北海道美術ネット別館

アート、写真、書など展覧会の情報や紹介、批評、日記etc。毎日更新しています

■北海道版画協会創立50周年記念展 版・継承と刷新 (9月13日で終了)=訂正あり

2009年09月16日 00時34分41秒 | 展覧会の紹介-絵画、版画、イラスト
(文中敬称略)

 会期が終わってしまったが、50周年の節目にふさわしい、多彩な展覧会だった。
 創立期のメンバーのうち数人がまだ現役なのも、頼もしい。

 前身の札幌版画協会が設立されたのが1954年。
 浅野、浅野武彦、植田信七、尾崎志郎、大本靖、加藤哲之助、中野貫一、平野俊昌、本田明二、松倉義二、山本一也である。
 このうち、ダブル浅野と大本は今回も出品している。
 平野は90代だが、油彩画家であり、以前版画を作っていたとは知らなかった。
 また、本田と山本は彫刻家である。
 58年には、札幌版画協会主催で講習会が開かれ、銅版画を駒井哲郎、木版画を北岡文雄という豪華な講師が札幌に来ている。
 北岡は妻の実家が札幌にあり、長く全道展会員として、道内の版画界に与えた影響も大きい。

 翌59年、札幌版画協会を発展的に解消するかたちで北海道版画協会(道版協)が発足。
 第1回展の際に撮った写真が会場にあったが、若き日の渋谷栄一、一原有徳らの姿があった。
 設立総会が開かれたのは61年。初代会長は戸坂太郎。
 会員は33人だが、筆者のよく知らぬ人も多い。また、木村訓丈、森田喜昇、北浦晃といった、版画専業でなく、現在は画家として活動中の作家も交じっている。
 ダブル浅野、一原、大本、中谷有逸は会員として健在。このほか、渡会純价は会を離れたが、現役版画家として活躍中だ。

 展覧会はこれら創立期の会員の作品を前半に、現会員の作品を後半に配置。
 創立会員のなかには、道立近代美術館の所蔵品などもある。
 後になってメンバーになったが、早世した瀬戸節子、佐藤克教の作品もある。

 とりわけ、タブローの枠に収まりきらない意欲的な作品を、天井の高い部屋に集めていたのがおもしろい。1点展示が大半である公募展や、通常の協会展では、なかなかできない展示に挑んでいた人がおおかったからだ。
 いつもとがらっと作風を変え、サイコロを出品した西村一夫、床に作品を置いたナカムラアリ、天井から長大な布を垂らした橘内美貴子、人形と版を組み合わせた岡本葉子といったあたりは、通常の展覧会では見られない作品だと思う。
 また、萩原常良は、全道展退会後、札幌で作品に触れる機会が少なかったので(地元旭川では精力的に発表しているようだが)、広大なスケール感を持った山岳風景を見ることができたのはうれしかった。おそらく、写真ではこのスケール感は出ないだろう。一部を省略し、近景をやや誇張気味にすることで、迫力がいや増すのだと思う。

 気になったのは、以前は、札幌の市場やマレーシアの街角など、庶民の活気といきいきした表情を描いていた大井戸百合子の作品の暗さである。
 ミイラが雪の中で横たわっているような「死者の道」、「瀕死の男」といった作はもちろん、「カラスの巣のある家」も、ゴッホ晩年のようなある種の凄絶さを感じさせるのだ。


 この稿を書くにあたって図録を見返していたら、創立会員の景川弘道さんが昨年亡くなっていたことを、初めて知った。北見の美術・文学界の草創期から活躍されていた方である。
 ご冥福をお祈りします。


 出品作は次の通り。
(9月19日、一部訂正しました。これだけの量ですので、まだ誤記・脱落等あるかもしれません。お気づきの方はお手数ですがお知らせください。よろしくお願いします)


浅野 「里・廃坑」「里・再生」(木版他)
浅野武彦「美笛峠より」「浜の朝」「ヴェネツィア風景」「すいせん」「もくれん」(木版)
大本靖 「マッカリの山」「山麓の銀明水」(木版)
一原有徳「KIH(a)」「XII1」
中谷有逸「碑・古事記」(ステンシル)

阿部貞夫「霧氷の街」
大森亮三「秋林」
尾崎志郎「オレゴンの古い部屋」
影川弘道「夏山」
金子誠治「ある報道」
北浦晃 「風(1)」
木村訓丈「或る花のための歌」
更科 「野の人(L-2)」
渋谷栄一「MIKUとまつり」
下村保太郎「大沼湖情」
玉村和也「凍る星」
地井功雲「アイヌ酋長」
戸坂太郎「自画像」
藤島清士「北・五月のころ」
松見八百造「北の秋」
森田喜昇「美聖小校長住宅の雪景」
渡会純价「ON STAGE(E)」=この段落は図録から転写

瀬戸節子「大地」(木版)
佐藤克教「土色の午后」(木版)

木村多伎子「はなに埋れて」(同題2点)「祭前夜」「石倉のある港」
渋谷正巳「エベレスト連山 ゴーキョより」(6点組み。凹版・プラスチック版)
手島圭三郎「古木の夢(3)」「古木の夢(2)」「しまふくろうの木(2)」(木版)
萩原常良「山里の月」「山麓地帯-5」「山麓地帯-3」
阿部芳子「風結う(3)」「月待つ月」「月見る月」「月待つ月たち」(木版)
岩崎弘道「風紋1」「風紋2」「風紋3」(木版)
大井戸百合子「ヤドリギのある家」「カラスの巣のある家」「死者の道1」「死者の道2」「瀕死の男1」「瀕死の男2」(銅版・エッチング)
大野重夫「湿原晩夏」「湖畔雪景」「雪曇の樹林」「庭園眺望」(木版)
尾崎淳子「茫-黒」「蘆」(リトグラフに箔)「源流」「原野」(リトグラフ)
金沢一彦「路」「春夏秋冬」「遠い国」「銀河鉄道」(銅版・サンドブラスト・電動ペン)
兼平浩一郎「round about sunset」「Rise to the surface」「twilight」(シルクスクリーン)
木曽淑子「からくりヴィーナス」(エッチング、ドライポイント)「秋の午後」「puzzle」(エッチング)
小林大 「想い出」「天平の乱」「キミちゃん」(銅版(凹版技法))
木の瀬博美「Breath A」「Breath D」「Breath C」「Breath B」(木版、コラグラフ)
斉藤美和子「残像・X・浮遊<共存>」「残像・浮遊<共存5>」「残像・浮遊<天と地と>」「残像・ひだまり #6」(銅版)
白土薫 「雷鳴」「雷雲」「雷電」「雷雨」(インクジェットプリント)
清野知子「ゼラニア コーディー」(同題2点)「グリーン ガッデス」「オブンチア コッキナ」「ティランジア セレリアナ」(エッチング、サンドブラスト)
菅間慧一「軒持造りIII(スペイン)」「ロマネスクの教会 IV(スペイン)」「マグダラの橋(スペイン)」「スペイン巡礼の道 風景 I」「スペイン巡礼の道 風景 II」
武田輝子「dans les térèbres(4)」「la rayon toubilon」「la rumière de melange(3)」「la rumière de melange」「la lumiere rouge」「après la pluie」(銅版)
鳴海伸一「rain forest」「inocent froral」「silent froral~饗宴~」「kowloon's eye」
清水芳枝淑枝「Heroine ~overture~ 東の風~西の風」(木版、写真、ミクストメディア)
神田真俊「crack-戮-」「crack-隷-」「crack-憶-」「crack-静-」「crack-罠-」「crack-鉢-」「crack-幻-」「crack-魂-」「crack-響-」「crack-浮-」「crack-蝕-」「crack-影-」(ミクストメディア)
ナカムラアリ「Requiem」(ミクストメディア)
西村一夫「9の世界 世界の9」(シルクスクリーン)
金澤博子「水の座標軸」(14枚。シルクスクリーン)
村田由紀子「UNTITLED」(モノタイプ)
石川亨信「each angle,ecah distance,each pulse,each viewvien」(凹版)
戸山麻子「銀の森、優しい場所1」「銀の森、優しい場所2」(コラグラフ)
三島英嗣「幻の街」(コラグラフ、シルクスクリーン)
岡本葉子「永遠の今、刷&型」(一版多色刷、石こう)
種村美穂「with a tree」「canary」「forest 1」(シルクスクリーン)
橘内美貴子「アヤノイト III」「アヤノイト I」「アヤノイト IV」「アヤノイト II」「ミズノハナ」(シルクスクリーン)
田崎敦子「女神の長いまどろみ 1」「女神の長いまどろみ 2」「女神の長いまどろみ 3」「女神の長いまどろみ 4」「女神の長いまどろみ 5」(コラグラフ)
竹田道代「女神たちへ a pleasant chat」「女神たちへ dance II」「女神たちへ dance III」(ミクストメディア)
早川尚 「辰星」「冬の星座」「座標」「星の座標」(銅版)
山内敦子「YOSAKOI ソーラン 1」「YOSAKOI ソーラン 2」(木版 陰刻法)
吉田敏子「夏の終りに」(3点組み、エッチング)
鈴木なを子「日本の花」(木版)
古林玲美「連a-1」「連a-2」「連b-1」「連b-2」(エッチング)
細見浩 「知床水辺 A」「知床水辺 C」「知床羅臼岳」(木版)
宮井保郎「DAY DREAM -09」「DIMENNSIONAL -09」「CORAL REEF」(デカルコマニー(モノタイプ))
内藤克人「内と外 04-01」「内と外 04-02」「内と外 09-03」「在る」(リトグラフ)
水野恵子「水の遊び 1」「水の遊び 2」「水の遊び 3」(コラグラフ)
福岡幸一「マンテリセラス亜種の仲間」(4枚。エッチング、アクアチント、サルファチント)「パキデスカス科の仲間」(11枚・メゾチント、エッチング、アクアチント)「アカントセラス科ローマンセラス亜族の仲間」(4枚。エッチング、アクアチント)
平塚昭夫「花も虫も」(エッチング)「北の民具」(書票、合羽版)「日本の美」(合羽版)「春から」「秋へ」(合羽版)
渡邊慶子「薫風」「Gray Pearl」「月光」(木版、凸版、岩絵の具)


2009年9月2日(水)-13日(日)9:30-17:00(入場-16:00)、金曜は-19:30(入場-19:00)、月曜休み
道立近代美術館(中央区北1西17 地図D)
一般700円、高・大生500円、中学生以下・65歳以上無料

移動展「北の大地の創造者たち」=9月26日(土)-10月25日(日)10:00-17:00、月曜休み、滝川市美術自然史館(滝川市新町2)。講習会は10月3日(土)、17日(土)

□北海道版画協会 http://douhankyo.org/

北海道版画協会50周年の版画集
北海道版画協会第49回展(2008年7月)
06年12月の「作品展」
第47回展(06年)
45周年記念展(04年)
03年
02年
 =以上すべて画像なし


最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。