風をうけて vol.3

お引越ししてまいりました。
拙いブログですがよろしくお願いします。

時間なく、校正ができませんでした。不備はご容赦を・・・。「秋祭り」

2011-10-22 15:16:33 | 日記・エッセイ・コラム

2011_09020002 秋も本格化し

山々では色づいた木の葉が

めっきり冷たくなった強風に吹かれ

一枚、また一枚と空を舞っていく。

里では収穫を祝う、この村きっての

大祭が執り行われていた。

大きな太鼓の音や笛にに合わせ

獅子頭をつけた若者数人が

まるで何かに取り付かれたような舞を見せている。

それを取り囲むように年寄りや子供達が手を叩き、まるで獅子を煽るかのような

仕草で守り立てる。

トランス状態とはこのような光景を言うのだろうか。

昔から神の居場所と崇められてきた小さな祠の前では、純粋な心を持つ者ほど

全てを忘れ去り、ただひたすらに儀式としての舞の世界に

のめり込んでしまうのだろう

都会の風に吹かれる事なく、深い山々の奥にあるこの村の一番の楽しみは

このような祭りであるに違いない。

都会のように近所にコンビにがあるわけでもなく、一日を通して激しい音と

光を放つゲームセンターや繁華街の雑踏があるわけでもない。

向かいには、これが商店かと思うような古い店頭に並べられた商品が見える。

生活用品から食品の全て、そして石油商品から子供用のおもちゃに至るまで

何でもそろえてある。

しかしそれ等は、ここに何年もここに置いてあるかのように色あせ、

幾分埃さえ被っているかのようにも見える。

まさに数十年昔の日本の姿そのもの、そういえば自分の子供の頃に

良く見た光景そのものだと思った。

「まるでタイムスリップだな・・・」

昨日、遠方の旧友が重い病気で入院したと聞き、なかなか時間の取れない

今の生活も合間って、深夜であったが、ひたすら友人の住む街へと

車を走らせていた。

ナビが示すインターチェンジで高速道路から離れ、山道に導かれるのだが

どうもおかしい。

2011_10160001 ナビはこうした山の奥へ入ると

GPSに狂いが生じ、時々あらぬ方角へ

案内される事が少なくない。

今日もその類か・・・。

深夜の道路事情も災いし、

行き先を示す道路標識も無い。

今は自分の感だけを頼りに次第に狭まる道路を走る。

分岐となる交差点もなく、間違えることもないだろうと高を括ってのドライブだ。

「こんな山道だったか・・・?」

以前、一度だけ彼が元気な時に訪れた事のあるその街は、インターを下りて

暫く大きな道路を走って行ったような記憶があるのだが、本当にこの道で良いのか

少々不安になってきた。

そう思った瞬間、偶然にも前を走る車のテールランプらしき赤い灯りが

目に入った。

その灯りは明るさを増し、どうやら停車したようだ。

その車に追いつき、確かにこの道で良いのか聞いてみようではないかと思った。

やがて行くと白のセダンが止まっていた。

車から下り、セダンの車のウインドウを叩く。

す~っと下がったガラスのその奥には、何と病気で入院していると聞いた

友人のその姿。

あっけに取られ、「お前、何をやってるんだ!」と、半ば呆れ顔で聞く。

「ふふ、お前を待っていたのさ」と、平然と言ってのける彼。

「これから私の自宅まで案内するから着いて来い」とも言う。

狐につままれたかのようなこの事実をどうしても現実のものと

受け止める事ができない。

しかし前を走っている車を運転しているのは確かに旧友の彼なのだ。

やがて白々と辺りから闇が消えていった。

すると無性に眠気に襲われ、どうにも我慢ができない。

前を行く彼に停車を促すようにクラクションを鳴らし、パッシングライトで

合図を送るのだが、まったくスピードを落とそうとしない。

2011_10080002 もう限界だ・・・」

運よく一台分の駐車スペースを見つけ

飛び込むように車を止める。

瞬間、眠りに落ちた。

「どん・どん・どん」

腹に響くような太鼓の音で目が覚めた。

そこは小さな神社の鳥居の

前の小さな空き地。

子供達が不思議そうな顔をして

こちらを見ながら走り去っていった。

鳥居には真新しいお飾りが揺れていた。

そして獅子頭を抱えた若者が通り過ぎようとしていた。

引き止めるように、「ちょっとお伺いしますが、ここは・・・」と、言って息を飲んだ。

病気で伏している彼の若かった頃にそっくりな風貌。

ニコリと笑い、彼は子供達の後を追うようにして走り去った。

そして喝采と共に、太鼓と笛が鳴り響くき、勇壮かつ華麗な獅子舞が

繰り広げられていた。

ぼんやりそんな光景に目をやっていると、一節終えたようで若者達が

神社の影で一息入れていた。

氏子から振舞われた杯を酌み交わす若者のひとりが旧友に見える。

その相向かいに・・・。

「あれは・・・私・・・か・・・?」

楽しそうに会話を交わすうちにちらりとその顔が見えた。

間違いなく自分の若かった頃の自分だ。

耳を澄ませ会話を聞く。

「子供の頃、この獅子舞に憧れてたんだよな~」

「そうそう、約束したもんな。一緒にあの獅子を被るんだってさ」

「今日は最高だぜ、さあ、飲もうぜ」

忘れていた・・・。

2011_07260009 何時しか消滅していた

地元のあのお祭り。

そして彼との約束・・・。

急激に昔の光景が蘇った。

場所は確かに違うけど、

このお祭りは、あの獅子舞は、

あの当時とそっくり同じ。

そして有り得ない自分と彼の姿・・・。

「約束を果たせたんだ・・・」

何時しか安堵の涙が流れていた。

「ドンドン・ドンドン」

車のドアを叩く音で再び目が覚めた。

「君、ここを退いてくれんか。今日はお祭りでのう」

白髪頭の宮司らしき人に促される。

ふと周りを見渡すと街の大通りに面した神社の駐車場に車を止めていたのだ。

その数百メートル先には大きな病院らしき建物。

彼が入院していると言う病院の名前の看板が見えていた。

不思議な出来事だったが、夢でも見たのかとその病院に向かった。

病室に着くと面会謝絶の掛札。

廊下の奥から彼の奥さんがうつむきながら歩いてくる。

「彼は・・・」

「ハイ・・・」と、言ったまま首を力なく振った。

「せめて顔だけでも見てやってください」と、病室に招かれ彼の顔を見る。

青白くやせ細った顔には以前の面影は無かったが、

心なしか微笑んでいるように見えた。

「昨日の夜からなんですよ、こうして楽しそうに笑っているのは・・・」

「・・・」

2011_10130005_2 彼の手を握り締めると

弱々しく握り返してきた。

「オレだ、分かるか、頑張れよ」

自分の心の中にあのお囃子が

響き渡ってくるような

錯覚を感じていた。

そして、止め処も無く涙が流れた。

彼と奥さんの別れを告げ

悲しみに暮れながら病室を後にした。

あの神社のお祭りだという太鼓の音が小気味良く、大勢の人々の歓声と共に

この病院の玄関にまで響いていた。

その数日後、彼は静かに永遠の眠りに着いた。

秋祭りの時期である。

彼の棺には祭り袢纏が収められていた。

                       完

コメント (4)
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