一寸の虫に五寸釘

だから一言余計なんだって・・・

いまどきの倒産法務事情

2010-08-03 | 乱読日記

夏枯れにつき金融法務事情1902号「特集 いまどきの倒産法務事情」などを斜め読み。
倒産直前企業の詐害的会社分割に対する対応のところが面白かったのですが、妙な読後感があったのが松嶋英機弁護士の「会社更生手続きと事業再生制約論」 。 

JALの会社更生手続きにおいて公的資金が注入されている以上、更正手続きにおいても競合会社への配慮や逆に赤字路線の切捨てなどに対して一定の配慮をすべきとの主張への反論がなされています。  

会社更生法は債権者・株主等の利害を調整して会社を再生することが目的で、更正手続開始の決定に当たっても当該株式会社会社の事業の社会的有用性は要件として考慮されていません。 
つまり敗者復活の仕組みであって、それ以上ではないわけで、会社更生(や民事再生)という「敗者復活」のルールがある以上、企業間競争もそれを前提とすべきだ、というのは当然です。 
バブル崩壊時に民事再生したゼネコンがいち早く財務体質を強化して価格競争力を持って健全な(=負債を抱えたままの)他のゼネコンの経営を圧迫したとか、アメリカで航空会社が何度もchapter11になりながら再編を繰り返しているのもそうですね。

なので、総論は論旨に賛成なのですが、ひっかかったのはこの部分  

 この種の批判は今に始まったことではなく、昭和27年に会社更正法が制定されて以来、今日に至るまで大なり小なり存在する。
(中略) 
 しかし、更正会社は利害関係人の不利益や競合会社への一定の影響を考慮しても、なお、更正会社の事業を再生させる社会的な価値を有するがゆえに、更正会社や管財人らは最大限の努力をして事業を再生しなければならないのである。仮にいわれのない外部からの批判に萎縮して事業の再生が頓挫するとすれば、利害関係人の多大の犠牲や裁判所をはじめとする関係者の努力も無に帰し、本末転倒の結果になる。 
 JALの更正手続きにおいて併用された、事業再生ADR、企業再生支援機構についても、社会的に有用な事業体の再生を目的とする点で共通するのであり、このような議論が妥当する。  

特に「更正会社は・・・再生する社会的価値を有する」の部分は、素人が読むとあたかも「会社更生手続きが認められた会社は再生する社会的価値がある」という風に読めてしまって、その後の「関係者の努力」とか事業再生ADR、企業再生支援機構への言及とあいまって、会社更生手続きが錦の御旗のような印象を与えているように思います。

本来なら更正計画に基づいて事業再生を進めていったとしても、空運業は許認可事業である以上利便性に劣る便をすべてやめて儲かるところだけに特化するという方針が国交省の路線認可上認められない場合もありえます。

なので、税金が使われているから云々という批判は、資金を投入した企業再生支援機構や国交省に向けられるべきだという主張があってもおかしくないのですが、そこまでは踏み込んでいません。  

しかも脚注では株式会社企業再生支援機構法1条が引用されています  

株式会社企業再生支援機構は、雇用の安定等に配慮しつつ、地域における総合的な経済力の向上を通じて地域経済の再建を図り、併せてこれにより地域の信用秩序の基盤強化にも資するようにするため、金融機関、地方公共団体等と連携しつつ、有用な経営資源を有しながら過大な債務を負っている中堅事業者、中小企業者その他の事業者に対し、当該事業者に対して金融機関等が有する債権の買取りその他の業務を通じてその事業の再生を支援することを目的とする株式会社とする。
(太字は私) 

これを読むと、大企業中の大企業であるJALの再生に関与すべきなのかという当初の議論を思い起こさせます。 
そしてこの議論は結局なし崩しになってしまったことを考えると、今回のJALの会社更生は、政府のメンツがかかったプロジェクトなので、JALの再生が最優先で国交省の航空行政の公益性という面からのけん制がきかないのではないか、という疑問が頭をもたげてきます。 

もっともそれは会社更生手続とは別の話ですが。  

松嶋弁護士は倒産法の大家でDIP型会社更生を主導した一人でもあるので、勢いあまって筆が滑ったという部分もあるのかもしれませんが、ひょっとすると「諸制度の大義名分を使って政府を味方につければあとは管財人が守ってあげますよ」という用心棒の売り込みなのかな、などともちょっと勘ぐってしまいました。

 

コメント
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