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遺伝性腎臓病「若年性ネフロン癆(ろう)」患者由来のiPS細胞の樹立に成功

2020-06-04 | 医学
 理化学研究所バイオリソース研究センターiPS細胞高次特性解析開発チームの林洋平チームリーダー、荒井優研究パートタイマー(東京理科大学薬学研究科薬科学専攻修士課程2年)らの共同研究グループは、遺伝性腎臓病の一つである「若年性ネフロン癆(ろう)」患者由来のiPS細胞(人工多能性幹細胞)の樹立に成功した。
 本研究成果は、難病とされる若年性ネフロン癆の病態モデル細胞の開発を通した、発症機序の解明や治療法の開発に貢献すると期待できる。
 ヒトiPS細胞は再生医療の実現だけではなく、さまざまな疾患の病態解析や治療法開発にも有効なツールであると考えられている。若年性ネフロン癆では腎移植以外に有効な治療法がないことから、発症機序解明のために病態モデル細胞のもとになる患者由来のiPS細胞の樹立が望まれてきた。
 共同研究グループは、発症に関わることが知られているNPHP1遺伝子に欠失変異がある2人の若年性ネフロン癆患者の末梢血からiPS細胞の樹立に成功した。このiPS細胞の特性を解析したところ、NPHP1遺伝子の欠失変異が保持されており、その結果、遺伝子発現が消失していること、iPS細胞の特徴である自己複製能と多能性が維持されていることを確認した。
 本研究は、科学雑誌「Stem Cell Research」オンライン版(4月29日付)に掲載。
 背景
 ヒトiPS細胞(人工多能性幹細胞)は再生医療だけでなく、さまざまな疾患の病態解析や治療法の開発にも有効なツールであると、注目を集めている。「若年性ネフロン癆(ろう)」は遺伝性の腎臓疾患で、腎髄質に嚢胞(のうほう)が形成され、進行すると腎線維化、末期には腎不全を引き起こす。日本国内には約500人の患者がおり、腎移植以外に有効な治療法がないことから、発症機序の解明と新しい治療法の開発が望まれてきた。
 近畿大学医学部小児科学教室は、2015年に日本人の若年性ネフロン癆患者では、「NPHP1遺伝子」の欠失変異が高い頻度で見られることを報告した。しかし、NPHP1遺伝子の欠失変異から発症に至る機序には不明な点が多いため、病態モデルを使った研究が必要である。
 若年性ネフロン癆の病態モデル動物をつくる試みとして、NPHP1遺伝子を欠失変異させたマウスが以前にも報告されていたが、そのマウスには腎臓の異常が見られず、病態モデルにはならなかった。もし、患者由来のiPS細胞が樹立されれば、そのiPS細胞から分化誘導した細胞を病態モデル細胞として研究対象とすることが可能になる。
 究手法と成果
 若年性ネフロン癆患者由来のiPS細胞を樹立するため、共同研究グループは、近畿大学医学部小児科学教室で診療中のNPHP1遺伝子に欠失変異がある2人の同患者から末梢血を採取した。
 次に、京都大学iPS細胞研究所(CiRA)において、採取した末梢血からiPS細胞を作製した。その作製には、2014年にCiRA で開発された方法を用いた。患者由来の抹消血から分離した白血球の一種である単核球に、エピソーマルプラスミドベクターを用いてiPS細胞を作製した結果、6株のiPS細胞株の樹立に成功した。
 樹立しiPS細胞株は、配布機関である理研バイオリソース研究センター(BRC)細胞材料開発室(理研細胞バンク)へと寄託され、理研細胞バンクは、これらのiPS細胞に対する品質検査と、拡大生産するための培養を行った。その後、三つの研究室からなる特性解析研究グループ(理研BRC iPS細胞高次特性解析開発チーム、理研生命機能科学研究センター(BDR)ヒト器官形成研究チーム、東京理科大学薬学部生命創薬科学科)へ提供した。
 特性解析研究グループが、このiPS細胞の特性を解析したところ、NPHP1遺伝子に欠失変異が保持されており、その結果、この遺伝子の発現が消失していること、iPS細胞の特徴である自己複製能と多能性が維持されていることを確認した。
 今後の期待
 本研究成果は、今後、若年性ネフロン癆の発症機序の解明や新しい治療法の開発に役立てられると期待できる。
 また、本研究における多施設連携の枠組みを通して、医療機関・樹立機関・配布機関・解析機関(研究室)がそれぞれ連携することができれば、多くの難病に対するiPS細胞を用いた研究がより効率的に進むと期待できる。
 ◆補足説明
 〇iPS細胞(人工多能性幹細胞)、多能性
 脊椎動物の初期胚が持つ、全ての種類の体細胞へ分化する能力を多能性という。多能性を持ち、試験管内で培養して無限に増やすことができる細胞を多能性幹細胞という。iPS細胞は、成人の皮膚細胞などの体細胞・組織から採取した細胞にOct3、Sox2、Klf4遺伝子などを導入して初期化し多能性を持たせ、人工的に作製した多能性幹細胞である。
 〇NPHP1遺伝子
 ヒト2番染色体上に位置し、ネフロシスチン1タンパク質をコードする遺伝子。NPHP1遺伝子の欠失・変異は、若年性ネフロン癆の主要な遺伝的要因であることが知られている。このタンパク質は、細胞内で繊毛形成に関与していることが判明しているが、このタンパク質の機能不全がどのように若年性ネフロン癆の発症につながるかは不明な点が多い。
 〇欠失変異
 染色体上に存在する遺伝子(群)のDNA配列の一部が欠けてしまうこと。このことにより、特定の遺伝子(群)の発現がなくなり、細胞の機能異常や疾患の原因につながる。
 〇自己複製能
 iPS細胞などの多能性幹細胞は多分化能を維持したまま、ほぼ無限に増殖できる能力を持つ。これを自己複製能と呼ぶ。健常人由来や難病患者由来のiPS細胞は、自己複製能を維持し続けることができるため、研究、創薬、再生医療へと安定的に供給することが可能であり、バイオリソースとして、非常に価値が高い。
 〇単核球
 血液細胞のうちの、白血球の一種である。リンパ球と単球を合わせた総称である。技術的には、全血サンプルから遠心分離によって、濃縮回収することができる。
 〇エピソーマルプラスミドベクター
 従来のプラスミドDNAベクターを改変して、遺伝子導入した細胞内で、ゲノムDNAに組み込まれなくても、持続的に遺伝子発現を維持できるようにしたベクターの種類。技術的には、EBウイルス(エプスタイン・バール・ウイルス)由来のDNA複製を維持するためのEBNA1タンパク質をコードする遺伝子と、そこから発現されたEBNA1タンパク質が結合でき、ベクターのDNA複製起点となるOriP配列を同一ベクター内に構築してある。

 晴れ。早朝に少し降った様だ、土がチョット濡れていた。
 畑の隅の花畑。”オルレア”が満開に咲いている。コロニー状に纏まって咲き、見応えが素晴らしい。開花の期間がとても長く、4月から咲いている。今年も同じ場所で咲いている、昨年の種(こぼれ種)からか・・本来は多年草(宿根草)だが、夏の高温多湿に弱く、夏には枯れる一年草と扱われている(秋まきの一年草)。
 ”オルレア(オルレア・ホワイトレース)”は、花姿が非常に美しく、白いレース状の花、夏向きの花である。中央の微細な花の周りを大きな花弁を持った花がリング状に囲む、独特の形をしている。”ホワイトレースフラワー”(セリ科アンミ属、別名:ドクセリモドキ)に似ている。
 オルレア
 別名:オルレア・ホワイトレース、オルレア・グランディフローラ
 学名:Orlaya grandiflora
 セリ科オルレア属
 原産地はヨーロッパ
 一年草扱(常緑多年草)
 開花時期は4月~7月
 小さな白い花が集まり、レースのような花序


「例外」を発見するAI「BLOX」の開発

2020-06-03 | 科学・技術
 理化学研究所革新知能統合研究センター分子情報科学チームの寺山慧特別研究員(研究当時、現横浜市立大学大学院生命医科学研究科准教授)、隅田真人特別研究員、津田宏治チームリーダー(物質・材料研究機構 統合型材料開発・情報基盤部門 NIMS招聘研究員)、物質・材料研究機構国際ナノアーキテクトニクス研究拠点の田村亮主任研究員らの共同研究チームは、「例外」の発見に特化した人工知能(AI)「BLOX」を開発した。さらにこのAIを用いて、例外的な光を強く吸収する低分子量の有機化合物を複数発見することに成功した。本研究は、科学雑誌「Chemical Science」の掲載に先立ち、オンライン版(5月28日付:日本時間5月28日)に掲載。
 これまでに材料開発を飛躍的に発展させてきた要因は、予想や想定ができない、いわば例外の発見である。しかし既存のAIでは、人間が望む材料特性を予め設定することで新材料を開発してきており、例外的な物質を探すことはできなかった。
 共同研究チームは、機械学習をうまく組み合わせることで例外の度合いを数値化し、例外的な物質を効率的に発見するAIを開発し、「BLOX」と名付けた。BLOXを検証するために、量子力学に基づいた分子シミュレーション技術と組み合わせた結果、例外的な光吸収特性を持つ有機化合物候補を多数発見した。そのうちの8個を実際の化合物で評価したところ、250ナノメートル(nm、1nmは10億分の1メートル)以下や450nm以上の波長の光を強く吸収する例外的な特性を持つことを確認できた。このような化合物は、色素や有機太陽電池などの機能性材料として有用である。
 背景
 新たな研究領域を切り開くきっかけとなる物質や材料は、しばしば「例外」的なものである。この世界に存在する物質は非常に多様であるが、それらの物理的・化学的特性に注目すると、多くの場合さまざまな傾向や偏りが存在する。例えば、有機太陽電池の有機材料では、電圧と電流にトレードオフの関係がある。つまり、高電圧を示す材料では電流が低くなり、逆に高い電流値を狙った材料では電圧が低くなる。また、有機発光ダイオードに用いられる有機分子には、発光効率が高いほど寿命が短くなる傾向がある。これらの関係に反する物質は非常に有用であり、その開発に多くの労力が費やされている。
 これらの例に限らず、複数の特性を考慮した上で例外的な特性を持つ物質を効率的に発見できれば、かつてない機能を持った材料や新たな基礎研究の端緒を開く可能性がある。しかし、これまでこのような例外的物質の発見は、ほとんど偶然に任せるしかなかった。
 一方、近年、機械学習などに基づく人工知能(AI)を用いた新物質・材料設計が盛んに行われている。AIの設計では、目標となる特性を予め設定する必要がある。しかし、この弊害として、予想される物質が多く設計されてしまい、研究開発者の想像を超える例外的物質はなかなか発見されないというジレンマがあった。例外的な物質を効率的に発見するためには、従来とは異なるAI技術の開発が必要となる。そこで、共同研究チームは、例外的な物質の探索に特化したAI開発を試みた。
 研究手法と成果
 共同研究チームは、機械学習をうまく組み合わせることで例外の度合いを数値化し、例外的な物質を積極的に発見するAIを開発し、「BLOX(BoundLess Objective-free eXploration)」と名付けた。BLOXは、特性が既に分かっている物質(既知物質)のデータベースを利用し、特性がまだ不明な物質(未知物質)のうち最も例外的と考えられる物質を提案する。まず、既知物質から機械学習を用いて特性を予測するモデルを構築し、その後、そのモデルを使って未知物質の特性を予測する。すると、既知物質が示す特性分布と、未知物質に対する予測特性分布が得られ、未知物質の予測特性分布のうち最も「外れた」ものが例外的物質であると期待される。
 予測特性分布からの外れ度合いを数値化するために「Stein novelty」という尺度を導入すると、例外的な物質の候補が選択される。さらに、この候補物質の実際の特性を実験やシミュレーションによって測定し、そのデータを既知物質のデータベースに追加する。以上のプロセスを繰り返すと、例外的な特性を示す物質データが次々と蓄積され、より例外的な物質の探索が促進される。
 次に、BLOXを用いて、創薬用の市販分子データベースであるZINCの中から、例外的な光吸収特性を持つ化合物を探索した。低分子量の有機化合物(以下、分子と呼ぶ)のほとんどは250~450ナノメートル(nm、1nmは10億分の1メートル)程度の光を強く吸収し、これ以外の光を強く吸収する分子は例外的といえる。このような例外的な分子は、色素や有機太陽電池など光吸収特性を生かした機能性材料として有用である。BLOXによる探索では、分子がどの波長の光を効率良く吸収するかを、実験またはシミュレーションによって評価する必要がある。本研究では、量子力学に基づく分子シミュレーションである「密度汎関数理論(DFT)」計算により光吸収特性を導出した。
 ZINCデータベースに含まれる10万個の分子から、BLOXとDFT計算を組み合わせて例外的な光吸収特性を持つ分子を2,000回探索し、例外的でない分子も含めて2,000個が得られた。すると、ランダムな探索により得られた分子の分布に比べて分布が大きく広がり、例外的な分子の候補を多数発見した。さらに、DFT計算に基づいた光吸収特性が例外的な候補分子の中から8個を実際に準備し、実験的に光吸収特性を測定した。その結果、光の吸収波長・強度ともに、DFT計算で予測された値とほぼ一致し、BLOXとDFT計算を組み合わせることで例外的な分子が効率的に発見できることが実証された。
 BLOXによって発見された分子は、例外的な光吸収特性を持ち、その性質ゆえに色素や有機太陽電池などの有用な機能性分子としてのポテンシャルを持つ。注目すべき点は、これらの分子の多くはもともと薬開発の副産物として得られたもので、それらの光吸収特性は基本的に注目されてこなかったことである。これは、BLOXを用いれば、本来の用途を超えた有用な物質・材料を発見できることを示している。
 今後の期待
 既存のAIやデータ駆動型科学では、多くの場合、人間が望みの材料特性をあらかじめ設定することで、新材料を開発してきた。しかし、今回開発・実証したBLOXは、それらとはアプローチが異なり予想外・想定外なものを積極的に発見する枠組みである。今後、このBLOXを自動合成システムなどと組み合わせれば、自動で例外物質が次々と発見され、研究者が全く想定していなかった性質を示す物質の発見が加速されると期待できる。
 また、BLOXは化学や材料分野のみならず、幅広い科学分野における例外的事象の探索に活用されることも期待できる。
 ◆補足説明
 〇機械学習
 膨大なデータをコンピュータに入力し、その中にある既知の特徴を繰り返しコンピュータに学習させるか、もしくはデータそのものからコンピュータに規則性を発見させることで、未知のデータに対する解答を自動で得る手法。
 〇量子力学に基づいた分子シミュレーション技術
 量子力学方程式を計算機によって近似的に解くことで、分子の物性や反応性を予測する技術。
 〇有機太陽電池
 有機半導体を光電変換層として用いた太陽電池のこと。塗布プロセスによって大量生産できると同時に、安価かつ軽量で柔らかいことから、次世代の太陽電池として注目を集めている。
 〇有機発光ダイオード
 有機物質に電圧を加えた際に発光する性質(有機エレクトロルミネセンス)を利用した素子。スマートフォン、テレビなどに広く利用される。
 〇Stein novelty
 データの分布からの外れ度合いを定量化するために本研究で提案した指標。近年、Stein discrepancyと呼ばれる二つのデータの分布間の「ずれ」を定量化する方法が機械学習分野で注目されている。本研究では、Stein discrepancyを用いて一様分布からの「ずれ」を測ることで、外れ度合いを定量化した。Stein noveltyを用いると、特性の数やデータ分布の形状や範囲にかかわらず、外れ度合いを計算できる。
 〇密度汎関数理論(DFT)
 分子や材料の電子の状態を得るための量子力学に基づいたシミュレーション手法の一つ。DFTはDensity Functional Theoryの略。

 今日の天気は晴れ。早朝に雨が降った様だ、路面が濡れていた。
 駐車場横の小さな花壇。”ツボサンゴ”の花が咲いている。小さな釣鐘形(壺形)の朱赤色の花が鈴なりに咲いている。花と言ったが、朱赤色花弁の様に見えるのは萼(がく)、だから長く咲いているように見える。見つけた場所は庭木の下、半日陰~日陰・水はけの良い場所が好みのようだ。
 ”ツボサンゴ”の魅力は、花よりも葉色の美しさにある・・今日はお花。葉はハート型・円形で、葉色に銅葉や銀白色・琥珀色などがあり、カラーリーフプランツとして人気がある。
 名(ツボサンゴ)の由来は、花姿(壺形)と花色(真っ赤な珊瑚色)から・
 ツボサンゴ(壺珊瑚)
 別名:ヒューケラ(ホイヘラ)
 英名:Coral bells
 学名:Heuchera sanguinea
 ユキノシタ科ツボサンゴ属
 耐寒性常緑宿根草(多年草)
 北アメリカ原産
 開花時期は5月~9月
 花は小豆大(径数mm)の釣鐘形(壺形)
 花色は朱赤色、白・桃・淡緑色もある
 葉色には、銅葉や銀白色・琥珀色などのがある。葉色の美しさからカラーリーフプランツとして人気がある。


植物の耐塩性を強化する化合物を新たに発見

2020-06-01 | 科学・技術
 理化学研究所環境資源科学研究センター植物ゲノム発現研究チームの関原明チームリーダー、佐古香織特別研究員(研究当時)らの共同研究グループは、新しい化合物「FSL0260」が植物の耐塩性を強化することを発見した。本研究成果は、人体への悪影響が少なく、農作物の耐塩性を強化する肥料や農薬の開発に貢献すると期待できる。
 塩害は、かんがい農業による塩類集積、または海沿いの地域で発生し、農作物の生産に大きな悪影響を及ぼしている。これまで、農作物の耐塩性を高めるために品種改良が行われてきましたが、育種的な方法では時間がかかるという問題があった。
 共同研究グループは、理研NPDepo化合物ライブラリーを用いて、植物の耐塩性を強化する化合物の探索(スクリーニング)を実施した結果、新規化合物FSL0260の同定に成功した。さらにFSL0260は、ミトコンドリア電子伝達系の複合体Ⅰを阻害することで、ミトコンドリア代替呼吸系を活性化し、高塩ストレスで発生する活性酸素の蓄積が抑制された結果、植物の耐塩性が強化されることを明らかにした。
 本研究は、科学雑誌「Scientific Reports」オンライン版(5月26日付)に掲載。
 背景
 塩害は、かんがい農業による塩類集積、または海沿いの地域で発生し、農作物の生育や収量低下をもたらす環境ストレスである。今後、世界の人口が100億人に達すると予測されていることから、持続的な食糧生産を維持するためには、塩害に強い農作物や肥料の開発など早急な問題解決が求められている。
 これまで、農作物の耐塩性を高めるためには主に品種改良が行われてきたが、これには時間がかかる。そこで、共同研究グループは、植物に化合物を散布することで耐塩性を強化することを目指して、そのような化合物の探索を行った。
 研究手法と成果
 共同研究グループは、耐塩性を強化する化合物を同定するため、理研NPDepo化合物ライブラリー(405化合物)とモデル植物である双子葉植物のシロイヌナズナを用いて、耐塩性を強化する化合物の探索(スクリーニング)を行った。その結果、「FSL0260」という新規化合物が耐塩性を強化することが分かった。
 次に、FSL0260による耐塩性強化のメカニズムを明らかにするために、網羅的な遺伝子発現解析を行った。その結果、ミトコンドリア電子伝達系のバイパスとして機能するミトコンドリア代替呼吸系の遺伝子発現が、FSL0260処理によって増加することが分かった。そこで、ミトコンドリア電子伝達系の活性を調べたところ、複合体Ⅰの活性がFSL0260処理によって阻害されることを見いだした。一方、動物ミトコンドリアでは阻害されなかったことから、FSL0260の機能は植物ミトコンドリア特異的である可能性が示された。
 また、ミトコンドリア代替呼吸系は、活性酸素の発生抑制に働くと考えられている。実際に、高塩ストレスにさらされたシロイヌナズナをFSL0260で処理をしたところ、活性酸素の蓄積が抑制されることが分かった。以上の結果から、FSL0260は、ミトコンドリア電子伝達系の複合体Ⅰを阻害することで、ミトコンドリア代替呼吸系を活性化し、高塩ストレスで発生する活性酸素の蓄積が抑制された結果、植物の耐塩性が強化されることが明らかになった。さらに、単子葉植物のイネでも、FSL0260処理によって活性酸素の蓄積が抑制されたことから、単子葉植物・双子葉植物のいずれにおいても、FSL0260は耐塩性を強化することを確認した。
 今後の期待
 今回の研究から、新しいミトコンドリア阻害剤FSL0260が植物の耐塩性を強化することを発見した。FSL0260による阻害効果は植物特異的であることから、本成果を応用すれば、人体への毒性が低く、農作物を塩害に強くする肥料や農薬の開発、それに伴う収量増産につながると期待できる。
 ◆補足説明
 〇NPDepo化合物ライブラリー
 天然物化学を基礎とした理研天然化合物バンク。微生物(放線菌、糸状菌など)、植物の二次代謝化合物を精製単離するとともに、天然化合物の誘導体や類縁体、人工合成化合物などを収集して、約4万化合物をライブラリー化したもの。
 〇ミトコンドリア電子伝達系、複合体Ⅰ
 「ミトコンドリア電子伝達系」ではⅠからIVの複合体を電子が移動することで、プロトン(水素イオン)勾配を形成し、そのプロトン駆動力によってATPを産生する系である。「複合体Ⅰ」は、解糖系およびクエン酸回路から得られたNADHより電子を受け取り、ユビキノンにわたす反応を行う。ストレスなどによって電子伝達系が不安定になると、活性酸素が産生される。
 〇ミトコンドリア代替呼吸系
 ミトコンドリア代替呼吸系は電子伝達系のバイパスとして機能し、活性酸素の発生抑制に働くと考えられている。
 〇活性酸素
 化学的に活性になった状態の酸素。生体内のエネルギー代謝や感染症の防御過程で発生するほか、高塩濃度、高温、乾燥、強光などの環境ストレスによっても発生する。さまざまな生命現象に重要な役割を果たすが、過剰な蓄積は細胞に対して毒性を持つ。

 天気は晴れ。明日は夜から雨の予想、畑での水やりはせず。
 歩道横の生垣は”ベニカナメモチ”。”ベニカナメモチ”は春の新芽・若葉が赤くなる、秋に街路樹が紅葉となったかの様である。でも紅色なのは新芽の頃で、次第に緑となる。刈り込みをすると新芽が出るが、この新芽・若葉も赤い。赤くなるは若葉を紫外線から守るための”アントシアニン”(赤い色素)によるもの。秋のカエデなどの紅葉もアントシアニン系の色素によるものだ。
 この”ベニカネメモチ”に小さな白い花が纏まって咲いている。例えれば、コデマリの大きな鞠(まり)と言う感じかな。緑・赤・白と色豊かで、雨あがりでは色が映える。
 ベニカナメモチ(紅要黐)
 別名:アカメモチ(赤芽黐))
 学名:Photinia glabra
 バラ科カナメモチ属
 常緑広葉樹
 樹高は3m~5m
 開花期は4月~6月
 花は小さい(7mm~8mm位)5弁花で白色
 ★アントシアニン
 アントシアン(果実や花の赤、青、紫を示す水溶性色素) のうちの一つ。高等植物では普遍的な物質で、花・果実の色を表す。フラボノイドの一種で、抗酸化物質として知られる。