メモメモ。
『日経ビジネス』2007年4月2日号 別冊「新日本的経営の姿」
「働く」って何だっけ?
日本の労働観を再考せよ
田坂広志
……日本人の報酬観も独特です。「給料や年収」「役職や地位」はもちろんなのですが、これら以外の目に見えない「4つの報酬」を重視している。
第1に「働きがいのある仕事」。これは「仕事の報酬は仕事」という考え方に通じる。第2に「職業人としての能力」。腕を磨くことそのものに喜びを感じるのです。「求道、これ道なり」という名言があって、道を歩むことそのものが幸せな状態だと思っている。
第3に「人間としての成長」。腕を磨くということは、すなわち、己を磨くこと。「人間成長」が報酬だと思っている。だから、「定年退職」の時に、「おかげさまでこの会社で成長させていただきました」と感謝するんですね。そして第4が「良き仲間との出会い」。「縁」という思想です。
これら4つが、日本人が働くことの喜び、つまり報酬になっている。そのことをしっかり見つめ直しておかないと、欧米的な経営を後ろから追い続けるだけで、日本的経営の新しい姿は見えてこないでしょう。
(中略)
日本には職人魂とか商人魂というのが昔からあって、近江商人の心得「売り手よし、買い手よし、世間よし、三方よし」とか、住友家訓の「浮利を追わず」とか、お客様の笑顔を見るために努力するとか、優れたプロフェッショナリズムがあった。これを復活させることを同時に行わないと、非常に危うい状態に向かってしまう。
同じ趣旨のことを、田坂氏は日経BPのネット記事で述べている。
2007年を斬る: 「働く」って何だっけ?
世界に誇るべき日本人の労働観、その誇りと自信を取り戻せ
このインタビューの記事は、コメント欄で見る限り、かなり叩かれた。まずかったのは、導入部のところだろう。
NBO 労働法制の大改正が進められようとしていますが、制度論のところになると労使が対立して前になかなか進めない。日本人の労働観、つまり「働く」ということに対する考え方を徹底的に議論することが前段にあるべきなのに、そこが抜け落ちているような気がします。
田坂 その通りですよね。「ホワイトカラー・エグゼンプション(労働時間規制の適用除外制度)」を巡る議論ひとつ取っても、労使の対立軸の中で議論しているとどこまで行っても平行線で交わらない。「第3の軸」というか、何か違った角度から話を進めていかないと良い方には向かわないと思います。
ホワイトカラー・エグゼンプション法案の扱いを巡って、その法案の存在を意識しているホワイトカラー労働者がピリピリしていた頃だから、一方で成果主義やら残業代ゼロ法案など欧米流の環境を押し付けられている環境の中で随分と悠長な話題じゃないかという反発だった。
この冒頭の部分を除いた日経ビジネス別冊の記事を読んだわけだが、この記事冒頭に引用した項目を含め、けっこう共感できた。
☆★☆★
日経ビジネスの特集記事「"抜け殻"正社員」も、面白かった。派遣社員や請負労働者にビジネスの付加価値を産む部分をどんどんさせていった結果、プロジェクト管理しかしていない正社員ができてしまった。
「あるある」などテレビ局での番組捏造などが表面化しているのも、制作費の安い下請け・孫請けに制作現場を任せてきたテレビ局の番組制作の構造が温床になっている。さらに今回の捏造などで明らかになったのは、かつては放送内容をチェックしてきたプロデューサーなど正社員が、それをできなくなっている事態だ、という指摘だった。
以前に『日経ビジネス』で取り上げれていたキヤノンの請負労働者たちがその後組合をつくり、国会にも証人として発言した。キヤノンも派遣労働者など正社員でない労働者に対して正社員化の道を開かざるを得なかった。
リストラで正社員の数を絞りに絞られた結果、正社員が育っていない、という指摘も別の記事にはあった。日本企業の伝統である、中長期的に人材を育てるという仕組みを復活させる必要がある、というのがキーメッセージになっていた。
90年代後半から続いてきた、リストラ、成果主義導入、正社員の絞り込み、非正規労働者の枠の拡大、といった流れが一旦落ち着いて、正社員の価値を見直す流れになってきたのかな……いや、まだ、参院選後まではわからない。参院選が終わったら、またホワイトカラー・エグゼンプションを言い出す人たちは存在しているのだから(苦笑)。