産業技術総合研究所ナノ材料研究部門ナノ粒子機能設計グループ高橋顕主任研究員、南公隆主任研究員、川本徹研究グループ長らと、関東化学株式会社は共同で、大気中からアンモニアを有効に除去できる吸着材と吸着装置を開発した(1月23日発表)。さらに、実際に豚舎と家畜ふん尿の堆肥化施設に適用し、その効果を実証した。
アンモニアは肥料として必要不可欠な物質であり、世界で年間1.7 億トン(2016年)と大量に生産されている。特定悪臭物質の一つであり、特にふん尿の処理が必要な畜産現場やトイレでの悪臭の原因でもある。
アンモニアは濃度10ppmvで臭気強度4に相当する強い臭いを示し、労働環境における許容濃度は25ppmvである。また、畜産業界でもアニマルウエルフェアの観点から畜舎内の濃度を25ppmv以下に抑えることが求められている。さらに、大気中に放出されたアンモニアはPM2.5などの地球規模での環境問題の原因にもなっている。日本では、大気中に放出されるアンモニアの60%以上が畜産業(1994年度)によるものであり、その対策が喫緊の課題となっている。これまで畜舎や家畜ふん尿の堆肥化施設から排出される悪臭物質の除去技術として生物脱臭法であるバイオフィルターや土壌脱臭が一部の施設に導入されているが、多量のアンモニアを処理するには大型化・大面積化が必要であり、よりコンパクトな装置が求められていた。
産総研は、有害物質であると同時に有用物質でもあるアンモニアの回収と再利用を目指して吸着材の研究開発を進めている。その中で、顔料としても知られるプルシアンブルーが市販の吸着材を超えるアンモニア吸着性能を示し、薄い酸で洗浄すれば再利用できる吸着材であることを見いだした(2016年5月10日発表 産総研プレスリリース)。プルシアンブルーは人が感知できない極低濃度(0.1ppmv以下)でもアンモニアを吸着でき、極低濃度のアンモニアが影響を及ぼすような美術館や水素ステーションなどでも活用が期待されている。
研究の内容
アンモニアを除去する吸着材には、豚舎や堆肥化施設から絶え間なく発生するアンモニアを除去するため、高い吸着性能が必要である。さらに、吸着後も再生して繰り返し使えることが必要である。また水分子とアンモニア分子は性質が類似しているため、空気中に水蒸気として水が共存する実際の条件でもアンモニアを吸着できる必要がある。
最適なプルシアンブルー類似体の選択と吸着装置で使用するための粒状化に取り組んだ。プルシアンブルーは鉄イオンが炭素と窒素によりジャングルジムのように三次元的につながった構造で、1ナノメートル以下の均一な穴を持つ。プルシアンブルーを構成する二種の鉄イオンを別の金属イオンに置き換えたものをプルシアンブルー類似体と呼ぶが、今回、豚舎で用いることを念頭に、再利用ができ低コストのアンモニア吸着材の開発を目指し、70種類以上のプルシアンブルー類似体を合成し、評価した。その結果、一方の鉄イオンを銅イオンで置き換えたプルシアンブルー類似体(銅プルシアンブルー)が適切であった。
銅プルシアンブルーを装置に取り付けて効率的に大気中のアンモニアを吸着させるため、銅プルシアンブルー粉体をバインダーと混合し、粒状化して、直径3~5mm程度の粒状吸着材を開発した。粒状吸着材に求められる特性は、高い吸着性能と十分な機械強度を持ち、再生作業時に破損しないことであり、これらを検証した。
粉体は実験室にて、粒状吸着材は豚舎にてアンモニア吸着量を測定し、10ppmvのアンモニアを含む25℃の空気の理論処理量(L)に換算して比較した。粉体が処理できる空気量は1gあたり5,200 Lであるのに対し、粒状吸着材は1g当たり3,900 L以上であり、粉体の74%以上の吸着性能を持つことを確かめた。粉体の試験は実験室にてアンモニア濃度10ppmv、湿度0%の空気で行い、粒状吸着材の試験は福島県にある実際の豚舎で、アンモニア吸着を阻害する水蒸気などが共存する空気(アンモニア濃度12ppmv、湿度80%)で行った。
アンモニアを吸着した粒状吸着材は、薄い酸で洗ってアンモニアを脱離させることで、再度アンモニア吸着材として利用することが可能である。アンモニア吸着と再生を繰り返した際の、粒状吸着材の耐久性を検証するために、豚舎空気からのアンモニア吸着と薄い酸での洗浄によるアンモニア脱離を繰り返し行い、洗浄時のアンモニア脱離量の変化を確認した結果、30サイクルまでの繰り返し使用が可能であった。また、30サイクル後の吸着材の形状は、特に破損はなく、再生・再使用に耐える強度であることが確認できた。
家畜ふん尿の堆肥化施設から出る排出ガスの悪臭もアンモニアが原因であり、そのアンモニア濃度は数百ppmv以上と豚舎内よりも一桁以上高い。その上、堆肥化施設からの排出ガスは湿度が高いため(ほぼ100%)、既存のアンモニア吸着材では吸着が困難であった。そこで豚舎と同様の装置でフィルターを増やして吸着を試みたところ、排出ガスのアンモニア濃度が100ppmvのとき、フィルター1枚でも40ppmvに低下し、3枚使用するとほぼ0ppmvになった。今回開発したアンモニア吸着システムは堆肥化施設の悪臭対策にも有効と分かった。
実証実験に参加している養豚業経営者は「悪臭除去の観点では、堆肥化施設も問題になることが多い。堆肥化装置に使えるなら、利用も進むのではないか。」と本技術への期待と需要の高さを語っている。
今回開発した技術は畜産現場に限らず、アンモニア発生による悪臭に困っているトイレ、介護施設、スポーツジムなどでも活用が期待される。さらに、アンモニアは腐食性ガスでもあるため、半導体製造工場での品質維持、博物館などでの展示物の維持、エネルギーとして使用する水素の精製など、さまざま場面でその除去が課題となっている。このような課題の解決にも貢献が期待される。
今後の予定
今後も豚舎内のアンモニア除去を続け、豚の発育効率の向上効果を評価する。さらに、回収したアンモニアを肥料など、他の用途に利用する方法も併せて検討を進める。
用語の説明
◆アンモニア
化学式NH3で表される無機化合物。無色透明な気体で、、刺激臭がある。農作物の肥料や窒素を含む化合物の合成原料として使用される。非常に刺激臭の強いガスであり、人は1ppm 程度という非常に低濃度のアンモニアでも感知できる。また、PM2.5の原料となる主要物質の一つあり、大気中のアンモニア濃度を低減することによりPM2.5の減少が期待される。
◆プルシアンブルー
紺青とも呼ばれ、300年以上前から使用されている青色顔料。一般的な組成式はAyFe[Fe(CN)6]x・zH2Oであり、本試験に用いた組成はK0.23Fe[Fe(CN)6]0.74・3.5H2Oである。
1704年に初めて合成され、その後葛飾北斎やゴッホらにも使用されてきた。近年は金属種や組成を変えることにより、さまざまな新しい機能を発現することが報告され、産業用途での重要性が増している。電気的に色が変えられるエレクトロクロミック材料、放射性セシウム吸着材、二次電池の電極、化学センサーなどに加え、アンモニア、アンモニウムイオン吸着材としての有用性も報告された。
◆プルシアンブルー類似体
プルシアンブルーと同様な構造を持つヘキサシアノ金属高分子錯体。一般式はAyMa[Mb(CN)6]x・zH2Oである。今回はMaに銅イオンを用いたCuHCFやMaとMbにコバルトイオンを用いたCoHCCのアンモニア吸着能を評価した。
◆PM2.5
大気中を浮遊する粒子状物質のうち、概ね大きさが2.5マイクロメートルのもの。呼吸器系への悪影響が大きいと考えられている。PM2.5の一部は、農地や畜舎から放出されたアンモニアと、工場等から排出された窒素酸化物(NOx)や硫黄酸化物(SOx)とが大気中で反応して発生する。さまざまなPM2.5原因物質の中で、アンモニアを抑制することが最もPM2.5の発生を抑制できるとの予測もある。
◆特定悪臭物質
悪臭防止法において「不快なにおいの原因となり、生活環境を損なう恐れの物質であって、政令で定めるもの」と定義されている。アンモニア、メチルメルカプタンなど、現在22物質が指定されている。
◆ppm
parts per millionの略称で大気中のガス濃度の単位の一つ。単位は無次元であるが、ガス濃度に関しては一般的には対象となるガス成分の体積とガス全体の体積の比を百万倍にしたものである。例えば、アンモニア1ppmのガス1Lの中には1/1,000,000Lのアンモニアが存在する。
◆ppmv
100万体積分率と呼ばれるガス濃度の単位。10,000 ppmvが1体積%に等しい。
◆臭気強度
臭いの強さを0?5の6段階で表す臭気強度表示法による臭いの指標。0は無臭、1はやっと感知できる臭いを、2は何の臭いか分かる弱い臭いを、3は楽に感知できる臭いを、4は強い臭いを、5は強烈な臭いを表す。例えば悪臭防止法では臭気強度2.5?3.5に対応する物質濃度が敷地境界線の規制基準の範囲として定められている。アンモニアの場合は、臭気強度2.5が1 ppmv、3.5 が5 ppmvである。畜舎内で5 ppmvであれば敷地境界における基準は十分に達成できると考えられる。
◆許容濃度
ここでは日本産業衛生学会が勧告する有害物質の許容濃度。労働者が一日8時間週に40時間程度、肉体的に激しくない労働強度で有害物質に暴露される場合に、該当有害物質の平均暴露濃度がこの数値以下であれば、ほとんど全ての労働者に健康上の悪い影響が見られないと判断される濃度。
※日本産業衛生学会「許容濃度等の勧告(2018年度)」平成30年5月17日(産業衛生学雑誌2018: 60(5):116-148)から引用
◆アニマルウエルフェア
日本では「動物福祉」や「家畜福祉」と訳される概念。畜産業界においては、家畜が感受性のある生き物であるとし、「生まれてから死ぬまでの間、限りなく行動欲求が満たされストレスを受けない健康的な生活ができる飼育方法」を目指す畜産のあり方を示す。その結果として畜産物の安全や生産性の向上にもつながることが期待されている。
◆バイオフィルター
生物を利用した脱臭フィルター。対象となる物質を分解する微生物をフィルター内で繁殖させる。分解には比較的時間がかかるため、大型のフィルターが必要になる。
◆土壌脱臭
土壌をフィルターとして用いる脱臭法。対象となる物質が土壌に含まれる水分や鉱物に一旦吸着された後、土壌に含まれる微生物により分解される。
◆配位
鉄等の遷移金属イオンに、水やアンモニア等の非共有電子を持つ配位子が結合すること。一般的な結合と異なり、結合に関与する2つの電子が配位子側から供給される。
今日の天気は曇り。午前中に小雨がパラパラと。最高気温は10℃前後で、風が少し強いので、寒い。この寒さは、お盆までかな(お盆は、3月18日~3月24日)・・希望。
梅田川沿い・橋の側の”サンシュユ”の花。葉が出る前に黄色の小さい花を咲かせ、枝先に花が満開だ。春の到来を知らせる。
木全体を覆う花が早春の光を浴びて黄金色に輝くことから、別名に春黄金花(はるこがねばな)がある。
秋に果実を付ける。果実はグミに似た楕円形で赤い色で光沢がある。この様子から、別名に秋珊瑚(あきさんご)がある。。江戸中期に朝鮮から渡来し、薬用植物として栽培された。今でもそのまま食べられ、滋養・強壮の薬効がある山茱萸酒を作る。名の”サンシュユ”は中国名「山茱萸」を音読みしたもの。茱萸とはグミのこと。
サンシュユ(山茱萸 )
別名:春黄金花(はるこがねばな)、秋珊瑚(あきさんご)、山茱萸(やまぐみ)
Japanese cornel(ジャパニーズ・コーネル)
学名:Cornus officinalis Siebold et Zucc
ミズキ科ミズキ属
原産地は中国・朝鮮、薬用植物として
江戸中期(享保七年:1722年)に朝鮮から渡来
落葉小高木
開花時期は2月~4月
秋(11月頃)にグミのような赤い実に熟す