中国では不動産バブル崩壊の負の影響が中小の銀行にとどまらず大手の国有銀行にも徐々に波及しつつある。中国建設銀行は、大手デベロッパー“世茂集団(シーマオ・グループ)”の清算を香港の裁判所に申し立てた。国有銀行でさえ、不動産企業のリスクは危険水域に近付きつつあるようだ。
不動産向け融資が伸び悩むと、民間の不動産業者の倒産は増え景況感は追加的に悪化する。失業者は増加し、家計の住宅ローン返済などの負担は増える。
中国政府は、そうした状況を避けたい。3月下旬、中国政府は国内の銀行に対して、政府が作成した“ホワイトリスト”の不動産業者への融資を加速するよう要請した。地方政府が必要とするプロジェクトへの資金提供を急ぐよう銀行に指示を強めた。
中國工商銀行は政府の指導の下、最大で400億元(8400億円)の総損失吸収力(TLAC)債を発行すると報じられた。一般的に、TLAC債は銀行の経営が悪化した際、投資家に損失を転嫁し公的資金を注入せず預金者を保護する手段だ。
中国政府は公的資金の注入で不良債権処理を進める考えを今は示していない。TLAC債発行で、銀行に不動産分野のリスクを負担させ、不動産業者の延命を目指す政策方針はより鮮明化した。他の5大国有銀行も同様の債券の発行を準備している。
産業政策面で中国政府は、EVやバッテリー、旧世代の製造技術を応用した半導体の製造強化をより重視する。狙いは、輸出増によって景気を回復させること。国有企業などへの産業補助金を積み増し、価格競争力を高め輸出増加につなげる。それによって、景気の回復を目指す。
しかし、わが国の経験に基づくと、ゾンビ企業の延命は経済のさらなる悪化につながる。
足許、中国の需要不足は深刻だ。本来であれば中国は景気対策として公共工事などを増やし、政策的に需要を増やさなければならない。
しかし、政府の経済政策は供給力の拡大に焦点が向いている。過剰生産能力はさらに増加し、デフレを世界に巻き散らかす。そうした経済政策で本格的な景気回復を目指すことは難しい。今後も不動産分野などで不良債権は増えていくだろう。
状況によっては、1997年に日本が経験したような金融システム不安が中国で起き、世界経済の下振れリスク要因になることは避けられないかもしれない。