理化学研究所バイオリソース研究センターiPS細胞高次特性解析開発チームの林洋平チームリーダー、荒井優研究パートタイマー(東京理科大学薬学研究科薬科学専攻修士課程2年)らの共同研究グループは、遺伝性腎臓病の一つである「若年性ネフロン癆(ろう)」患者由来のiPS細胞(人工多能性幹細胞)の樹立に成功した。
本研究成果は、難病とされる若年性ネフロン癆の病態モデル細胞の開発を通した、発症機序の解明や治療法の開発に貢献すると期待できる。
ヒトiPS細胞は再生医療の実現だけではなく、さまざまな疾患の病態解析や治療法開発にも有効なツールであると考えられている。若年性ネフロン癆では腎移植以外に有効な治療法がないことから、発症機序解明のために病態モデル細胞のもとになる患者由来のiPS細胞の樹立が望まれてきた。
共同研究グループは、発症に関わることが知られているNPHP1遺伝子に欠失変異がある2人の若年性ネフロン癆患者の末梢血からiPS細胞の樹立に成功した。このiPS細胞の特性を解析したところ、NPHP1遺伝子の欠失変異が保持されており、その結果、遺伝子発現が消失していること、iPS細胞の特徴である自己複製能と多能性が維持されていることを確認した。
本研究は、科学雑誌「Stem Cell Research」オンライン版(4月29日付)に掲載。
背景
ヒトiPS細胞(人工多能性幹細胞)は再生医療だけでなく、さまざまな疾患の病態解析や治療法の開発にも有効なツールであると、注目を集めている。「若年性ネフロン癆(ろう)」は遺伝性の腎臓疾患で、腎髄質に嚢胞(のうほう)が形成され、進行すると腎線維化、末期には腎不全を引き起こす。日本国内には約500人の患者がおり、腎移植以外に有効な治療法がないことから、発症機序の解明と新しい治療法の開発が望まれてきた。
近畿大学医学部小児科学教室は、2015年に日本人の若年性ネフロン癆患者では、「NPHP1遺伝子」の欠失変異が高い頻度で見られることを報告した。しかし、NPHP1遺伝子の欠失変異から発症に至る機序には不明な点が多いため、病態モデルを使った研究が必要である。
若年性ネフロン癆の病態モデル動物をつくる試みとして、NPHP1遺伝子を欠失変異させたマウスが以前にも報告されていたが、そのマウスには腎臓の異常が見られず、病態モデルにはならなかった。もし、患者由来のiPS細胞が樹立されれば、そのiPS細胞から分化誘導した細胞を病態モデル細胞として研究対象とすることが可能になる。
究手法と成果
若年性ネフロン癆患者由来のiPS細胞を樹立するため、共同研究グループは、近畿大学医学部小児科学教室で診療中のNPHP1遺伝子に欠失変異がある2人の同患者から末梢血を採取した。
次に、京都大学iPS細胞研究所(CiRA)において、採取した末梢血からiPS細胞を作製した。その作製には、2014年にCiRA で開発された方法を用いた。患者由来の抹消血から分離した白血球の一種である単核球に、エピソーマルプラスミドベクターを用いてiPS細胞を作製した結果、6株のiPS細胞株の樹立に成功した。
樹立しiPS細胞株は、配布機関である理研バイオリソース研究センター(BRC)細胞材料開発室(理研細胞バンク)へと寄託され、理研細胞バンクは、これらのiPS細胞に対する品質検査と、拡大生産するための培養を行った。その後、三つの研究室からなる特性解析研究グループ(理研BRC iPS細胞高次特性解析開発チーム、理研生命機能科学研究センター(BDR)ヒト器官形成研究チーム、東京理科大学薬学部生命創薬科学科)へ提供した。
特性解析研究グループが、このiPS細胞の特性を解析したところ、NPHP1遺伝子に欠失変異が保持されており、その結果、この遺伝子の発現が消失していること、iPS細胞の特徴である自己複製能と多能性が維持されていることを確認した。
今後の期待
本研究成果は、今後、若年性ネフロン癆の発症機序の解明や新しい治療法の開発に役立てられると期待できる。
また、本研究における多施設連携の枠組みを通して、医療機関・樹立機関・配布機関・解析機関(研究室)がそれぞれ連携することができれば、多くの難病に対するiPS細胞を用いた研究がより効率的に進むと期待できる。
◆補足説明
〇iPS細胞(人工多能性幹細胞)、多能性
脊椎動物の初期胚が持つ、全ての種類の体細胞へ分化する能力を多能性という。多能性を持ち、試験管内で培養して無限に増やすことができる細胞を多能性幹細胞という。iPS細胞は、成人の皮膚細胞などの体細胞・組織から採取した細胞にOct3、Sox2、Klf4遺伝子などを導入して初期化し多能性を持たせ、人工的に作製した多能性幹細胞である。
〇NPHP1遺伝子
ヒト2番染色体上に位置し、ネフロシスチン1タンパク質をコードする遺伝子。NPHP1遺伝子の欠失・変異は、若年性ネフロン癆の主要な遺伝的要因であることが知られている。このタンパク質は、細胞内で繊毛形成に関与していることが判明しているが、このタンパク質の機能不全がどのように若年性ネフロン癆の発症につながるかは不明な点が多い。
〇欠失変異
染色体上に存在する遺伝子(群)のDNA配列の一部が欠けてしまうこと。このことにより、特定の遺伝子(群)の発現がなくなり、細胞の機能異常や疾患の原因につながる。
〇自己複製能
iPS細胞などの多能性幹細胞は多分化能を維持したまま、ほぼ無限に増殖できる能力を持つ。これを自己複製能と呼ぶ。健常人由来や難病患者由来のiPS細胞は、自己複製能を維持し続けることができるため、研究、創薬、再生医療へと安定的に供給することが可能であり、バイオリソースとして、非常に価値が高い。
〇単核球
血液細胞のうちの、白血球の一種である。リンパ球と単球を合わせた総称である。技術的には、全血サンプルから遠心分離によって、濃縮回収することができる。
〇エピソーマルプラスミドベクター
従来のプラスミドDNAベクターを改変して、遺伝子導入した細胞内で、ゲノムDNAに組み込まれなくても、持続的に遺伝子発現を維持できるようにしたベクターの種類。技術的には、EBウイルス(エプスタイン・バール・ウイルス)由来のDNA複製を維持するためのEBNA1タンパク質をコードする遺伝子と、そこから発現されたEBNA1タンパク質が結合でき、ベクターのDNA複製起点となるOriP配列を同一ベクター内に構築してある。
晴れ。早朝に少し降った様だ、土がチョット濡れていた。
畑の隅の花畑。”オルレア”が満開に咲いている。コロニー状に纏まって咲き、見応えが素晴らしい。開花の期間がとても長く、4月から咲いている。今年も同じ場所で咲いている、昨年の種(こぼれ種)からか・・本来は多年草(宿根草)だが、夏の高温多湿に弱く、夏には枯れる一年草と扱われている(秋まきの一年草)。
”オルレア(オルレア・ホワイトレース)”は、花姿が非常に美しく、白いレース状の花、夏向きの花である。中央の微細な花の周りを大きな花弁を持った花がリング状に囲む、独特の形をしている。”ホワイトレースフラワー”(セリ科アンミ属、別名:ドクセリモドキ)に似ている。
オルレア
別名:オルレア・ホワイトレース、オルレア・グランディフローラ
学名:Orlaya grandiflora
セリ科オルレア属
原産地はヨーロッパ
一年草扱(常緑多年草)
開花時期は4月~7月
小さな白い花が集まり、レースのような花序
本研究成果は、難病とされる若年性ネフロン癆の病態モデル細胞の開発を通した、発症機序の解明や治療法の開発に貢献すると期待できる。
ヒトiPS細胞は再生医療の実現だけではなく、さまざまな疾患の病態解析や治療法開発にも有効なツールであると考えられている。若年性ネフロン癆では腎移植以外に有効な治療法がないことから、発症機序解明のために病態モデル細胞のもとになる患者由来のiPS細胞の樹立が望まれてきた。
共同研究グループは、発症に関わることが知られているNPHP1遺伝子に欠失変異がある2人の若年性ネフロン癆患者の末梢血からiPS細胞の樹立に成功した。このiPS細胞の特性を解析したところ、NPHP1遺伝子の欠失変異が保持されており、その結果、遺伝子発現が消失していること、iPS細胞の特徴である自己複製能と多能性が維持されていることを確認した。
本研究は、科学雑誌「Stem Cell Research」オンライン版(4月29日付)に掲載。
背景
ヒトiPS細胞(人工多能性幹細胞)は再生医療だけでなく、さまざまな疾患の病態解析や治療法の開発にも有効なツールであると、注目を集めている。「若年性ネフロン癆(ろう)」は遺伝性の腎臓疾患で、腎髄質に嚢胞(のうほう)が形成され、進行すると腎線維化、末期には腎不全を引き起こす。日本国内には約500人の患者がおり、腎移植以外に有効な治療法がないことから、発症機序の解明と新しい治療法の開発が望まれてきた。
近畿大学医学部小児科学教室は、2015年に日本人の若年性ネフロン癆患者では、「NPHP1遺伝子」の欠失変異が高い頻度で見られることを報告した。しかし、NPHP1遺伝子の欠失変異から発症に至る機序には不明な点が多いため、病態モデルを使った研究が必要である。
若年性ネフロン癆の病態モデル動物をつくる試みとして、NPHP1遺伝子を欠失変異させたマウスが以前にも報告されていたが、そのマウスには腎臓の異常が見られず、病態モデルにはならなかった。もし、患者由来のiPS細胞が樹立されれば、そのiPS細胞から分化誘導した細胞を病態モデル細胞として研究対象とすることが可能になる。
究手法と成果
若年性ネフロン癆患者由来のiPS細胞を樹立するため、共同研究グループは、近畿大学医学部小児科学教室で診療中のNPHP1遺伝子に欠失変異がある2人の同患者から末梢血を採取した。
次に、京都大学iPS細胞研究所(CiRA)において、採取した末梢血からiPS細胞を作製した。その作製には、2014年にCiRA で開発された方法を用いた。患者由来の抹消血から分離した白血球の一種である単核球に、エピソーマルプラスミドベクターを用いてiPS細胞を作製した結果、6株のiPS細胞株の樹立に成功した。
樹立しiPS細胞株は、配布機関である理研バイオリソース研究センター(BRC)細胞材料開発室(理研細胞バンク)へと寄託され、理研細胞バンクは、これらのiPS細胞に対する品質検査と、拡大生産するための培養を行った。その後、三つの研究室からなる特性解析研究グループ(理研BRC iPS細胞高次特性解析開発チーム、理研生命機能科学研究センター(BDR)ヒト器官形成研究チーム、東京理科大学薬学部生命創薬科学科)へ提供した。
特性解析研究グループが、このiPS細胞の特性を解析したところ、NPHP1遺伝子に欠失変異が保持されており、その結果、この遺伝子の発現が消失していること、iPS細胞の特徴である自己複製能と多能性が維持されていることを確認した。
今後の期待
本研究成果は、今後、若年性ネフロン癆の発症機序の解明や新しい治療法の開発に役立てられると期待できる。
また、本研究における多施設連携の枠組みを通して、医療機関・樹立機関・配布機関・解析機関(研究室)がそれぞれ連携することができれば、多くの難病に対するiPS細胞を用いた研究がより効率的に進むと期待できる。
◆補足説明
〇iPS細胞(人工多能性幹細胞)、多能性
脊椎動物の初期胚が持つ、全ての種類の体細胞へ分化する能力を多能性という。多能性を持ち、試験管内で培養して無限に増やすことができる細胞を多能性幹細胞という。iPS細胞は、成人の皮膚細胞などの体細胞・組織から採取した細胞にOct3、Sox2、Klf4遺伝子などを導入して初期化し多能性を持たせ、人工的に作製した多能性幹細胞である。
〇NPHP1遺伝子
ヒト2番染色体上に位置し、ネフロシスチン1タンパク質をコードする遺伝子。NPHP1遺伝子の欠失・変異は、若年性ネフロン癆の主要な遺伝的要因であることが知られている。このタンパク質は、細胞内で繊毛形成に関与していることが判明しているが、このタンパク質の機能不全がどのように若年性ネフロン癆の発症につながるかは不明な点が多い。
〇欠失変異
染色体上に存在する遺伝子(群)のDNA配列の一部が欠けてしまうこと。このことにより、特定の遺伝子(群)の発現がなくなり、細胞の機能異常や疾患の原因につながる。
〇自己複製能
iPS細胞などの多能性幹細胞は多分化能を維持したまま、ほぼ無限に増殖できる能力を持つ。これを自己複製能と呼ぶ。健常人由来や難病患者由来のiPS細胞は、自己複製能を維持し続けることができるため、研究、創薬、再生医療へと安定的に供給することが可能であり、バイオリソースとして、非常に価値が高い。
〇単核球
血液細胞のうちの、白血球の一種である。リンパ球と単球を合わせた総称である。技術的には、全血サンプルから遠心分離によって、濃縮回収することができる。
〇エピソーマルプラスミドベクター
従来のプラスミドDNAベクターを改変して、遺伝子導入した細胞内で、ゲノムDNAに組み込まれなくても、持続的に遺伝子発現を維持できるようにしたベクターの種類。技術的には、EBウイルス(エプスタイン・バール・ウイルス)由来のDNA複製を維持するためのEBNA1タンパク質をコードする遺伝子と、そこから発現されたEBNA1タンパク質が結合でき、ベクターのDNA複製起点となるOriP配列を同一ベクター内に構築してある。
晴れ。早朝に少し降った様だ、土がチョット濡れていた。
畑の隅の花畑。”オルレア”が満開に咲いている。コロニー状に纏まって咲き、見応えが素晴らしい。開花の期間がとても長く、4月から咲いている。今年も同じ場所で咲いている、昨年の種(こぼれ種)からか・・本来は多年草(宿根草)だが、夏の高温多湿に弱く、夏には枯れる一年草と扱われている(秋まきの一年草)。
”オルレア(オルレア・ホワイトレース)”は、花姿が非常に美しく、白いレース状の花、夏向きの花である。中央の微細な花の周りを大きな花弁を持った花がリング状に囲む、独特の形をしている。”ホワイトレースフラワー”(セリ科アンミ属、別名:ドクセリモドキ)に似ている。
オルレア
別名:オルレア・ホワイトレース、オルレア・グランディフローラ
学名:Orlaya grandiflora
セリ科オルレア属
原産地はヨーロッパ
一年草扱(常緑多年草)
開花時期は4月~7月
小さな白い花が集まり、レースのような花序