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■木嶋良治展-心の原風景 風土への賛辞 (2012年7月29日まで、小樽)

2012年07月29日 09時06分36秒 | 展覧会の紹介-絵画、版画、イラスト
 1936年(昭和11年)小樽生まれ、いまは札幌在住の画家の回顧展。
 油彩49点が展示されている。
 なんだかこんなにしみじみと懐かしい気持ちになれた展覧会は、久しくなかったように感じる。 

 「心の原風景」という副題のとおり、小樽、とりわけ小樽運河に取材した作品には心うたれるものがあった。

 小樽運河は、多くの画家によって描かれ、また写真家がレンズを向けてきた。
 しかし、木嶋さんの絵は、写実的な絵や、写真とは異なる姿勢で制作されている。
 いたずらにデフォルメしているのではない。引き算に引き算を重ね、簡潔な構図を作り上げているのだ。

 画家は、前景を簡略化して中景を描き込むなどして広がりのある構図とするべく、苦心を重ねている。

 ただし、画面の構成要素が減っているだけであれば、大きな絵画は時として間延びした感じになる危険性がある。  
 そこで木嶋さんは、絵の具を塗っては削り、削っては重ねるという作業を繰り返して、画面に厚みをもたせている。そして、表面は水色や白といった寒色系がほとんどでも、下地にはさまざまな色を配して、画面が薄っぺらなものにならないよう、工夫をしている。

 そこに現れた風景は、ある意味で、現実の小樽運河よりも、小樽運河らしくて、見る者の心を静かに揺り動かす。

 なぜだろう。

 それは、木嶋さんの静謐な絵画世界が、人の記憶に近いからではないか。

 いまは北運河以外、すっかり様相を一変してしまった小樽運河。
 人の心の片隅に記憶されている運河は、写真のように細部まで鮮明なものではなく、茫漠としたものではないのだろうか。
 運河に限ったことではないが、なつかしい記憶とは、むしろ、木嶋さんの絵のように再現されてくるものではないか。

 写真や、写実的な絵よりも、むしろ木嶋さんの絵のほうが、人間の精神に近い「リアル」ではないかとすら思う。



 もうひとつ興味深かったのは、欧洲滞在時の作品がまとめて展示されていたこと。
 ポスターなどに採用されている「運河(ヴェネツィア)」や、サクレ・クール寺院などで、これらは小樽や紋別に題材を得た作と異なり、暖色なども用いられている。
 水面に反射する影像を絵の主要な要素にしようと着想したのは、欧洲でではないかと思う。

 図録には、木嶋さんがどのようにして絵を制作するかの秘密があれこれ語られており、風景画に興味のある人は必読だ。
 また、そこに載っている回想を読むと、木嶋さんは道学芸大(現教育大)の特別教科(美術・工芸)教員養成課程一期生で、同級生に豊島輝彦、米谷雄平、金子忠昌、川井坦、鈴木吾郎、山田吉泰、小林繁美らがいたという。
 早逝した金子を別にすれば、よくぞこれだけ集まったといいたくなるほどの豪華メンバーである。
 豊島は道展事務局長を長く務め、米谷は道立近代美術館で生前回顧展が開かれた造形家であり、川井はいま道内で活動する日本画家の大半を育て、鈴木は中国でも大規模な個展を開いた彫刻家であり、山田も道内を代表するベテラン彫刻家で、小林は土俗的な作風で評価の高い金工家である。いずれも道展だけでなく個展やグループ展でも活動し、長く道内美術界の一翼を担ってきた面々だ。
 さらに図録には仲間として丸藤信也、豊田満、澤田範明の名も挙げられており、とりわけ層の厚い世代であったことがしのばれる。


2012年5月26日(土)~7月29日(日)9:30~5:00(入場~4:30) 月曜休み(7月16日は開館し、17、18日は休み)
市立小樽美術館(小樽市色内1)

予告記事
オホーツク文学館に展示されていた4枚の絵
小樽風景・個性の響き(2009年)
木嶋良治展(2002年)
北辺の啓示―木嶋良治画集



・JR小樽駅から約710メートル、徒歩9分
・中央バス・ジェイアール北海道バスの「高速おたる号」で「市役所通」降車、約690メートル、徒歩9分



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4 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
図録、完売済み (怜な)
2012-07-30 10:48:01
おはようございます。
木嶋良治展の図録はなく、本も入手できませんでした。心に残る絵ですね。(予定に入れながら早めに行かないのが、反省点です)

北辺の啓示―木嶋良治画集(道都書房)、どの書店も取り扱っていないようです。
北大の(北方閲覧室)に画集があり、閲覧可能とのことで、そのうちに観てきます。
返信する
残念ながら廃版です (川上@個展deスカイ)
2012-07-30 23:38:13
北辺の啓示―木嶋良治画集(道都書房)は残念ながら廃版となってしまいました。
編集人の私の手元に5,6冊がある限りで、それも用途が決まってしまっております。
あしからずご容赦くださいませ。

それにしても、今回の図録は充実しているし価格も1000円でしたから、買いそびれは惜しかったですねえ。
星田学芸員渾身編集の図録は内容の過不足なく資料としても一級の書籍だと思います。

今回の木嶋良治展は、ローアンバーの時期を終えてからのエメラルド透明色水面(幣舞橋など)を経て、作家の帰結である原風景小樽への回帰と木嶋ブルーの獲得すなわち『こころの帰郷』と規定できると思います。

会期中にかかわらず、われわれ五人展の初日の朝に見えられて上機嫌でした。
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情報をありがとうございます。 (怜な)
2012-07-31 04:52:51
川上@個展deスカイさま

北辺の啓示―木嶋良治画集の廃版、残念なことです。
情報をありがとうございます。

図録も惜しいことをしました。
会期が長いと、つい観に行く予定日を変更しがちになってしまい、反省しています。

第2回 一線北海道五人展を拝観し、独自な作品展を楽しませていただきました。

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Unknown (ねむいヤナイ@北海道美術ネット別館)
2012-07-31 08:27:47
怜なさん、川上@個展deスカイさん、こんにちは。コメントありがとうございました。
木嶋さんの画集は絶版なんですね。

小樽の美術館の図録も、川上さんのおっしゃるとおり、過不足のない、図版とテキストのバランスもとれた、すばらしいものであったと思います。

図録類は、ときどき古書店で見かけますので、いつの日か入手できるかもしれませんね。

5人展のご案内、いただいていましたが、札幌に会期中行くことができず失礼しました。
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