英の放電日記

将棋、スポーツ、テレビ等、日々感じること。発信というより放電に近い戯言。

2013世界陸上 その1「新谷無念、絶望のラスト1周」

2013-08-12 23:26:50 | スポーツ
「やっぱりTBS……残念な中継、解説者、インタビュアー」
「福士、過去の亡霊を振り払う銅メダル」
「ボルト、強し」
など、いろいろ、書きたいことはあるが、昨日の中継を見て、女子10000mについて、書かずにいられなかった。


 体脂肪率3.1%、普通じゃないほどやせて見えた。大丈夫なのか、走れるのか?と思ったが、レースが始まり、彼女の走りを見ると、その体脂肪率は、彼女のメダルへの執念そのものに見えた。

「人からリズムをもらうのは1000mが限度なんで、3000mまで行っちゃうとペースの波のあるアフリカ(勢)に飲み込まれる。自分から引っ張る形にしないとアフリカ勢には勝てません。1000mを越えたら自分で作ります」
 この言葉の意味を問われて、解説の高橋尚子氏
「世界大会は、ペースのアップダウンが激しいので、それに飲み込まれないように、自分のペースで刻んでリズムを作りたいと(彼女は)言っていた。なので、最初から果敢に飛び出していくのではないか。そういった意味では、今回1km3分3秒で押していける練習を繰り返してきたみたいです。このペースなら30分30秒でゴールすることになる(日本記録は渋井陽子の30分48秒89、2002年)」
 また、増田明美氏
「小出義雄さんもこの記録(日本記録)を破れたら、うまくいったら銅メダルを取れるのではないかとおっしゃっていました」と補足していた。
 高橋尚子氏は新谷選手の意図を理解していたが、増田明美氏は理解していないように感じた。話した情報は正しいのだが、新谷選手や小出監督の意図は理解していない。ここではあまり書かないが、増田氏は情報を語るだけで解説はしていない(できない)。それどころか、(どうでもいい)情報を長々と語るので、実況の邪魔をすることが多い。(彼女の得ている情報量と、実況に合わせて即座にその情報を披露できる点は凄いと思う)

 新谷選手の言葉の意味は、高橋氏の解説通り、ペースのアップダウンに巻き込まれず自分のリズムで走るという意図だが、その他にメダルを取るための戦略そのものなのである。
 レース中の高橋氏は
「1周73秒ペース(1km3分3秒)で押していけば、アフリカ勢の半分は振り落せる。絞り込めば、勝負できる(入賞できる)。自分は1周だけなら66~67秒でついていくことができる」
という新谷の言葉を紹介していた。
 そう、日本人が10000mでメダルを取るには、この戦略しかない。
 新谷選手は日本人としてはラストスパートが利く(強い)選手だが、それでもアフリカ勢に対抗するのは非常に苦しく、ラスト勝負に持ち込まれるとほぼ勝ち目はない。
 そうならないために、最初からハイペースを維持し続け、振り落していく。振り落せないまでも、ラストスパートの余力を削っていく。アフリカ勢はペースの変化には強いが、ずっとハイペースを続けられるのは苦手な選手が多い。
 高橋氏に明かした新谷選手の言葉には遠慮があって、入賞狙いではなく絶対メダルを取るという悲壮にも思える決意だった。レース中の走りを見るとメダルを獲る為だけに走っているようにしか見えなかった。


 レース開始直後は牽制しあうスローペースになりかけたが、アメリカのフラガナンが先頭に立ちレースを引っ張った。おそらく、新谷とほぼ同じ意図であろう。
 しかし、若干、新谷が想定したペースとは遅い。フラガナンに引っ張ってもらうのは新谷にとっては楽だが、今のペースではアフリカ勢を消耗させることはできない。どこまでフラガナンに引っ張ってもらうか、その判断が難しい…
 3500m、意を決したようにフラガナン選手を抜きトップに立ち、想定のペースに上げる(この時、先頭集団は新谷を含め9人)。
 アフリカ勢がひとり、ふたりと落ちていき、7800mでついているのはエチオピア2人、ケニア2人の4人となった。
 この状況を見て増田氏が
「(ディババを含めた世界のトップクラス4人を)従えている新谷さんが素晴らしい。……度胸というか、本番の強さが素晴らしい」
と、的外れのことを言っていたが、新谷としてはこれしかないという戦略をそのまま実行しているだけなのである。
 トップを引っ張るのは当たり前、とにかくハイペースを維持して更に振り落していくしかないのである。
 残り4周、3周……後ろの4人は離れてくれない。≪離れてくれ~≫と思いながら必死で先頭を走る新谷。本当ならもっとペースを上げて引き離したいが、その余力はもうない。新谷の表情に焦燥感がにじみ出てきた。
 9600m、今まで縦1列だったが、徐々に後ろから押し上げてきて横2列の隊形となってくる。
 9700m過ぎ、残り1周を前にして、4人が次々と新谷を抜いていく。新谷も追いすがろうとするが、ついていけない。
 金メダルと13秒差、銅メダルとは10秒差。ラスト1周、400mで10秒……約70m引き離されていく……あと少し、いや、絶望的な差、絶望感を味わった400mだったのではないか。

 そんな新谷選手に、インタビュアーは「3500mから先頭に立って主導権を握った」と評価(慰労)したが、何の慰めにもなっていない。新谷選手の気持ちを全く理解していない言葉だった
 「自分は“あまちゃん”だった」
という言葉には、1周73秒ペースで通用するという甘さ、歯が立たないラストのまま大会に臨んだ甘さ、レース序盤、フラガナンのペースに乗っかってしまったことへの悔いがあったのかもしれない。

 優勝はディババ。彼女は出場した10000m、全てのレースに勝っているそうだ。ラスト1周59秒。中距離ランナーのようなスプリント、フォーム、だった。
 新谷選手は「私が作る1周73秒のペースは彼女にとっては丁度良いペースになってしまうかもしれない(新谷のメダル取りとってはベストの戦略)」
 という危惧は的中し、おそらく、新谷のあとについて走ったディババは非常に快適で、ラストだけ全力で走ればいいだけの非常に楽なレースだったであろう。
コメント (6)
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