に君臨し、早婚で子どももいる。もちろん、その地位いることの重圧もあるであろうが、順風満帆に思え、将棋も割り切って考えていることと思っていた。
 ところが、「シンプルで勝ちやすい」というスタイルで、将棋そのものをシンプルに割り切ろうと真理を求めたため、真理にたどり着けず、分からないまま将棋を指すことにジレンマを感じてしまう。
 一局の将棋としてなら割り切れるが、ずっと将棋を指し続けることを考えた場合、今の将棋に向かう姿勢や指し方でいいのか、迷いが生じてしまうそうだ。
 苦しいかもしれないが、その答を追い続け、答を出して欲しいなあ。
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