英の放電日記

将棋、スポーツ、テレビ等、日々感じること。発信というより放電に近い戯言。

相棒 season14 第16話「右京の同級生」【追記あり】

2016-02-21 15:01:03 | ドラマ・映画
「……………あなた……杉下君?」
「杉下右京です。…お久しぶりです」


「でもよく覚えてたわね。
 杉下君と一緒のクラスだったの、5年生のほんの数日だけよ」
「そうでした。あなたは2学期が終わる3日前に転向してきて、冬休みの間に、また、引っ越してしまいました」
「…ええ……杉下君、昔から記憶力抜群だったわよね」
「いえいえ、小峰さんが印象的だったんですよ」
あの事件があったから」

 道でうずくまっていた外国人男性・マリオを連れて行った先の個人病院の医師・小峰律子は右京の同級生だった。
 昔を懐かしむ会話であるが、短い中に、ふたりが、“いつ”“どのくらいの期間”“どんな関係”“どんな感情”だったのかを、簡潔に表し、右京の尋常でない記憶力を律子さんが念を押し、ラストで律子の決断を後押しする要素(あの事件)をほのめかすという、密度の濃い会話だった。
 それを説明的会話と感じさせないのは、竹下景子さんの味であろう。
まあ、右京の記憶力も凄いが、竹下景子さんも『クイズダービー』の第2エースだったので、彼女が右京の事を覚えていたのも当然の事としておこう。

 さらに、「律子とマリオの本のやり取りに、今回の事件の本質に係わることが内包されていた」ということは、相棒ファンならピンとくるところであるが、「下巻」を返してもらってから「上巻」を貸すというのは、竹下景子にしては迂闊だった。
 その直前に、右京がちらっと見ただけで、マリオの入館証から職業を推察し、律子自身も右京の観察眼の鋭さに感服していたというのに。

 律子が貸した本は『はてしない物語』で、ドイツの作家ミヒャエル・エンデによる児童向けファンタジー小説(1979年刊)であるが(ウィキペディアより)、児童向けファンタジーとは言え、外国人が日本語を勉強するのには向いていないと思う(私は小説の内容は知りません)。摘発情報のメモが挟まれていたのだ。
 私もこの本には何かあると凝視し、本のタイトルと作者名が外国人であることや、その体裁から、難しそうな印象があり、そこに右京も疑惑を持つと踏んだ。しかし、もっと具体的な矛盾点があったとは!
 カメラワークも巧妙で、マリオが返した下巻ははっきり映し、その後に渡された本は、マリオがそそくさとポケットに入れてしまい「はてし……」という題名がわずかに見えただけだった。まあ、本の雰囲気で同シリーズだったと察知し、最初の本が「下巻」であるところまで読み取れれば、右京の域に近づけたと言えるが、凡人には無理である。



オーバーステイの不法就労に纏わる正義のすれ違い―――
(実際の外国人労働者の雇用状態については、詳しく知りません)

「どんな法も規範も、人を救えなければ“正義”の名には値しないと私は思うの。
 杉下君の考える“正義”とはきっと違うわね
「はい。違います」
(きっぱり)


右京も律子の心情は理解していた
 闇の底に落ちていく外国人就労者を放っておくことはできなかったという律子に対し
「変わりませんねぇ、あなたは。
 弱い者に寄り添い、権力と戦う。
 心情においては理解できます。しかし、同意はできません」

 その理由として
「人が殺され、野坂さんは罪に問われる。
 それは、あなたの違法行為と無関係ではないのですから」
(律子も、この杉下の意見に同意したが、反論も。上記の「どんな法も規範も…」に続く)
 
律子も右京のやさしさを理解していた
 あの事件で、クラスメイトに距離を置かれ、冬休みにまた急に転校が決まる。
 「ここでは誰とも友達になれなかったと思っていたら、ひとりだけ見送りに来てくれた、杉下君だけが」と。
 お互いに、当時を振り返り、柔らかい表情になる。
 いいシーンだった。
 (“律子は右京の初恋の人だったのか”という問いには否定、“同級生”だったと)


冠城のモヤモヤ―――
 摘発の情報漏えいの心配はなくなったと落着したと考える日下部に対し不満を感じ、右京にも
「良かったんですかね、これで。
 本当の悪党は裁きをすり抜けたのに、
 弱い者への同情で法を犯した野坂さんや律子先生は罪に問われる」
「不正は不正として裁かれなければなりません。
 たとえそれがどんなにやりきれない思いを伴うとしてもです」


 まあ、こういうやるせなさは過去の相棒、亀山薫や神戸尊も何度も味わってきた(甲斐享は含まず)。
 ただ、今回、右京の言葉に説得力は感じない。
 何しろ、悪の根源である国際ディスパッチ協会理事長・犀川武彦(桜木健一)にエルドビアに逃げられてしまったのだから。


【事件の背景の整理】
国際ディスパッチ協会……外国人労働者の悪徳ブローカー
「私たちは法を守り、正規就労の外国人を仲介している」(理事長の弁)
人材の架け橋(右京の表現)と見せかけているが、実態は弱い立場の外国人就労者から金を毟り取る輩だった。
入国の際の手数料、就業斡旋料の他にも、上納金徴収しや労災の支給金もピンハネしていた。売春まがいの行為も強いていた。

外国人就労者を雇用する会社
 低賃金で過重労働を強いる

外国人労働者
・渡航の際、高利で多額の借金をしている
・低賃金で借金を返せず、オーバーステイに陥る
・特にオーバーステイなど不法就労者は、低賃金で過酷な労働条件を強いられ、労災事故の補償も受けられない
 労災が下りても、協会がピンハネ

入国警備官・野坂と女医・小峰律子
 オーバーステイの外国人就労者を救うため、摘発情報を得て逃がしていた。




“消火器詐欺”を働く右京
あんたらぁ、ほんとに 国際ディスパッチ協会から来たの?」(金属加工会社社長)
ええ
しらっと答える右京、確かに嘘はついていない

(その後もいろいろ訊くので疑問を強めた社長)
「ん?あんたらぁ、ディスパッチの人だろ?」
「おやおや、誤解させてしまいましたか。我々は“ディスパッチの方から来た”と申し上げたつもりだったんですが」(右京)
「さっきまで御じゃましていたんです」(冠城)
「もしかして、おたくら、入管?労働基準局?」
いえ、どちらも違います。ニコラさんの怪我を診察した医者が心配していたものですから」(右京)
これも嘘ではなく、事実だ(笑)。

 あくまで身分を明かさず、雇用の実態を聞き出す特命係だった。


律子の想い出の「あの事件」とは
 【右京が振り返る】
 筆箱の紛失があり、家が貧乏なクラスメイトに疑いが掛かった。
 担任も犯人扱いした。
 律子だけが
「先生、何の証拠もないのに、疑うなんて、先生は間違っています」
 筆箱はすぐに右京が見つけた。


 ≪理科室から戻った時に紛失者は筆箱を持っていなかった≫という事実を右京が思い出して解決。
「誰も気づかなかった。取られたと思い込んで」
「僕も思い出せなかったかもしれません。もし、あなたが“疑っているのは間違っている”と声を上げなければ」

 ハッという顔で律子が右京の顔を見つめ、視線を合わしてなかった右京も律子の方に向き直り、律子の決心を促す。しばし見つめ合った後、律子がすべてを話す決心をする。


あの時と若干状況が違うと思うが、≪教師に間違っているとキッパリ指摘した律子なら、摘発から逃れる不正行為をするのではなく、ディスパッチ協会らの不正を暴く努力をするだろう≫と右京は示唆したかったのだろう。


国際ディスパッチ協会理事長・犀川武彦について
 今回の悪の根源であるが、設定上はともかく、右京から逃げ切れるほどの大物感はなかった。
 犯人逮捕の際、ついでに悪事が暴かれ摘発される中規模の会社社長というイメージだった。
 右京は空港で摘発宣言をしたが、“負け犬の遠吠え”にも聞こえた。
 それなら、もっと大物俳優を配してほしかったなあと。
 大物俳優なら、再登場もあり、スッキリさせてくれると期待できるのだが……


 ところで、演じたのが、あの『柔道一直線』の主人公を演じていた桜木健一さんであった(『刑事くん』も有名)。ちょっと、びっくり。


今回の脚本家は山本むつみ氏
 山本むつみ氏は過去に、season12 第15話「見知らぬ共犯者」season13 第13話「人生最良の日」を担当している。
 過去記事において私は酷評しているが、今回は面白かった。良かった。
 マイナス点は国外逃亡を許したことと、野坂が国際ディスパッチ協会と癒着していたのではなく、不法就労者を助けようとしていたという真相が見えやすかったこと。
 「人生最良の日」で要注意脚本家に入れるべきだったと後悔していた(『八重の桜』も低評価)が、認識を少し改めなければならない。


【追記】
冠城はテレポーター?
~トイレで野坂がマリオに摘発情報のメモを渡すシーン~
便器を掃除しているマリオと入れ替わるように、野坂がトイレに入る(もちろん周囲に注意を払いながら)。
用を足すふりをしながら、メモを渡そうとマリオの方に手を伸ばす。
その腕をついたて(仕切り版)の陰にいた冠城が、ハシッと掴む。

い…いつの間に?
 マリオが冠城たちと示し合わせていたのなら可能だが、マリオも驚いていた様子。

 そもそも、手を伸ばして渡すのは目立つので、便器付近ですれ違う時に渡すほうが機能的。



【ストーリー】番組サイトより
右京が小学校時代の同級生と再会
外国人労働者をめぐる事件に潜む巨悪とは?

 ある夜、道でうずくまる外国人男性を見つけた右京(水谷豊)は、彼に請われるまま、小さな個人病院へと担ぎ込む。そこは、小峰律子(竹下景子)という女性医師が一人で切り盛りする病院で、偶然にも右京と律子は小学校時代の同級生だった。
 助けたのは、マリオ(広瀬剛進)という日系三世のエルドビア人で、現在はビル清掃の仕事をしているという。マリオは以前から律子に世話になっているらしく、この夜も律子の適切な処理で体調を回復させた。
 数日後の朝、雑居ビルの路地で変死体が発見される。被害者は、高井(神農直隆)という男性で、外国人労働者の派遣業を営む団体の職員だった。マリオがその雑居ビルの清掃を担当していることに気づいた右京は、気になって独自の捜査を開始。
 一方、亘(反町隆史)は、日下部(榎木孝明)からの“秘密指令”を受け、法務省の内部部局である入国管理局の情報漏えい問題を追っていた。入管では最近、摘発の失敗が相次いでいて、内部からの情報リーク疑惑が浮上しているため真相を探れとの指令だった。早速、入管に勤める先輩官僚・野坂(春田純一)に探りを入れた亘は、彼が持っていたマッチが問題の雑居ビルに入る飲み屋のものであったことに気づく。
 外国人労働者のマリオ、入国警備官の野坂、そして殺された人材派遣業の高井。奇妙な繋がりと対峙することになった右京と亘は、共同戦線を張って捜査にあたるが…!?

外国人派遣業者の変死と入管の情報漏えい問題
これらの出来事を繋ぐ鍵は、同級生の女医・律子!?
弱きを助け強きをくじく右京と律子、二つの正義がぶつかり合う!?

ゲスト:竹下景子

脚本:山本むつみ
監督:池澤辰也
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