英の放電日記

将棋、スポーツ、テレビ等、日々感じること。発信というより放電に近い戯言。

不調なのか、それとも、衰えたのか……「その7・一昨年の王位戦を振り返るⅥ」

2016-07-03 11:28:18 | 将棋
一昨年の将棋を振り返っている場合じゃないような状況(A級順位戦の初戦に敗れ、棋聖戦第3局も逆転負け)ですが、エールを兼ねて書きます。
「その1」「その2」「その3」「その4」「その5」「その6」の続きです。

 第7局は相矢倉戦で、第2局の進行を辿った。

 60手目の木村八段の△6五歩で第2局と別れを告げたが、前例はある。
 ちなみに、これよりもう少し前は、先手の角を6八に据えることが多かったが、芳しい展開にはならず5七角が主流となっていた。斯くいう私?も6八角型で嫌な思い出(2013年の名人戦で6八角型で羽生三冠が森内名人に敗れている)がある。しかも、その名人戦の1週間後に木村八段が後手を持って、先手の森内名人に5七角型で敗れているという。(棋譜中継解説の情報)
 第1図より、▲1四歩と垂らしたのが工夫(通常は▲1三歩)。▲1四歩は狙われることの多い2五の桂を、▲1三歩成からいつでも捌けるようにしている。▲1四歩は、この年(2014年)の6月27日の竜王戦昇級者決定戦4組、▲増田裕司六段-△飯塚祐紀七段戦で指されている。以下△2四銀▲1三銀△同桂▲同歩成△同香▲同桂成△同銀▲1五香△2四銀と進んだ。結果は後手勝ち。(棋譜中継解説より)
 これに対し、△2四銀もあったが、木村八段は△3七銀は、▲1三歩型ではよくある手だが、前例の、▲増田-△飯塚戦から離れ、いよいよ未知の局面となった。


 △3七銀(第2図)で封じ手となり、(1)▲1三歩成、(2)▲3九飛、(3)▲6八飛などが考えられたが、羽生王位の封じ手は▲1五香。飛車を捨てて1筋を突破する手だが、少し大胆すぎたようだ。
 以下は、中継サイトの局後の感想。
(1)▲1三歩成は△同桂▲同桂成△同香▲2五桂△3五桂▲1三桂成△同玉▲1五香△2四玉▲1八飛△2六銀成▲2九香△2七桂打が一例。「次に1筋に歩を打たれると後手の入玉がほぼ確定するので、△2七桂打の場面で困ると思いました」と羽生。▲1三歩成の変化はほかにもあるが、いずれも入玉模様になりやすい。
(2)▲3九飛は有力手のひとつ。以下△2六銀不成▲4六角△同角▲同歩△5八角▲1三歩成△同桂▲同桂成△同香▲4五歩△5三銀(△4五同歩は▲7一角)▲3六桂△6六桂。「これはやってみないとわからない」が対局者の感想だった。
「本譜の順は無理でしたね。ここは▲6八飛か、あるいは▲3九飛か。いずれにしても飛車を逃がすべきでした」


 第3図、1筋を突破したものの……

 飛車を取った銀がそのまま遊び駒となるのならともかく、角まで取るという状況。2手前の△6六歩▲6八金引を利かされたのも辛い。(△6六歩▲同金は△4七銀成▲7九角△6八歩を利かされると解説されていたが、以下▲同角△5八成銀▲6七金とした方が角の取られ方としては良かったように思う)

 
 △8六歩▲同銀と利かされ、先手の矢倉は弱体化が激しい。大駒4枚を後手が保持しており(銀香と飛角の交換)で、大差のように見えるが、先手に金香交換の権利があり、後手玉の4三金と4二銀は機能しておらず、見た目より後手玉は危険。意外と形勢差はないようだ。

 第3図以下、△1八飛▲6八歩△2二歩▲3二成香△同玉と進む。
 △2二歩以下形を決めて受けやすくしようとした木村八段だが、▲2一銀成△同玉▲2四桂という手段があり後手玉の危険度は軽減されていない(先手が寄せきれるかどうかは微妙)。
 ≪意外と難しい≫という評価が控室で出てきたとき、▲8三香!


 強引に飛車を三段目に呼び込み、飛車の守備力を除外して寄せやすくしようとした手だが、貴重な戦力を手放すうえ、本譜のように△6二飛とかわされても、その効果ははっきりしない。▲8一香成と桂の入手を可能にしていると言っても、先手で取れるわけではないし、6筋から攻められる懸念もある……
 ともかく、▲8三香に△6二飛▲2一銀不成△同玉▲2四桂と進む。

 ここで、△3二銀が有力で先手が自信のない変化が多かったようだ。
『△3二銀に(1)▲3三歩△同銀右▲同桂成△同銀▲1二銀△3一玉、(2)▲8一香成△3五角、(3)▲1三歩△1一歩、(4)▲1三銀△3五角▲4六歩△6三香などが調べられたが、先手自信なしの変化が多い。「△3二銀でちょっと悪い気がします」と羽生。「そうか、そうでしたか。足りないと思っていましたが、△3二銀を打つべきだった可能性はあります」と木村』(棋譜中継解説より)
 しかし、木村八段は△3三銀!
 木村八段らしい強気の受けだ。≪先手から3三に駒を打ち込んで△同銀と取らせてどうか?≫と考えるところ、自ら3三に銀を上がる……先手にしてみれば、打つ駒の節約と一手の手得である。
 そうまでして銀を上がった木村八段の思惑は2四の桂の除去にあったと思うが、さすがに強気過ぎたようで、△3三銀以下▲1二銀△3一玉▲3三桂成△同金▲5三銀と打たれては、後手玉も危険の領域を超えてしまったようだ。皮肉なことに、6二の飛車当たりになっている。


 木村八段もここで△6九角と鋭手を放つ(2枚の飛車を活かした詰めろ)。
 ここで▲3二歩△同金を決めて▲7九金打(第8図)と手を戻したのが冷静で、 以下△7八角成▲同金△6九銀に▲3二桂成△同飛に再度▲7九金打(第9図)と丁寧に受ける。


 以下△7八銀成▲同金△4三金(第10図)と受けられ、攻めの継続が一見難しそうだが


 ▲3三歩△同飛▲2四銀△3二飛▲4四銀成が幸便の寄せで(△同金なら▲5三角)

 △4二玉▲4三成銀△同玉▲2一角と厳しい追撃。
 ここで△3一金と受ければ、先手が良いもののまだ頑張れるとみられていたが、木村八段は△6九銀と形を作った。



 シリーズ前半の第3局までは完全に木村八段が押していた。
 その後は羽生王位も立て直し、4勝2敗1持将棋で防衛を果たした。
 熱戦が多く、面白いシリーズだった。(最近は、“主観的に”面白くないタイトル戦が続いている)


「その8」に続く

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