一寸の虫に五寸釘

だから一言余計なんだって・・・

『ダーウィンの悪夢』つづき(雑感)

2007-01-06 | キネマ

昨日のつづきというか雑感です。

タンザニアは貧しいのか
ナイルパーチの研究所の夜警の給料が1晩1ドルとのことですが、タンザニアの物価水準を考えても低いのでしょうか。
夜警氏のインタビューでも「農村では食えないから都会に出てきた」とは言っているものの、1日1ドルの生活がどのレベルのものなのかについての言及はありませんでした。

乱暴な比較ですが『三丁目の夕日』の舞台になった昭和31年の日本の大卒初任給が約1万円だったそうです(参照)。
当時は土曜も半日勤務ですから、一日当たり1000÷24=417円になります。当時1ドル=360円でしたから、大卒の初任給1日あたりは1.16ドルということになります。
為替レートや物価水準も同程度であれば(魚を加工してジェット機で空輸してもペイするのですから、その可能性は大かと)「悲惨なくらい貧しい」ということはないと思います。


失業率の高さ、農村の貧しさが問題?
映画でもホームレスの少年がとりあげられたり、農村から流れてきた人びとがビクトリア湖畔にバラックを建てナイルパーチを取って生活している様子が映されています。
すると、問題の本質はタンザニアの失業率の高さや農業の不安定さ(降雨不足ですぐ飢饉になるという部分がありましたが、灌漑設備などが行き届いていないのでしょうか)なのかもしれません。
だとすれば、ナイルパーチの加工業が生み出す雇用(取材先の工場で3000人(うろ覚え))や、沿岸の住民が魚をとることで現金収入を得られることはプラスなのではないでしょうか。

また、「農村では生活できないから都会に出てきた」という話が随所に出ました。
一方でナイルパーチの加工場で三枚に下ろされた残骸の頭と骨をもらいうけて、それを油で揚げる(そこの衛生状態とか労働環境は確かにひどかったですが)商売があります。
ここの経営者(監督者?)が、「これは農村にも売れる」とか、トラック1杯分の残骸を指差して「これで100ドルになる」と言っていたりします。
目の子で計算すると、残骸の山の大きさは直径5m、高さ1.5mくらいでしたから7.22立米、ナイルパーチの頭の大きさが0.2×0.15×0.1=0.003立米、背骨から尾の部分と隙間があるので山の中の頭の割合は大目に見積もって40%とすると、7.22×40%÷0.003=963個の頭があります。
約1000個とすると、1個0.1ドルで売られていることになります。
先の夜警の一日の収入の1/10、価格としてはそんなものかなと思います。
これが上の発言のように農村でも売れるのであれば、農村にも一定の現金収入のあるひとびとがいる、ということではないでしょうか。

となると、農村の問題は天候不順の影響を受けやすいという部分にあるのか、はたまた地主・小作問題のようなことがあるのでしょうか?

映画の中でこれほど「農村では生活できない」と言っている人が多かったのですから、そっちの方も取材して欲しかったです。


悪者は誰だ?
ドキュメンタリーによくある手法として、ターゲットへのインタビューでその「悪者度」をクローズアップさせる、というのがあるのですが、今回は「悪い側」風なのは食品加工業の社長と輸送機のパイロットくらい(それもナイルパーチで稼いでいる、というだけですが)で、監督がターゲットにしていると思われる武器商人や武器のユーザー(アンゴラなどの政府/反政府勢力)または輸送機を所有している会社、貧困や失業者が問題だとするならタンザニア政府関係者とか国連関係者、へのインタビューがありませんでした。

なので、断片的な映像による過剰な思わせぶりが印象に残ってしまったのかもしれません。
まあ、明快な「悪者」がいないところに一番の問題があるんだと思いますが。


印象といえば、映画に出てくるナイルパーチの加工工場の社長やスタッフ、それにプラスチックのケースを納入している業者(ナイルパーチで儲けている人々)はみんなアラブかインド系の顔と名前だったこと、そして、輸送機のクルーはロシア人でお約束のように酒を飲んでいたことが印象に残りました。

この辺も監督の演出意図があるんでしょうか。



いろいろ考えるきっかけになる、という意味では見る価値はあると思いますし、あまり文句ばかり言っていても仕方ないので、以前47thさん(帰国後ご活躍されていることと思います)がブログで紹介されていたEasterlyの"The Elusive Quest for Growth"の邦訳『エコノミスト 南の貧困と闘う』を読んでみようと思います(多分そのときは買ってないと思うのですが、二度買いしないようにチェックしてみなきゃ・・・)。

コメント
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