monologue
夜明けに向けて
 



 タクシーはすべるように真夜中を走りだした。フリーウエイ、文字通りのフリーで只なので料金所も信号もなく何車線もあるだだっ広い道をまっしぐらに走る。初めて見るアメリカの町の夜景を横目に時計をみるとまだ朝の1時前、こんな時間にホテルに着いてから知らない町をトランクを提げて学校を探して歩くのは不可能のように思えた。どうしたらいいのだろう。あれこれ考えるうちにHarbor フリーウエイからスピードを落としてダウンタウンに入る。運転手にとっては来慣れた場所らしくGrand Ave.(グランドアヴェニュー)上で5th と6th st. の間に位置するホテルの前に停車した。それがヒルトンホテルだった。べつに泊まるわけではないからフロントに行っても仕方ない。スーツにネクタイ姿で良かった。ホームレスと思われたら追い出される。従業員たちの視線に身を固くして入り口付近の待ち合わせロビーに人待ち顔を装って座る。とにかくここで夜が明けるのを待とうと決めた。しかし、しばらくすると疲れが出てうとうとして姿勢が崩れる。そこで寝るな、部屋をとって眠れ,と言われるのがこわかった。何度も姿勢を戻して元気そうにあたりを見回して長い長い夜を過ごした。それがそれから十年暮らすことになるこの国でのホテルで泊まったといえる唯一の経験となった。その後ホテルには泊まったことがないのだから。あれでも泊まったといえるのなら…。
fumio



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