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■写真展 “Future is in the Past” 未来は過去にある。 (2024年1月20日―2月25日、札幌)

2024年02月20日 23時59分59秒 | 展覧会の紹介-複数ジャンル
 札幌国際芸術祭SIAF2024の公募プロジェクト。
 19人が出品しており、過半数は札幌大谷大で写真を学んだ学生や卒業生。大判カメラで撮った大きなプリントを、古い家屋の廊下などに展示しています。
 ただ、やはり次の6人が圧巻でした。

 大橋鉄郎
 今 義典
 酒井広司
 鈴木涼子
 露口啓二
 畑江俊明

 名前だけ見ても「そりゃそうだよな」と思っちゃうわけですが。

 このうち大橋さんと鈴木さんは「写真展」というより、写真を素材にしたアートというほうが適切かもしれません。


 近年めざましく活動している大橋さんは、インターネットなどにある画像を写真にプリントアウトして紙工作のように組み立てる作品などを出品している(ほかにもピースサインのシリーズなどがありますが、ここでは省略)。
 イメージは本物なのに、できあがったものは薄っぺらくニセモノ的という立体は、いかにも現代を象徴しているようです。

 今回大橋さんが組み上げて畳の部屋に据え付けたのは、鉄骨の作品と、芦別にある坑夫像の作品。

 坑夫の作品は、最初見たとき、あいちトリエンナーレ2019でレニエール・レイバ・ノボ(キューバ)が引用していた「労働者とコルホーズの女性」を思い出してしまった。

 わきに、小さいモニターがあり、黄色いカナリアや、戦後の労働運動のフィルム、大橋さんによる(と思われる)テキストが流れている。
 この像はもともと1945年7月、戦意高揚・生産増強の意をこめてつくられたもの。芦別市頼城の三井芦別炭鉱前にあったが、セメントだかコンクリート製のため老朽化が著しく、1997年に石彫として再建されたもの。それを写真に撮って、再構築したようだ。

 大橋さんは坑夫とカナリアを引き合いに出して、アーティストも社会にとってのカナリアといわれる―などと、解説で書いている。
 もっとも、これまでも大橋さんの作品を見てきた筆者は、この品行方正さにはだまされないぞとも思う。
 だいたい坑夫像からして、同じデザインでありながら、戦中(の短い時期)には戦争推進の意味を持ち、戦後は炭鉱労働者のシンボルとして機能していたのだ。180°意味が反転した像の、さらにフェイクともいえるこの「像」は、歴史の持つ複雑な側面を提示しているともいえるし、そもそものイデオロギーのもつむなしさを示唆しているといえるかもしれない。

 
 
 
長く札幌を拠点とし、先年、四国に移住したベテラン写真家の露口さん。
 2014年、第1回の札幌国際芸術祭の関連企画では意欲的な作品をたくさん発表していた。
 道内のアイヌ語地名をテーマにした大作などが、道立近代美術館に収蔵されている。

 さて、今回の題は次の通り。

 「住むこと/建築」―シリーズ「移住」より―

 会場にあった紙をそのまま書く。

 シリーズ「移住」は、明治以降の国民国家形成期から現在にいたる日本の近代化の過程で発生した「移住」という事態を対象としています。このシリーズは「住む家」としての「建築」への視点を含んでいます。今回はさまざまな状況下での内地からの北海道への植民、福島原発事故による周辺住民の強制退去にかかわる地域の人びとの「住居」を撮った写真を展示しています。

 6組12点のカラー写真は、パッと見には普通の家あるいはなんのへんてつもない住宅地にレンズを向けた大きなプリントに過ぎない。
 しかし、それぞれの写真に次のようなキャプションが添えられている。
栃木県足尾町掛水 2020→北海道佐呂間町栃木地区 2019
愛媛県別子山村 2022→北海道恩根内5線 2020
福島県双葉町北広町 2020→福島県浪江町・114号線 2019
 私たちは「ディアスポラ」という語を耳にすると、それは異国あるいは植民地における近現代の史実と思いがちだ。
 それらもきちんと後世に語り継いでいく必要があるのはいうまでもないが、日本国内においても「棄民」と称したくなるような「移住」の事例があることを、これらの写真は物語っている。
(筆者は上川管内美深町恩根内には行ったことがあるが、このような歴史があるとはまったく知らなかった。オホーツク管内佐呂間町栃木は仕事で訪れたことがある。日本近代の発展の裏面ともいえる足尾銅山事件は日本の公害の原点でもある)

  日本の近現代史といえば鈴木涼子もそれを題材にしつつ、自分史(あるいは自分の家族史)や世界情勢とも結びつけた昨年の個展が高く評価された。
 今回の展示はいわばそのダイジェスト版。
 軍医だった祖父が満洲で亡くなる前に手帳に残した手記の字を裸の背に映しだしていく映像は、個展の中核をなしていた作品だ。
 左手には、祖父母や親類縁者と思われるモノクロ写真がフレームに入れられて畳の上に並ぶ。
 小さな電球が写真を裏側から照らしている。ちょっとボルタンスキーを思わせるが、それはパクりというよりも、死者を弔う形式において先人の方式に倣ったともいえるかもしれない。
 
 

 最近、ミニスキージャンプ大会など妙なところで活躍している酒井さんは、道内の各地で、4×5の大判フィルムカメラで撮ったモノクロ写真を展示した。
 手前のM101型電車は、札幌に地下鉄が開通する前の市電全盛期に2輛連結タイプの車輛として投入され、その後1輛に改造されて昨年まで半世紀にわたって走り続けた。
 南区の交通局の施設に保存されるにあたり、下部の足まわり部分を取り外すと聞いた酒井さんが、問い合わせの上、市電の事業所で撮った写真で、「レールの上に載っている最後の勇姿」とのこと。
 ほかに廃止当日のJR留萌線の真布駅(空知管内沼田町)の古めかしい小さな駅舎の写真もある。
 ただ、酒井さんのまなざしは、凡百の鉄道オタクとはやはり異なっていて、廃止の朝も変わらないたたずまいがとらえられている。酒井さんによると、通学の男子1人の利用があり、カメラを持った鉄道ファンが1人だけ来ていたそうだ。

  
 今さんの、演劇的ともいえそうな「普通の人々」シリーズ(これもコンストラクテッドフォトというべきなのだろうか)に、500m美術館以来の再会を果たし、なんだかうれしかった。


 左に見えるのが「川口のあけみ」。
 もっとも、北海道の人に、埼玉県川口市についてのイメージを何か挙げよといっても難しいかもしれない。

 右手は「阿部マリア」。
 派遣切りや不当解雇で生活に困り、故郷の石狩で最期を迎えた男性、という設定らしい。
 それをみとるのが小学生にふんする天使阿部マリア。
 
 
 最後は、このチラシを豊平橋の上で手渡してくれた畑江さん。

 西4丁目通や創成川、南1条通など、札幌をとらえたモノクロの正方形のプリント18枚。
 見慣れた街角もいつもとちょっと変わったふうに見えてきます。 

 奥のほうに見えるのは酒井愛未さん「その先は破滅」(2014)。
 さまざまな色を反射して浮かぶシャボン玉がモチーフですが、いまにも地球が危機を迎えて割れそうだという含意が込められているのではないでしょうか。


2024年1月20日(土)~2月25日(日)午前10時~午後7時。2月14日のみ休み
札幌市旧永山武四郎邸及び旧三菱鉱業尞(中央区北2東6)


https://tetsuro-ohashi.com/

大橋鉄郎展「これって正解です(か?)」 (2021、網走) 
竣工50年 北海道百年記念塔展 井口健と「塔を下から組む」 (2020)
塔を下から組む―北海道百年記念塔に関するドローイング展(2018)


写真家の露口啓二さんが香川県に移住(2021)
反骨の創造性 (2020)


http://fremen.biz/

露口啓二「自然史―北海道/福島/徳島」+「福島の光景」 (2014、画像なし) ■続き
【告知】SNOW SCAPE MOERE 再生する風景(2012、画像なし)
札幌アートウォーク (谷口雅春著、露口啓二写真)
「露口啓二写真集」
第25回東川賞受賞作家展 (2009、画像なし)
札幌の美術2003 (画像なし)


http://www.ryokobo.com/

2023年のベスト3 (追記あり)
反骨の創造性 (2020)
New Eyes 2017 家族の肖像(画像なし)=鈴木さん
すすきの夜のトリエンナーレ (2014、画像なし)
【告知】鈴木涼子展 MAGNOLIA―マグノリア― (2011)
鈴木涼子さん、「DOMANI 明日」展に登場(東京・国立新美術館。12月11日~2011年1月23日)
水脈の肖像09-日本と韓国、二つの今日 (2009年12月)
水脈の肖像09-日本と韓国、二つの今日 (2009)
「Interaction」ドイツ展 帰国展 (2006、画像なし)
■05年の個展
■挿絵展(2002)
■リレーション・夕張(2002、画像なし)
札幌の美術2002 -20人の試み展 (画像なし)
鈴木涼子展 (2001)


□GRAYTONE PHOTOGRAPHS http://www.graytone.jp/

小樽写真同好会 堂堂展 vol.32 (2023)
(3)ゲストハウス×ギャラリープロジェクト Sapporo ARTrip「アートは旅の入り口」(2017)
酒井広司展「北海道の旅」 (2016)
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さっぽろフォトステージPart2 (2009年)
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札幌の美術2004
北海道・現代写真家たちの眼2001「青」



多面体の誘惑 再び    畑江俊明 個展2023
こころのにわ (2019)
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