一寸の虫に五寸釘

だから一言余計なんだって・・・

『「普天間」交渉秘録』

2010-08-17 | 乱読日記

収賄の容疑で訴訟中の守屋元防衛事務次官の回想録  

普天間基地移転問題の経緯について当時の日記を元に細かく振り返っています。
前に読んだ『この1冊ですべてがわかる 普天間問題』はもっぱら軍事・安全保障問題を中心にした解説ですが、政府内部での意思決定の(防衛事務次官から見た)過程が詳細に書かれていて読み応えがあります。  

本書で一番印象的だったのは、国の意思決定も断片的な情報を元に当事者が右往左往しながら決まっているということ。 
「も」といったのは、企業も大きな意思決定になればなるほど外部や内部の関係者が増え「雑音」が意思決定の過程に影響を及ぼして内部はドタバタだったりするのとどっこいどっこいだなと。


基地問題についても沖縄自体、基地周辺住民、公共工事を期待する建設業者、環境保護派と意見がわかれ、国会議員、県知事、市町村もそれぞれの支持母体の影響を受けていて、必ずしも一枚岩でなく、それらの人々が意識してか無意識にかいろいろなルートで政治家や記者に働きかけ、彼らも得た情報を断片的に官邸に伝えて官邸が混乱する様子がよくわかります。



・・・との記者情報が入る。官邸はこうした情報に関しては各省庁やマスコミから聞いている。経済人や国会議員も沖縄からのこの手の情報を鵜呑みにして官邸に伝えていた。しかし、官邸は確認のしようがなく、多くの筋から同じ情報が入ってくると、本当なのかもしれないと誤解する。沖縄側はそういう情報操作にも長けていた。


守屋氏も、官僚としてそこの部分は百も承知です。 



国会対策の基本は、無駄を承知で弾を数多く撃つことである。政局は時々刻々と変わるから、決め手は存在しない。丁稚のように低姿勢で、あらゆるところに頭を下げ続けることである。  

「あまり焦らない。忍耐力がいる。嫌だと投げ出さない。怒っただけ損をする。そう覚えておいたほうがいい。固めたつもりが固まっていないというのは世の常だ。イライラしない。沖縄も手数を出しているのだから、こちらもいろんな案を考えて手数を出して対応していくのがベスト。いつ終わるかわからない戦いだよ」
(これは大蔵官僚OBの助言)  


本書では前言撤回・意見不統一・政府内への切り崩し活動などを繰り返す沖縄に右往左往する官邸と、毅然として対応する守屋事務次官の奮闘、そして一貫してぶれなかった小泉総理の存在感が(後任者のぶれまくり度合いとのコントラストもあり)際立ちます。 
著者の視点からの回想であること(執筆者バイアス」)を差し引いても、けっこうリアリティがあります。 

特に小泉総理の発言をみると、この人は、おそらく総理大臣にのぼりつめる過程でトップが「ぶれない」ことが、多少強引に受け取られようとも政治においては強みになることを自覚したのだと感じます。  


企業でも、大規模な案件では、競合先との情報戦、JV相手との意見調整や社内調整においてはさまざまなレベルで玉石混交の情報が飛び交ったり、社内の「廊下とんび」が出現する(会社によるかw)のと似てます。 
そして、その中でTOPの意思決定の指針がぶれないところが強いというのも同じかですね。








コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする