漢検一級 かけだしリピーターの四方山話

漢検のリピート受検はお休みしていますが、日本語を愛し、奥深い言葉の世界をさまよっています。

貫之集 493

2024-08-21 06:01:06 | 貫之集

はるがすみ とびわけいぬる こゑききて かりきぬなりと ほかはいふらむ

春霞 飛びわけいぬる 声聞きて 雁来ぬなりと ほかはいふらむ

 

春霞を分けるように飛んで行く雁の声聞いて、雁が来ているらしいと、よそでは言っていることであろう。

 

 春霞の中の分け入るように飛んで行く雁。その声を聞いて雁の来訪を想像で語る「ほか」の人々は、霞で雁の姿が見えない場所にいるということでしょうか。

 本歌は春の霞ですが、貫之には秋の霧を材料に詠んだ類歌もあります。

 

あきかぜに きりとびわけて くるかりの ちよにかはらぬ こゑきこゆなり

秋風に 霧飛びわけて 来る雁の 千代にかはらぬ 声聞こゆなり

(後撰和歌集 巻第七「秋下」 第357番)


貫之集 492

2024-08-20 04:46:53 | 貫之集

みづのあやの みだるるいけに あをやぎの いとのかげさへ そこにみえつつ

水のあやの 乱るる池に 青柳の 糸の影さへ 底に見えつつ

 

水が乱れて波紋ができている池に、青柳の糸の影までが水底に映って見えている。

 

 「水のあや」は波紋のこと。貫之得意のリフレクションの描写ですね。


貫之集 491

2024-08-19 05:58:43 | 貫之集

おなじいろに ちりまがふとも むめのはな かをふりかくす ゆきなかりけり

同じ色に 散りまがふとも 梅の花 香を降りかくす 雪なかりけり

 

同じ色で散って雪と見分けがつかない梅の花であるが、その香りまで隠す雪はないのだなあ。

 

 目で見て雪と区別はつかなくても、その香りまでは隠せないという着想は、古今集0335 の小野篁(おの の たかむら)の歌と同じですね。

 

はなのいろは ゆきにまじりて みえずとも かをだににほへ ひとのしるべく

花の色は 雪にまじりて 見えずとも 香をだににほへ 人の知るべく

 


貫之集 490

2024-08-18 06:11:53 | 貫之集

むかしより おもひそめてし のべなれば わかなつみにぞ われはきにける

むかしより 思ひそめてし 野辺なれば 若菜摘みにぞ われは来にける

 

ずっと以前から思い描いていた野辺の若菜摘みに私はやってきたのだ。

 

 「思いそめ」た対象は表面的には「野辺」ですが、心情としては「野辺での若菜摘み」でしょう。


貫之集 489

2024-08-17 05:26:37 | 貫之集

みよしのの よしののやまに はるがすみ たつをみるみる ゆきぞまだふる

み吉野の 吉野の山に 春霞 立つを見る見る 雪ぞまだ降る

 

吉野山に春霞が立つ一方では、雪がまだ降っているよ。

 

 雪と春霞という、異なる季節の風物詩を同時に詠み込む手法は、030201にも見られ、また 古今集0003 のよみ人知らずの歌も良く知られていますね。

 

やまみれば ゆきぞまだふる はるがすみ いつとさだめて たちわたるらむ

山見れば 雪ぞまだ降る 春霞 いつとさだめて 立ちわたるらむ

(030)

 

はるがすみ たちよらねばや みよしのの やまにいまさへ ゆきのふるらむ

春霞 立ちよらねばや み吉野の 山にいまさへ 雪の降るらむ

(201)

 

はるがすみ たてるやいづこ みよしのの よしののやまに ゆきはふりつつ

春霞 立てるやいづこ みよしのの 吉野の山に 雪は降りつつ

(古今集0003)