monologue
夜明けに向けて
 



 授業はもちろん英語だけだったけれどその環境にいるとなぜか意味が通じた。わたしはまったくのハクチというわけではないようだった。アパートで、その頃のヒット曲を日本からトランクに入れてきたカセットテープレコーダーに録音してその歌詞を聴き取って歌う練習をした。わからない部分は学校で休み時間に先生に聞き取ってもらったりした。わたしのわからない部分は先生も聞き取れないことがあった。そんな時は音楽店で売っている新曲の楽譜を見てノートに書き写した。1曲2ドル50セントなのでおいそれとは買えなかったのだ。すると他のクラスの生徒が噂を聞きつけてやってくる。「このごろ、八戒、八戒、八戒、八戒、と繰り返す歌が流行っているけどあの歌、何の歌…」べつにそれは西遊記の八戒の歌ではなかった。それはシルバーズの最新ヒット「ホットライン」 だった。日本人にはそれが八戒と聞こえてしまうのだった。そしてやっと授業に慣れてきた頃、先輩のひとりが「アメリカで暮らすには運転免許がいるぞ、身分証明書としても酒を買うときに必要だし、明日みんなで取りに行こう」と言い出した。わたしは車に興味がなかったので日本で運転したこともなかった。「この国は広いのでどうしても車がいる。ロサンジェルスは地下鉄もないし、仕事もできないぞ、フミオも一緒に来いよ」と強く勧めるので見学するつもりでついてゆくことにした。
fumio

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